13.契約と代償
エルドはアレアミアを冷ややかににらみつける。
「ならなんで僕らの祈りを聴かなかった!?家族が苦しんでいるときに女神に祈れと、両親に言われて僕らがどれだけ祈ったか!!」
「なるほど…少し嫌悪されている気がしてたけどそういう事。」
アレアミアはあくびをしながら言う。
「単純に答えは2つ。1つはそもそもあなたの故郷はあたしの管轄外。私以外の守護の女神が守っているからあたしに言われても困る。
もう1つはあなたの願いが届いていなかった。なんで届いていないのかはわからない。女神の処理能力が追い付いていなかったのか、呪いのせいで届かなかったのか、それは今となっては確認できないわ。」
エルドは目を伏せる。
「…すまない…あんたに言ってもしょうがないのに…」
「まあしょうがないわよ。理不尽な体験をすれば、誰かに頼りたくなるし、それが聞き入れられなかったら怒りをぶつけたくもなるわ。
あたしたち女神は、そういった理不尽を受け入れなきゃいけないの。それで心身をおかしくする女神もいるんだけどね。」
アレアミアは遠い目をする。
「さ、誤解が解けたところでどうする?あなたのかかっている呪い、あなた自体にはもう効果を発揮しないだろうけど、まだ弟妹には効果自体発動していない。あたしの力で抑えることはできるよ。」
アレアミアは手をたたき、気持ちを切り替えながら言う。
「いいのか?僕はあんたに八つ当たりしたのに。」
「いいのいいの、さっき言ったようにそれを受け入れるのも女神の役目なんだから。」
おそらく本当に気にしていないのだろう。アレアミアはケラケラと笑いながら言う。
「…わかった。家族を…守ってほしい…」
「了解。これは女神との契約になるから、一度破棄するともう同じ契約は結べないから気を付けて。」
エルドはその言葉に頷く。
「それと…この契約が成立したら、あなたはこの周囲から出られなくなるわ。」
「女神の代償…か…」
今度はアレアミアが頷いた。
記録上、過去に女神と契約したものは割と多い。女神を見ることが出来ないものも、常に祈り続けることで女神と契約を交わすことが出来るようになる。
そして契約の時、女神より科せられる代償がある。それは契約の内容によりさまざまであるが、エルドの科せられる代償はこの土地への縛り付け。
これはエルド自身を媒体とし、女神の守護を得るためだとアレアミアは説明する。
「縛り付けられること自体は問題ない。ただ、正確にどのあたりまでが行動できる範囲なのかは知りたい。」
アレアミアはしばし考え、空中に地図を表示させる。そしてその地図には大きな円が描かれていた。
「大体このあたり。割と広い範囲に設定できたけどどうかな?」
地図を見ると今いる領地をほぼ覆っている。これだともう故郷には帰れないだろう。それでも弟妹が呪いを受けなくなるのなら大した代償ではない。
「問題ない。これで契約を。」
アレアミアは頷き、エルドの導き石に触れる。
「守護の女神アレアミアの名の下に、エルドの血縁者にかけられし呪いより永遠の守護を約束する。」
導き石が光り、エルドの中に女神の契約が記されるのを感じる。
「契約完了。さっき言ったように、あの円の範囲外に出れば契約は勝手に破棄されるから気を付けて。
一応、あなたが地図を見れば範囲が見えるようにしてあるから参考にするようにして。」
アレアミアは疲れたように息をつく。
「あ、ありがとう…」
「いいのいいの。これが仕事だから。ふぁ~…」
眠そうに大あくびをするアレアミア。
「少し力を使いすぎちゃったみたい…またお昼寝するから…」
言い終わるかどうかというくらいでアレアミアは寝息を立て始める。
「あ、おい!ここからどうやって出ればいいんだよ!!」
エルドは慌ててアレアミアに近づくが、気が付いた時には元の洞窟の中にいた。
「あ、あれ…夢…だったのか?」
確認のためにレコードを発動させると女神の契約はしっかりと残されていた。
「夢じゃなかった…よかったのか…これで…」
エルドは悩みながらも洞窟を出て一度町に戻った。そのあと何度か洞窟の調査を行ったが特に変わった様子もないため、エルドは女神が昼寝のために入り込んだから異変を感じたんだなと結論付ける。
しかしそんなことを依頼人に報告できるわけもなく、特に変わりはないが、今後も継続調査が必要になるかもしれないとギルドを通して報告したのであった。