140.魔物襲来
エルドは朝早くからレイラと共に砦の内側、魔物が生息する俗に北の最前線と呼んでいる草原で魔物の群れが来るのを待っていた。
「朝早くから呼び出されたと思ったら、たかだか300匹程度の魔物に2人で来ることもないだろうに。」
エルドはあくびをしながら言う。
「アルデリック司令官が魔物との戦闘では何が起こるかわからない、1人での戦闘は避け最低2人以上で臨むこと、と規則を作りましたので。」
レイラが淡々と答えた。
「アルらしいっちゃらしいな。…まだ来ないのか…」
「そうですね…予想だともう来てもおかしくないのですが…」
2人は耳を澄ます。暫くそうしていると何かの大群が走ってこちらに向かってくる音が聞こえる。
「来た来た。それじゃあ打ち合わせ通り僕が前に出るからレイラは後ろでお願いね。」
「はい。間違ってエルド先輩に攻撃当てても恨まないでくださいね。」
「ワザとじゃなきゃね。」
エルドは笑いながら言う。そして魔剣テンペラを取り出した。
「じゃ、お先。」
エルドは駆け出し魔物の群れに向かっていく。そしてお互い目視できるところまで迫った時、エルドはテンペラを振るい複数の氷結龍と炎爆龍を魔物に向かって飛ばす。
氷結龍と炎爆龍は数を増やしたために個々の大きさは手のひらサイズだが、その威力は変わりない。魔物の群れの間に入り爆発したり周囲を凍らせたりとエルドの予想以上の成果を出していた。
エルドは再びテンペラを振るい、今度は魔物たちの前に氷の壁を出現させた。爆発などで混乱している魔物たちは進行方向に壁が現れ進めなくなり更に混乱する。
「よし、レイラいいよ!!」
後方で魔力をためていたレイラに声をかける。レイラは弓を引く仕草でエルドの出現させた氷の壁の上を見る。
「サンダーアロー。」
雷の矢がレイラの手元から放たれ氷の壁の向こう側に飛んでいく。魔物たちの上空に飛んできた雷の矢はその数を増やし地上に降り注いだ。
悲鳴なのか叫び声なのかよくわからない鳴き声を聞きながら雷の矢が落ちきるのを待つ二人。
「…ちょっと多くない?」
「すいません。少し込めすぎました。」
鳴き声が聞こえなくなってからも降り注ぎ続ける様子を見てエルドは苦笑する。
やっと落ち着いたのを確認してエルドは氷の壁を消した。魔物はすべて全滅していた。
「は〜あ。やっぱ簡単な仕事だった。」
エルドは首を回しながら言う。レイラは通信魔法で砦の職員に連絡を取っている。しばらくすると十数台の馬車に乗った50人ばかしの冒険者がやってきた。
「おまたせしましたレイラ副司令官。あとは自分らがやるのでお戻りください。」
先頭にいた砦の職員と思しき人物が声をかけてくる。それ以外の冒険者たちは馬車から降りると倒れてる魔物の山に群がり食べれるやつとそうでないやつの仕分けを始め馬車に積む。
北の前線の仕事の報酬は冒険者にとっては安い方だが、こういう細かい仕事をこなすと追加の報酬が貰えるため結構人気な依頼でもある。
「では戻りましょう、エルド先輩。」
「そうだね。」
冒険者たちが魔物を仕分けしている様子を何気なく見ていたエルドはレイラと共に砦へ戻った。