129.また再会 2
「エルド〜!久しぶり〜!!」
先程までと違い満面の笑みをエルドに向けるヒュライス。両手を広げ抱きつこうとする。
「おっとごめん、前も言ったけどうちの国には挨拶の時に抱き合う文化がないからそれはやめてくれ。」
エルドは一歩下がってヒュライスの抱きつきを避ける。
「ああ、そういえばそうだったな。すまない。お互い様だがまだ冒険者やってんだな。お父さんの手伝いとかしなくていいのか?領主になるんだろ?」
ヒュライスの質問にエルドは苦笑する。
「あ〜…それなんだけどな…実は一度領主にはなったんだ。父親が亡くなってね。だけど諸事情でやめたからまた冒険者を再開させたんだ。」
ヒュライスの顔から笑顔が消えた。
「確かリュトデリーンはやめた領主は貴族扱いされないんだったな。」
「貴族制があった頃はそうらしいね。」
「は…可哀想に。平民にたぶらかされたばっかりに平民落ちか。うちの国でも時々聞くからよくある話か。」
「別にたぶらかされたわけじゃないけどね。二人とも僕の婚約者なんだ。あまり馬鹿にしないでほしいな。」
「婚約…者…あは…あはは!あははははは!平民落ちして飼っていた平民と婚約か!これは傑作だ!」
大笑いするヒュライスの襟をエルドの手がヒュライスの襟をつかむ。
「な、なんだよ…」
「言っただろ?バカにするのはやめろって。」
エルドは笑顔で答える。そして目は氷のように冷たかった。
「ヤバイ!手が出た!モイラ、エルドを引き剥がすの手伝って!」
マリーが慌ててエルドを止めに向かう。なぜ力の強いマリーが慌ててるのかよくわからないままモイラもエルドを止めに行く。
しかしマリーが羽交い締めにしても、モイラが二人を引き離そうとエルドを押してもビクともしない。そんな様子をジルバーは冷静に見ていた。
「は、離せ…平民ごときが貴族に触れていいと思ってるのか…」
ヒュライスはエルドの手を離させようとするがびくともしない。
「貴族?平民?お前それ、互いに国外のこの場所で通用すると本気で思ってるの?僕達は冒険者。生きるも死ぬも自己責任だよ。」
エルドは冷たい笑顔のままヒュライスを持ち上げる。
「さあ、謝罪か、死か、選びな。」
「エルドやめて!許してあげて!!」
「私達は気にしてないですから!!」
マリーとモイラの静止を無視してエルドは拳を握る。
「ふ、ふざけるな!平民ごときが!」
「謝罪なしか。なら死だな。」
エルドの拳がヒュライスの顔に打ち付けられた…かと思われたがエルドは拳を寸止めしていた。そしてため息をついてヒュライスを投げ捨てる。
「マリーとモイラに感謝しろよ。二人が止めなかったらお前は今頃首が粉々に吹っ飛んでたよ。」
マリーはへたり込んでしまった。
「大丈夫マリー?」
マリーの腕が離れたのを感じて振り返りながらエルドが聞く。
「だ、大丈夫なわけ無いでしょう!!今回は本当に心配したんだからね!!」
マリーが叫びながら言う。モイラはそんなマリーを落ち着かせようと背中を撫でていた。
「こりゃ完全に気ぃ失ってるな。」
ジルバーが倒れているヒュライスを持ち上げながら言う。
「こいつはあたしが部屋に運んでおくから。すまなかったな。あたしが呼び止めたばっかりに。」
「いや、いつかは顔を合わせてたんだ。関係ないよ。」
ジルバーの言葉にエルドが肩をすくめて答える。
「そう言ってもらえると助かるよ。それじゃあまたな。今回もお互い無事に生き残ろう。」
ジルバーはヒュライスを担ぎ行ってしまった。
「さて、僕達も行こうか。」
エルドは二人の手を取り立たせる。
「さて、トラブルのせいで時間も遅くなったし大食堂に行っちゃおうか。」
エルドが提案する。
「はぁ…そうね。そうしましょう。」
「あはは…」
トラブルの中心人物が何言ってるのかとマリーとモイラは呆れる。
ヒュライスを適当に彼の個室に放り込んでジルバーは自分の個室に戻っていた。
「あのツンケンしていたマリーが婚約か〜。まああの男となら相性はそんなに悪くないだろうね。…だからって…あたし達の計画を邪魔建てするなら容赦しないけどね…」
ジルバーは冷めた表情でテーブルにおいてある冊子を見ていた。