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14.追放の後のファニアール家にて

 エルドを領主から退任させておよそ3週間たったファニアール家。エルドに代わり領主となったサンドレアは毎日を忙しくすごしていた。


 その日も領主の執務室で領民からの嘆願書に目を通していると扉をノックする音が聞こえ、異父弟のジェイロットが声をかけてきた。


「サンドレア姉さま、本日届いた郵便物です。」


 そう言って執務机の空いているところに郵便物を重ねるジェイロット。そしてチラリと未決済の書類の山を見る。


「エルド兄さまだったらこんなに山のように未決裁書類を積み上げたことはなかったと思いますよ。」


「領主変更でいろいろバタついてるからしょうがないわ。一通り目を通して優先順位が低いものがそこに置かれているだけだからあと一か月もあれば大丈夫よ。」


 そう言って郵便物の仕分けを始めるサンドレア。


 ジェイロットが言うことも事実であるが、サンドレアが言うこともまた事実。サンドレアは決して無能ではない。むしろこういう仕事はエルド以上にできる。


 しかし、領主交代時の領民への通達や周辺領主へのあいさつで1~2週間はまともに仕事ができていなかった。そのために未決裁書類が溜まってしまっている。


「そうですか。では僕はこれで。お話してた通り僕とミレニア姉さまは明日より他領地見学のために数日家を空けます。」


「ええ、わかってるわ。怪我なんかしないように気を付けるのよ。」


 サンドレアは郵便物から目を離さずに言う。エルドであればこういう時、席を立ち頭をなでながら見送ってくれたなとジェイロットは思い出しながら言う。そして顔を上げない姉に一礼しジェイロットは執務室を出て行った。


 ジェイロットが出て行った後もしばらく郵便物の仕分けを行うサンドレア。サンドレア個人に届いたものと領主宛との仕分けはされていたが、領主宛の中にはご機嫌伺や社交界の招待状、領民からの嘆願書など多岐にわたって届けられるためいちいち中を確認しないといけないのが面倒である。


「ふー…お義兄様は勉強のためにジェイロットに仕分けをさせていると言っていたけど、さすがに中身を確認してまでの確認はさせていなかったのね。そのうち教えないと。」


 そう言ってため息をつくが、エルドが領主の時ジェイロットは中身を確認してさらに細かく仕分けを行っていた。サンドレアが領主になってから行わなくなったのはジェイロットなりの抗議であろう。そして、エルドの時にはやっていたのになぜやらないかと問われればまた再開しようとは思っていたが、その抗議が来ることはないためジェイロットは簡単に仕分けしてサンドレアに渡していた。


 郵便物の仕分けを終え、もともと行っていた仕事を再開したころまた扉をノックする音がした。


「失礼します。退職希望の使用人のリストが出来ました。規定人数ちょうどとなりましたので一度目を通してサインをお願いします。」


 入ってきたのはトーライトとマリーであった。サンドレアは再開させたばかりの仕事を中断されたのに少し苛立ったが、優先順位で言えばこれが最初だろうとトーライトから書類を受け取る。


 もともとこの家の使用人は過剰にいたとサンドレアは感じていた。そのため世話する相手が1人減ったのだからと退職希望を募っていた。


「…意外と若い人も退職するのね。本人の希望だから別に構わないのだけれど。」


「そうですね。退職を希望するほとんどはエルド様が雇った者たちですから。そのエルド様が追い出されればこうなるのも必然かと。」


 すこし…いや、かなりとげとげしくマリーが答える。その言葉を聞いてサンドレアはマリーに目を向ける。マリーは姿勢正しくその場に立っている。


 サンドレアはこのメイドが好きではなかった。いつの間にかエルドが雇い入れ、自分の部屋付きメイドにしていた。確証はないが、夜伽もさせていたのだろうと確信している。


 そして同時にトーライトの事も苦手としている。もともとトーライトはエルドの実母に仕えていた執事だ。結婚を機にこのファニアール家にやってきた経緯を持つ。


 親が再婚し、サンドレアがファニアール家に来た時に教育係としてついていた事がある。上流家庭の血縁ではあるが一般家庭で育っていたサンドレアが上流家庭の人間として問題ないように半年ほど、それこそ鬼のように指導されていたためにいまだに苦手意識がある。


 サンドレアは書類にサインをしてトーライトに渡す。


「これで問題ないわ。あとは退職金の総額を算出しておいて。」


「承りました。失礼致します。」


 トーライトとマリーは一礼して部屋を出る。二人が頭を下げた時、サンドレアはマリーの頭髪に違和感を覚えた。


 髪型は普段通り後ろで丸めてきっちり整えていたが、生え際が若干赤みがかっていたように見えた。


 しかしマリーに限って染髪などしないだろうと思ったために見間違いだと考え、仕事に戻ることにした。


 やっとの事、その日の仕事を終え体を伸ばしていると夫のルーファスが執務室に入ってきた。


「やぁ、お仕事終わった?」


「ええ、ルーファス。ちょうど終わったところ。」


 サンドレアが立ち上がろうとするとルーファスは慌てたように駆け寄ってきてサンドレアの肩に手を置き椅子に座りなおさせる。


「あ~、肩が凝ってるね~。少しもんであげるよ。」


 そう言って肩をもみ始めるルーファス。


「あ~。ちょうどいい力加減。ほんとルーファスはマッサージが上手よね。」


「まあね~。夜のマッサージも頑張っちゃうよ~。」


 そう言って手を胸のところに持っていく。


「も~、執務室じゃ駄目よ。ちゃんと寝室でね。」


 そう言ってルーファスの手を肩に戻させる。


「ルーファスの方こそ仕事はどうなの?この間はいい取引が出来たって言っていたけど。」


「おぅ、そうそう。実は取引は問題ないんだけど、実際に商品を見たら品質が予想以上に良くて、仕入れを倍にしようかな~って思ってるんだ。」


「へ~。」


「それでさ~。少し資金を援助してほしいな~って…」


 ルーファスは肩をもみながら申し訳なさそうに言う。


「ルーファス、商才はあるものね。いいわ。ちゃんと返してくれるなら無利子で貸してあげる。」


「マジか!ありがと~。マジでいい奥様だ~!」


 ルーファスはサンドレアに頬ずりする。


「も~、ここじゃダメって言ったでしょ。」


 サンドレアはルーファスの頭を撫でながら幸せをかみしめていた。


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