145.レイラ
レイラはマリーとモイラに書類仕事を手伝ってもらって予想以上に早く終わらせることができたためにマリーが淹れたお茶を楽しんでいた。マリーが一息ついてこう切り出してきた。
「ところでレイラ、アルに告白する準備できた?」
それを聞いたレイラはむせこんでしまう。隣に座っていたモイラがレイラの背中を優しく撫でる。
「あの、いや、まだ、その…」
顔を赤くして戸惑うレイラ。マリーはため息をつく。
「まだ掛かりそうね。」
「あの…すいません…」
「その片思い、何年くらいっていったかしらね。」
「へぇ、そんなに長いの?」
モイラがいつものようにお菓子をつまみながら聞く。
「そうですね。私が4歳くらいのときですかね。父が商会を経営していて王家に納品に行くのについていってそこで出会った時からですかね。時々遊びにつれてってくれたりしたんですよ。」
「わぉ。思ったより長かった。」
モイラが目を丸くする。
「アルデリック司令官にはもちろんの事、エルド先輩にも言わないでくださいね。」
モイラは頷く。
「それはともかく、どうするの?」
レイラは頭を抱える。彼女がここまで追い込まれているのは勇気が出ないとか振られるのが嫌だとかいうものではなかった。
レイラが中央学園入学後、早速アルに会いに行った。その時はただ挨拶に行っただけだった。しかしタイミングが悪かった。その時のアルはマリーに告白していた。しかしマリーはそれをにべもなく無視してベンチに座って本を読んでいたエルドの隣に座り同じ様に本を読み始めていた。
レイラは失念していたことがあった。もちろん容姿、出自ともにいいアルは女友達からの人気が高かった。しかし王家という出自から恋愛対象とはあまり見られてなかった。だからレイラは安心していた。しかし逆の事を考えていなかった。アルが誰かを好きになる事もあるのにその事が頭から完全に抜けていた。
その日はアルに声をかけることなく寮の自室にこもった。翌日再び会いに行きそこでエルドとマリーを紹介してもらった。それから度々アルがマリーに告白しているところを目撃しているが結果は惨敗。正直良くそこまでできると感心していた。
結局2年の時が過ぎ、3人が卒業する日にも告白できなかった。残りの1年は進路に悩み、親と進路のことで喧嘩して家出するようにこの地にやってきた。いつか、自分の思いが伝えられるようにと。しかし入学時に見たアルの告白を見てしまったせいで躊躇している。実は他の女性職員と付き合ってるのではないかなど色々考えてしまうためこれまで告白できないでいる。
「…ら?…イラ?レイラ!」
マリーに肩を揺さぶられて顔を上げる。
「大丈夫?急にボーッとするから。」
「だ、大丈夫です…すいません…」
そうは言うがレイラはため息を吐いて思考の海に沈んで行った。