147.理由なき戦い 喧嘩
「はぁ…君の兄貴ホント余計なことしてくれたよね。」
エルドは虚ろな目でアルを見る。
「それに関しちゃスマン。我が兄ながら本当に余計なことしてくれた…」
アルも虚ろな目をしている。
「もうここまで来たらやるしかないけど大丈夫なの実際?現役冒険者に対抗できる?」
「おまえ、俺だって鍛えてるしが前任者と違って前線で魔物退治してんだよ。」
「は、それで書類仕事溜めてたら意味ないね。そもそも責任者が前線に出たりしたら現場が困惑するわ。」
「お前が現場のことなんわかるかボケ。いつも自由気ままにやっててむしろ現場を困惑させるのはお前の方だ!」
「だ〜れが自由気ままだって!?アルには及ばないだろうけどコッチも考えて行動してんだよ!」
「ウソつけ!マリーに再度プロポーズするのも結局俺が背中押したからだろ!!」
「んなわけあるか!そうだずっと言いたいことがあったんだ!!!マリーに告白してたけど、別にマリーの事別に好きでもなんでもないだろ!?僕に対抗するために告白してただけじゃないか!!!」
「それこそ、んなわけあるかだ!なんの根拠があっていってんだバカ!!!?」
「勘に決まってだろ!僕の直感舐めるな!!」
「そんなんが認められるか!!」
「あ〜もぅいい!そんなに聞き分けないならもうやるしかないな。」
「俺は子供かバカ!やるしか無いようだな。」
2人は大きく肩で呼吸をする。そして呼吸が落ち着いた時2人の姿はその場から消え、中央部で殴り合っていた。お互いの顔面を殴りつけているが、反対の手でお互いガードしている。
エルドは距離を取り両手を前に出す。
「ツインドラゴン。」
氷結龍と炎爆龍を1体ずつ放つ。テンペラを経由してないため大きさは二周りは小さいが威力は大して変わらない。
「また面倒なの出しやがって。」
アルも距離を取り呪文を唱える。本来呪文を唱えなくても発動できる魔法だが、エルドとの魔力量差を考えて呪文で補う。
「エアスラッシュ。」
アルの振った両手から風の刃が2体の龍に飛んでいく。しかし龍たちはそれぞれ氷と炎をアルに向かって放ち風の刃と断ち切る。
アルは向かってくる氷と炎を後ろに飛んで避ける。正面を見るとエルドがいなかった。
「こっちだアル!!」
声のした方に顔を向けるとエルドの拳がアルの顔に打ち込まれた。アルは吹き飛ばされ地面を転がるがすぐさま起き上がる。
「お前…こんな戦い方覚えたのか…」
「まね。流石にお行儀のいい学院戦闘じゃあ冒険者はやっていけないよ。」
アルは亜空間を開いて剣を取り出す。エルドも亜空間を開き剣を出す。しかし魔剣テンペラではなく予備武器の剣だ。ちょうど今日の朝バレーンからから届けられていた。
「ち、流石にテンペラは出さないか。」
「僕とアルの勝負に第三者が入るのは無粋でしょ。」
お互いに剣を構える。アルが最初に振りかぶりエルドに切りかかる。エルドはそれを剣で受け止める。
「エレキボルト。」
エルドの剣の剣身が放電してアルを弾く。弾かれたアルは自分の背後に風のクッションを出して飛ばされるのを防ぐ。エルドは剣身に帯電させたままアルに斬りかかるがアルが放った風の刃に押し返されてしまう。
2人は剣と魔法を駆使して全力でぶつかっていく。しかしお互いに決定打を与えることができない。そして…
「エアスラッシュ!」
呪文を唱え腕を振るっても魔法は発動しなかった。
「どうやら魔力切れのようだね!ならこれでトドメだ!アクア…」
エルドが魔法を放とうとするが違和感を感じて自分の手のひらを見る。
「あ、僕も魔力切れた…テンペラ使ってるときと同じ感覚で戦ってた…」
呆然としているエルドの隙をついてアルは斬りかかる。エルドは瞬時に剣を握りなおしアルの剣を弾いた。アルの剣はアルから遠くの場所に落ちた。しかしエルドも握りが甘かったのか汗のせいか剣が手からスッポ抜け後方に飛んでいく。
2人は剣を拾いにいかず殴り合う。お互い魔力がなくなっているため食らう攻撃はそのままダメージとして蓄積される。そしてそれぞれの拳が相手の顔面を捉えた。2人はそのまま倒れ込み動かなくなってしまう。