148.理由ある戦い
マリーは砦内を走り、魔力探知である人物を探していた。後ろにはレイラもついてきている。
「マリー先輩。ヤッパリ見間違いだったんじゃないですか?あの2人の戦いを見ない人はいませんよ。」
マリーは扉の前で立ち止まる。そこは多くの資料をしまってある倉庫の扉だ。
「ここに居るわね。」
「ここですか?ここは普段使ってないから鍵がかかっているはず…」
マリーはドアノブに手をかけて扉を開ける。
「そんな…」
部屋の中にいたのは赤髪赤目の女性、ジルバーだった。
「あらジルバー、こんなところで何してるの?ここは冒険者進入禁止エリアよ。」
「あ、ああ。道に迷っちまってな。この部屋に誰かいるかと思って入ったんだ。倉庫だったようだが。
それよりマリーこそこんなところで何してるんだ?ここは進入禁止エリアなんだろ?」
「私は副司令官の許可を得て入っているから平気よ。」
別に許可を出した覚えはないがそういう事にしておこうとレイラは思う。
「不審な動きをした不届き者がいるから調査のためにね。」
「あ〜、それは大変だな。それじゃああたしは戻るからさ。」
ジルバーが部屋を出ていこうとするがマリーは扉の前から動かない。
「どいてくれよマリー。通れないじゃないか。」
「不審者は貴女よジルバー。」
「おいおい冗談はやめてくれよ。」
ジルバーは笑うがマリーは冷静に見据えている。
「は、あたしが怪しいと思う根拠は?」
「簡単よ。エルドとアル、あの2人の戦いを貴女が見ない事なんかあり得ないわ。」
「なんだ勘かよ。」
「いえ。何も間違ってないでしょ?」
ジルバーの目が冷たく鋭くマリーをにらみ拳をうちつける。マリーはそれを手でいなし体を回転させて回し蹴りをジルバーに食らわせた。蹴りの衝撃でジルバーは窓から外に吹き飛ばされてしまう。
「マリー先輩!」
「レイラ、この部屋の後片付けお願い。私はジルバーを捕まえてくる。」
なら外に出すような事をしないでほしいと思うレイラ。マリーは窓から出てジルバーのもとに向かった。
ジルバーが倒れていたのは闘技場のすぐ近く、歓声がここまで聞こえてくる。ジルバーはゆっくりと立ち上がった。
「なーにが、自分が気を惹きつけるから安心してやりなよだ。全くだめじゃないか。
はぁ…本当はあんたとこうやってやり合いたくなかったんだが…」
ジルバーの体に魔力が通う。
「あたしらの計画を邪魔するなら容赦しないからね!」
ジルバーはマリーを殴りつけるが先ほどと同じように受け流され蹴りを食らうが、先程と違って吹き飛ばされることはなかった。
「何企んでるかは知らないけど、さっさと終わらせるわよ。」
マリーは一気に間合いを詰め腹部に肘打ちを入れる。僅かに前かがみになったところを頭を掴んで膝を食らわす。更に仰け反ったところに足技のラッシュ。しかしジルバーは倒れることはなかった。
マリーが攻めあぐねていると後処理を終えたレイラが合流した。レイラはマリーが攻撃をしているのを見て何か違和感を感じたがそれが何なのかわからなかった。
「マリー先輩、加勢します!」
「やめてレイラ!これは私の戦い。そこで見ていて。」
マリーはレイラを静止する。
「あっはっは!いいのかマリー。あんたじゃあたしに傷を負わせることができてないんだぞ。まあもっとも、誰かが加勢しても魔物以上の防御力を誇るあたしの体に傷を負わせるのは無理だろうけどな。」
それを聞いてマリーが反応する。
「魔物以上の防御力?本当に?」
「ああ。魔力を圧縮し練り上げ、魔力強化と肉体強化魔法を同時に行うことで得た力だ。さあ、どこからでも…」
マリーは拳を振りかぶりジルバーを殴る。ジルバーはその衝撃で数歩下がる。
「な…何が…」
「貴女の体が魔物以上に硬いって言うなら攻撃を対魔物用に切り替えても大丈夫って事よね。実際一撃じゃ倒れなかったし。」
マリーは拳を握り直す。
「対魔物…あ!」
レイラは先程の違和感の正体に気がついた。今の一撃以外マリーはジルバーを殴りつけず多くを足技で攻撃していた。
「私のグローブは自作でね、手の甲に威力増強の魔法陣を、手のひらに手の甲の魔法陣の補助とグローブ保護のための魔法陣を刺繍してあるの。
それに対人戦って力の調節が難しいから苦手なのよね。おかげで戦闘授業だけはエルドにもあるにも負けるし。
さあジルバー、貴女は何発私の拳を受け止められるかな?」
マリーは構える。
「ふ…すごいなマリー…まさかこんな対応されるなんて思いもよらなかった…」
ジルバーは亜空間を開き1本の瓶を取り出す。それをマリーたちの上空に向かって投げて火球を放つ。火球によって破壊された瓶の中の液体を頭から被ってしまうマリーとレイラ。
「魔力が動かせない…まさかこの液体は!?」
「ああ、魔力を封じる謎の液体だ。魔力を封じられればあたしの敵じゃない!!」
そう言ってマリーを捕らえようとするがマリーは拳を握りジルバーを殴る。殴られたジルバーは吹き飛び、闘技場の外壁に埋まった。
「多めの水をかぶっても大丈夫そうね。」
「ま、マリー先輩今のは…」
「普通に殴っただけよ。」
「いやでも、魔力強化もできないのに…」
マリーは右腕の腕輪を見せる。
「エルドに頼んで肉体強化魔法を封入してもらったの。あとはエルドのアドバイス通り魔力動かしてみたらかなりゆっくりだけど動いたから魔法を発動させて、ああなった。」
レイラは闘技場に埋まっているジルバーを見る。起き上がってこないところから気絶してるのだろう。
「それでもあの人があんなにあっさりやられたのは納得が…」
「それは簡単よ。私の手についた水が触れたから魔力が封じられたんでしょ。」
「Sランク冒険者なのにそんな雑魚っぽいやられ方するなんて…」
マリーとレイラはジルバーを壁から出し砦からロープを持ってきて縛り上げた。
縛り終わると闘技場の観客席から歓声が聞こえなくなっていた。