131.サシ飲み
食後、三人に割り振られた個室でのんびりしていた。マリーはベッドに座りゴシップ誌を読み、エルドは三人がけのソファーに横になりながら本の続きを読んでいる。モイラはマリーから教わったお茶に魔力を込める方法を実践しようとお茶を淹れる。
「こんな感じかな。二人ともちょっと飲んでみてくれる?」
それを聞いてエルドは体を起こすがマリーはその場から動かない。おそらくキリがいい所まで読んでしまおうということなのだろう。
「ん…うまい。なんか回復しそうなうまさ。」
エルドは一口飲み、そう評した。
「どういう意味よそれ。」
エルドの言葉が気になったのかゴシップ誌を読み終わったのか、マリーはベッドから降りて一人がけのソファーに座る。そしてモイラの淹れたお茶を飲む。
「確かに何か回復しそうな美味しさ。私のじゃこんな感じしないのに何が違うんだろう?」
「魔力の性質の違いとか?」
マリーの疑問にモイラが答える。
「あ〜、そうかもしれないわね。」
モイラは自分のお茶に角砂糖を入れる。エルドは普段三つ入れているのに二つしか入れてないことに気がついた。
モイラのお茶でまったりしていると部屋の扉を叩く音が響いた。エルドが面倒くさそうに扉を開けると少々怖い笑顔のアルがそこにいた。後ろにはレイラが何か箱を持って立っている。
「おっとこれは司令官殿…こんな時間に一体…」
そういうエルドの頭を掴むアル。
「どうだ、久しぶりに二人だけで呑まないか?少し話もあるしな。」
「二人きりで呑んだことなんか一度も…いたたたた!髪つかむな!」
アルの指はエルドの髪を絡めとっていた。
「マリー、モイラ、エルド借りてくぞ。代わりにレイラを置いていく。」
そう言ってエルドの髪を引っ張りながら部屋から連れです。
「いや、髪を引っ張りながら歩くな!ちゃんとついていくから!」
エルドが泣きそうな声でアルに言うのをレイラは聞き流して部屋に入っていった。
あるがエルドを連れてきた部屋の扉にはプレートが無く、鍵がかかっていたためにあるは鍵束を取り出して鍵を開け中にはいる。エルドも頭をさすりながら部屋に入った。
「何だここ?」
エルドは部屋に入って驚いた。部屋の壁は全て棚になっており、そこには酒瓶がズラリと並んでいた。
「前司令官のプライベートルームだ。ちなみに地下もあるぞ。」
アルが棚にあるグラスと適当な酒瓶を持って中央にあるテーブルにおいた。アルがソファーに座り、エルドは向かい側のソファーに座る。
「それで話ってのはヒュライスの件か?」
「そうだ。」
アルは二つのグラスに酒を注ぎ一つをエルドに差し出す。
「初日からトラブルを起こすな…と言いたいところなんだが、あいつを怪我させたわけでも殺したわけでもないからな。それにお前らは冒険者だ。生きるも死ぬも自己責任、だったよな。」
アルはグラスの酒を煽る。
「じゃあいいじゃん。」
「話はそこじゃなくて…気をつけろよ。」
グラスを手に取ったエルドはそのままの格好でアルを見る。
「あいつ、お前を相当恨んだみたいだ。俺に報告に来たあとなんかぶつくさ言いながら出ていったよ。お前を殺すって。」
エルドはため息をつく。
「無理だろうね。」
「あぁ、無理だろう。だからって不意を突かれないわけじゃな。だから気をつけろよ。」
「なら向こうでそういえばよかったじゃん。人の髪引っ張ってまで連れ出さなくても良かったのに。」
「お前と二人で呑みたかったんだ。言わせるな。」
それを聞いて笑顔でグラスに口をつけるエルド。そして一口飲んで慌てて酒瓶のラベルを確認する。
「どうした?」
「これ、呑んでよかったの?…価値的な意味で…」
「前任者が全部おいていったからな。規則に従ってここにあるものは俺に所有物だ。それにもう十本くらい空けてるよ。レイラや兄貴と一緒に。」
エルドは再びラベルに目を落とす。それは上流家庭でも早々手が出せない高級酒であった。