127.司令官倒れる
司令官室に入るとアルが机に突っ伏していた。
「あ、アルデリック司令官!?」
レイラが驚愕の声を上げる。
「あぁ、大丈夫大丈夫。少し疲れてるだけだから。」
そう言うのはソファーで紅茶を飲んでいるエルドだった。ケイラックも一緒に飲んでいる。
「マリーが言ってたとおり紅茶に魔力を込めてみたよ。たしかに多少味は良くなったけどまだマリーには劣るね。あとでどれくらいの分量で入れればいいか教えて。」
そう言っている間にレイラはアルのもとに駆け寄っていた。
「茶葉の種類との兼ね合いもあるからね〜、とりあえず大体のもので美味しくなる量は後でまとめとく。どうせミレニアにも送るんでしょ。」
「まあね。」
マリーとモイラはエルドたちの対面に座ってエルドが入れた紅茶を飲む。
「ん、そんなに悪くないと思うわよ。」
「うん。結構美味しい。」
「そうは言っても最上を知ってるからね。納得は難しい。」
「そんなに美味しいんだ、マリーちゃんの淹れたお茶。今度オレにも飲ませてよ。」
ケイラックが笑いながら言う。
「いや、アルデリック司令官の心配しないでいいんですか!?」
レイラが叫ぶように言う。その声にアルはピクリと反応するがまた動かなくなる。
「本人が30分寝かしてくれって言ったんだ。まだ20分あるから寝かせてあげなよ。レイラも飲む?」
「え…寝てるんですか…アルデリック司令官…」
「そうだよ。まさか疲れて気を失ってるやつを放置してると思ったの?流石にそんなことしないわ。」
エルドは笑いながらお茶を淹れる。レイラは恥ずかしそうに1人がけのソファーに座り淹れてもらったお茶に口をつけた。
「忙しかったみたいだけどどれくらい忙しかったの?」
ふとマリーが聞いてきた。
「そうだな〜…あ、トーライトが泣いた日くらいかな。」
「それはたしかに忙しいわね。」
マリーはひきつった表情になる。
それから20分ほどマリー達が何をしていたかの話をエルドにした。
「バレーンの爺さんまだいたんだ。あとで挨拶に行ってこよう。」
「バレーンさんと交流があったのですか?エルド先輩は魔剣を持ってるから整備とか無用かと。」
「たまたま会って、風魔法での研磨のやり方を教えてもらったんだ。」
エルドはお茶を飲みながら言う。
「年の割に気さくで良い人だったよ。てかあの人、もう100歳近いんじゃないか?」
「確かそれくらいですね。」
レイラが少し考えながら言う。
「元気な爺さんだ。」
エルドがそう言い終わるか終わらないかくらいでアルが体を上げた。
「お、起きた。」
「大丈夫ですか?アルデリック司令官?」
「ああ、少し寝たから大丈夫だ。それにエルドが無茶したおかげで1週間分の書類仕事がなくなった。」
「え?」
作業しながらケイラックに運ばせていたために司令官室内には書類はないが、別の部屋の中には決済済みとなった書類が分類され箱に入れられ、山のように積まれている。
「レイラ、明日でいいから各部署に引き取るように通達しておいてくれ。エルドが部署ごとに仕分けまでしてくれてるから。」
「は、はい。わかりました。」
エルドはアルにお茶を淹れた。
「じゃ、今日の仕事は終わりでいいね。」
「お前な〜、人にあんだけむちゃさせといて…まあいい。おかげで助かった。」
「あはは。まだ僕を選んでよかったと思ってよ。」
「何だそれ。」
アルは苦笑しながらエルドのお茶を飲んだ。