150.ケイラックの思惑
食事を終えお茶を飲みながらマリーとレイラは自分たちがしていたことを話す。
「なるほどな。それでジルバーを手引したのが兄貴じゃないかって疑ってるのか。」
「実際あなた達の試合を強制したのもケイラック殿下だしね。怪しむなって方が無理でしょ。」
アルは腕を組んでしばらく考える。
「兄貴は国の損益になるようなことはしないと思う。けど同時にここまで怪しい動きをしてるなら捕えて何をしたいか聞く必要が…」
「あ〜いたいた。みんなここに居たんだ。ちょっと話があるか…ら…?どうしたの、怖い顔して?」
件のケイラックが空気を読まずに入ってきた。
「スタッフには聞かせられない司令官室でいいか?」
ケイラックを含む6人は司令官室に移動する。
「さあ兄貴、何を企んでいるのか話してもらおうか?」
それぞれソファーに座りケイラックの回答を待つ。
「みんなしてそんな顔しないでよ。別に何も企んでないから。」
5人はにらむほどではないが怖い表情でケイラックを見ている。
「まず謝らないといけないんだが、オレは今回休暇でここにいるんじゃなく仕事の為にいたんだ。エルド君はその辺り気のしてたみたいだね。」
「そりゃあここで1ヶ月は長いですからね。国に帰るのも2週間かかるし。」
「それで仕事の内容なんだが、簡単に言えばテロ組織員の捕縛。」
それを聞いてその場がどよめく。
「テロとは穏やかではないですね。」
「実際テロ起こす気あるのかどうかは知らないけどね。で、その構成員の疑いがあったのがジルバー。いつの頃から構成員なのかとか、アイルアイル国が関与してるのかとかはこれからだな。」
「ジルバーがテロの構成員という証拠は…」
マリーが恐る恐る聞く。
「う〜ん…本当は見せちゃいけないんだろうけど、君たちならいいか。」
そう言って亜空間から1札の冊子を取り出す。そこにはリュトデリーン王国、キリ国でテロを起こす計画が書かれていた。
「戦争する気か。」
アルがため息をつく。
「そのつもりだったんだろうな。だがこれにアイルアイル国の政府が関わっているかはまだ不明だ。この計画書も結構おざなりでまともに成功するとは思えない。」
「でもリュトデリーンには結界が張ってあって中に入ると悪意が消えるって…」
レイラの言葉にモイラが申し訳なさそうな表情になる。
「それは国が他国に伝えている嘘です。この子の結界にそんな効果はありません。」
「一種の防衛だ。うちの国に攻撃をしようと思わせないためのね。だからみんなも黙っててくれよ。こんな事他国に漏れて侵略とかされたらたまらん。今の世代では負けることはないと思うけど次世代はわからないからね。」
ケイラックが言う。
「兄貴はジルバーが来るのを待ってずっとここにいたのか。」
「まあジルバーとも限らないが、アイルアイル国からここに来るってのは外交官の裏組織の調査でわかってたからな。オレはそいつがここに来たら接触して捕縛するって役目。ちょうどアルが忙しくしてたから荷物運びを兼ねて砦内の施設や倉庫内の把握できたのは幸いだった。
あ、そうだ。アルにこれ返しておくよ。」
そう言って懐から2本の鍵を取り出す。
「マスターキーと…どこの鍵だ?」
「ジルバーの個室の鍵だ。でないとこの冊子を持ってこれなかったからな。」
アルはため息をつく。
「個室の方はともかくマスターキーはどこでくすねてきた…まあいい…兄貴に関しては面倒になってきた…」
「同腹の兄に向かって面倒とはなんだ面倒とは。本来ならここの責任者であるアルデリックに話しても良かったんだが、忙しそうだったからな。」
それを聞いて再びため息をつくアル。
「それでも言ってくれよ…後処理が面倒くさい…」
ケイラックは3日後、ジルバーを拘束して馬車に乗ってリュトデリーン王国に帰っていった。あとから来ていた冒険者の中に外交官のメンバーを紛れ込ませていたらしくその人たちと共に。
「外交官って他の国の人と話し合いをするような仕事だと思ってたけど結構な面倒な仕事もするんだね。」
それがエルドの素直な感想だった。