133.レイラとアルと古酒
「そういえばレイラ。」
もう何本の酒瓶を開けたのかわからないくらい飲んでも全く酔った様子を見せないマリーがレイラに声をかける。
「はい。」
「アルに告白した?」
突然の言葉にレイラは吹き出した。
「なぁ!?何言ってるんですかマリー先輩!?」
「え〜、レイラしゃんアルデリック殿下のことがしゅきなんですか〜?」
モイラはだいぶ酔ってきたのか舌が回らなくなり始めている。
「いや、その別にそんな気持ちは…」
「あらそう。なら陛下から預かったお見合い話、アルに話してもいいわね。」
「え!?お見合い!!?」
レイラは動揺する。
「そ、お見合い。アルも26になるし結婚はさせたいっていう親心とか。割といいところのお嬢さんらしいけど、結構箱入りらしくてこんなところで勤務しているアルとうまく行くのかちょっと心配なのよね〜。」
マリーが酒を煽る。
「その点レイラだったらあると同じ勤務地だし、そもそも学生時代からずっと見てるんだからいいかなって思ったんだけどな〜。」
「レイラしゃんって一途なんでしゅね〜。」
レイラは顔を赤くしている。
「どうするの?もしなんとも思って無いなら明日朝イチで…」
「ま、待ってください!」
レイラは叫びマリーの言葉を止める。
「す、少し考えさせてください…」
「…わかったわ。でも期限は私がここにいる間だからね。」
そう言ってマリーはレイラの頭をなでた。レイラの顔はさらに赤くなる。
「うふふレイラしゃんかわい〜。」
モイラは笑いながら酒を煽る。
「ただいま〜。」
その時エルドがかなり大きい酒瓶を担いで戻ってきた。
「あ、え、エルド先輩が戻ってきたので私も失礼します!!おやすみなさい!!」
レイラは持ってきた箱に空いた酒瓶や皿を入れて部屋から出ていった。
「レイラ、顔が赤かったけどどんだけ飲ませたの?」
「別に酔って赤くなってた訳じゃないわよ。」
「そうなの?ならいいけど。」
エルドは持っていた酒瓶をテーブルにおいてソファーに座る。
「どうしたのこれ?」
「アルから貰ってきた。前司令官のプライベートルームに酒がたくさん置いてあってそこにあった。あるじゃ価値もわからないだろうから適当なこと言ってね。」
「そんなに価値があるの?」
「価値があるなんて、そんな言葉で収まるほどの安いものじゃない。その昔酒の女神に製法を聞いて作られ始めた酒さ。100年くらいは普通に作られて一般家庭でも手が出せるくらいのものだったんだけど、あるときその製法が失われてね、それ以降作れなくなったんだって。
それから価値はうなぎのぼり。今正確にいくらで取引されるのかは知らないけど、一番最初に作られたものは国家予算並みの価格で取引されてるみたい。」
「そ、そんなに…」
マリーはギョッとして酒瓶を見る。
「でもそんなに古い物なら飲めないんじゃないの?」
「そもそもこの酒、寝かせれば寝かせるほどうまくなるらしいよ。そしてこれは一番最初に作られたもののうちの一本。多分この世に5本もないうちの1本だよ。」
マリーはもう言葉が出なかった。
「でもま、今日は飲まないでおこう。僕も結構飲んできちゃったし、味がまともにわからないともったいないからね。」
そう言ってエルドは酒瓶を亜空間にしまった。エルドが亜空間を閉じるとマリーは息をつく。
「国家予算並みのお酒…たしかに飲んでみたいかも。でも珍しいね。エルドが特定のお酒を飲みたいっていうの。」
「そうかもね。でもあれだけは本当に飲みたかったんだ…ずっと父さんが話してくれてたから…」
エルドは遠い目をした。
「さて明日も忙しいだろうしそろそろ寝よう…あれ?モイラは?」
「エルドが熱弁している間にトイレ行ったよ。」
そう言ってるうちにモイラはトイレから出てきた。
「どうしたの二人とも〜?あ、トイレ入りたかった〜?今空いたよ〜。」
「いや、そろそろ寝ようかって話。」
エルドは立ち上がり体を伸ばす。そしてベッドの方を向く。
「あ!エルドだめだよ〜。お風呂まだ入ってないよ〜。」
「よってんだから風呂なんか入ったら危ないだろ。」
「大丈夫だよ〜。いま回復魔法循環させてるからすぐ酔いが覚めるよ〜。」
「ふふ、私は酔ってないから入っちゃおうかな。」
マリーが浴室に湯を貼りに行く。
「ほら〜、一人はいるんだからみんなで入ろううよ〜。」
「はぁ。わかったよ。」
エルドはやれやれと首を振りながら了承した。