139.武器
個室に戻ってきたエルド、マリー、モイラ。エルドはソファーに座り息を吐く。
「流石に疲れたみたいね。何か飲む?」
「流石にね…ちょっとテンペラに無理させたから抑えるのが大変だった…」
そっちかとマリーは思う。
「なんか甘いのない?」
「じゃあオレシア食べる?」
マリーは亜空間からオレシアの入ったかごを取り出した。エルドはカゴごと受け取りオレシアを食べる。モイラも2、3個カゴから取ってオレシアを食べる。マリーは自分の分は別に出していた。
「そういえばエルド、アレってどうしたの?」
「あれって?」
「ほら、テンペラ見つける前に使っていた剣。ファニアール邸のエルドの部屋には飾ってあって時々手入れしてるのは見てたけど、ライナス領の家には置いてないからどうしたんだろうって前から思ってて。」
「ああ、亜空間にしまってる。もともとテンペラ手に入れてから予備武器としてたからね。」
「へ〜、どういう剣なの?」
モイラがオレシアの皮だけを食べながら言う。中身はカゴに戻されていた。
エルドは亜空間を開け中から1本の県を取り出しテーブルに置く。モイラは置かれた剣をまじまじと見る。剣に関して素人のモイラでもとことんシンプルながらいい剣だと分かる。同時に剣そのものに魔力が宿ってないのも感じた。
「これは魔法剣とかじゃないんだね。」
「そうだね。僕の魔法を最大限に活用する剣だからね。」
エルドは亜空間から布を取り出す。
「出したついでに久しぶりに手入れしとくか。」
エルドは剣を持ち布で拭き始める。手入れをしているエルドはどこか嬉しそうな表情に見えた。
「何かいい思い出でもあるの?」
モイラが聞く。
「まあね。でもそれは秘密かな。」
モイラはマリーを見る。
「それは私も知らない。エルドって結構秘密にしてること多いんだ。名前の事とか。」
刃の欠けが無いか確認していたエルドはマリーを見る。
「もしかして怒ってる?」
「怒ってはいないけど、少し嫌だったかな。エルドが名前を嫌いって理由も理解できるけど…少しね…信用されてないのかなって…」
「そうか…ごめん…」
そう言ってエルドは視線を手元に戻す。
「素直でよろしい。」
マリーはエルドの頭を撫でてお茶を入れに立ち上がる。
モイラは目の前の2人の距離感が羨ましかった。自分がどんなに2人に接しようとも、どんな形であれ10年近く共にいる2人の間にある信頼関係には遠く及ばないから。
ため息をつきつつオレシアの皮をかじっていると似たようなことでマリーに聞きたいことがあったのを思い出した。
「あ、マリーにも聞きたいことがあったんだ。」
「え、なに?」
マリーが3人分のお茶を運びながら聞き返す。
「マリーが魔剣メテオ以外の武器を使ったの見たことないけど、他の武器は使えないの?」
それを聞いて2人はモイラを見つめる。何か悪いことを聞いたのかとモイラは縮こまる。
「モイラも中央学院の出だよね?」
エルドが聞いてくる。
「そりゃご覧のとおり色が出ているから中央学院を卒業したよ。」
モイラは自分の髪を一房持ち上げて言う。
「なら習ってると思うわよ。基礎の部分だし。」
マリーが言う。そう言われて記憶を探るがモイラは思い出せなかった。
「覚えてないなら教えるけど、マリーの様に両方に色が出ている人は多すぎる魔力のせいで武器がすぐに壊れるんだ。」
「へ〜、なんで?」
「基本的に武器で戦う場合武器にも魔力を流すんだけどその量が武器の素材の許容値を超えるからっていうのが定説。だから僕やモイラでもやり過ぎれば早く壊れちゃうよ。」
「なりほどね〜。」
モイラは納得したように頷く。
「モイラ、成績はいいほうだったって言ってなかったっけ?」
「卒業試験は8位だった。」
「うわすご。僕なんか20位だよ。」
今度はモイラがエルドを見る。
「あれ?成績は中の上くらいって言ってなかったっけ?」
「3年間の全体で見ればそれくらい。あくまで卒業試験が20位。ちなみにマリーは5位。アルは7位だったよ。」
「やっぱマリー成績良かったんだ。刺繍のやり方もわかりやすく教えてくれたしそうじゃないかと思ってたんだ。」
ちなみに学院の一学年の生徒の数は平均300人である。