144.ケイラック
翌日、エルドははいつも通りアルの手伝いをしていた。普段はソファーに座っているケイラックは今日はいない。
エルドは書類の仕分け作業の手を止めてアルを見る。
「なあアル。ケイラック殿下はどれくらいここにいるんだ?」
突然の質問のアルはエルドを見る。
「何だ突然。そうだな…1ヶ月くらいか。」
「随分長くいるんだな。」
エルドは仕分け作業を再開した。
「兄貴はなんだかんだと自由人だからな。各地を巡ってそこの状況を父上なんかに報告してるようだし。ここも今動きが活発だから長く滞在してるんだろ。」
「なるほどね…」
「何か気になるのか?」
「いや、最近ここにいる事が少なくてあちこち歩き回ってるみたいだから。昨日もSランク冒険者エリアのジムにいたみたいだし。」
「ふぅん…兄貴がジムね…別に許可は出してるからどこ行こうが勝手だけども…」
「だからその辺でナンパしてんのかなって思ってね。」
昨日ケイラックと別れてから入ったジムには誰かがいたような感じはなかった。
「お前、人の兄貴をなんだと思ってるんだ?」
「発情期の猿?」
エルドはニヤけながら言う。
「本人に言うなよ、不敬にもほどがある。」
アルは笑いながら書類を決済済みの箱に入れる。
「さて、今日の分はこんなものか。午後からは自由でいいぞ。」
「そういやアル、こうやって手伝ってる仕事は追加報酬出るのか?」
エルドは仕分け終わった書類を箱にしまう。
「さてどうかな。こっちはちゃんと記録してるけど上が何ていうか…」
「よし、明日からアルの手伝いはやめよう。マリーならもしかしたら追加報酬でなくても手伝って…」
「冗談だ!ちゃんと出るから!!」
アルは慌てて立ち上がる。
「よっぽどマリーの手伝いがトラウマになったのね。あんなに不機嫌なの初めて見たから早々にないと思うけど。」
エルドは苦笑する。
「あ〜、お腹すいた。今日のランチなんだろう。」
エルドとアルは司令官室を出ていった。
司令官室の外側の窓の横でケイラックが腕を組み中の様子をうかがっていた。
「思ったよりエルド君は勘が働きそうだな。というかアルデリックが気にしなさすぎるのか。忙しいんだろうけど。」
ケイラックは砦内に入ろうと出入り口に向かって歩き始める。
「少し会う頻度を落すか。はぁ…あの2人に邪魔されると面倒なことになるな…だからってオレの邪魔をするようなら同腹の実弟だって容赦しないけどね。」
ケイラックの目が怪しく光る。
「それにしても…発情期の猿はないと思うんだよな〜。」
ケイラックの悲痛なつぶやきは誰に聞かれることもなかった。