124.筋力と魔力
「ふんぬー!!」
到底他人に聞かせられない怒声をあげてモイラはレイラにつれてこられたジムで重量挙げのバーベルを上げていた。
「肉体強化ありで80kg。一般的なものですね。」
モイラはそれを聞いてバーベルを下ろした。
「はぁ…重かった…」
「ではマリー先輩はどうですか?」
そう言われてマリーはおいてあるバーベルを見る。そして一つに手を伸ばした。
「最低でもこれかな。」
両手で全力で持ち上げていたモイラと違い、片手でらくらくと持ち上げるマリー。
「それは私でも苦労して持ち上げるのに、600kgをらくらくと…」
レイラは驚愕する。マリーはそっとバーベルをおいた。
「流石はマリー先輩といったところですか…」
レイラは何かの入れ物を取り出し、50kgのバーベルに中身を塗りつける。
「マリー先輩、今度はこれを持ち上げてみてもらえますか?」
「50kgくらい簡単に…」
マリーはバーベルに手を掛け持ちあげようとするが持ち上がらない。
「え?なにこれ…魔力が巡らない?」
「やはり筋力は全く鍛えてないようですね。まあ、魔力強化無しで50kg持ち上げたらそれこそ驚きですけど。」
マリーはバーベルから手を離す。代わりにモイラが持ち上げようと手をかけた。
「魔力強化出来ないならモイラも持ち上げられないでしょ。」
「魔力強化ができないってうのがどういうのかも経験してみたいしね。ふんぬー!!」
モイラは力を込めてバーベルを持ち上げようとするがやはり持ち上がらない。やっぱりねとマリーは思うがレイラは驚愕していた。ほんの僅か1cmにも満たないが持ち上がっている。
「は〜!やっぱ無理!!」
モイラはバーベルから手を放した。
「魔力強化していれば50kgなんて持ち上げて走って移動できるのにしてないとこんなに重いんだ…」
息も絶え絶えにモイラが言う。
「お二人ともこれで手を拭いてください。液がわずかでも残っていると魔法も使えなくなります。」
レイラは二人に布を渡した。それぞれ受取手を拭う。その間にレイラもバーベルに残った分を拭いている。
「これは何なの?」
手を拭ったマリーが布をたたみながら聞く。
「何なのかと聞かれると人族の魔力を封じる液体、そうとしか言えません。」
レイラが拭った布を受け取りながら言う。
「お二人にも情報がはいいっていると思いますが、最近北の最前線では1ヶ月にも及ぶ魔物との戦闘がありました。」
レイラは場所を移動してジム内にあるカフェスペースへ向かった。
「今までそこまで長く攻め込まれたことはありません。長くても3日程度でしょうか。」
マリーが3人分のお茶を淹れる。
「しかし今回、これを使われたために戦線は長引きました。」
レイラは先程の入れ物を二人に見せる。
「アルデリック司令官は次に魔物が攻めてくるのもそう遠くないことだと考えています。ですから数年前の大衝突の際に活躍したマリー先輩、エルド先輩をお呼びしました。」
「なるほどね。この話はエルドには?」
「今頃司令官が話していると思います。」
マリーはお茶に口をつける。
「ま、冒険者の依頼として受けたからやれと言われれば大体のことはやるけど、具体的にどうすればいいのかな?」
「まず筋力をつけること。それと水と風系統の魔法をまともに使えるようになってください。」
マリーが少々めんどくさそうな表情をする。
「あ、私はどっちの系統も使えますよ。」
モイラが言う。
「モイラさんには後方支援に回ってもらいたいのでどちらでもいいのですが、何かあったときのために筋力だけはつけておいてください。特に
足。逃げるためには脚力が必要ですから。」
「脚力か〜。」
モイラは自分の足を見ながら言う。
「まあそれも明日からで大丈夫でしょう。このあとはモイラさんのためにこの砦の案内させていただきますね。」
「そういえば副司令官なのにこんなことしていて大丈夫なの?実際結構忙しいんでしょ?」
ふと思いつきマリーが聞く。
「ええ、ですからエルド先輩を司令官室に置いてきたんです。私も書類仕事は苦手な方ですから。」
それを聞いて三人で笑ってしまった。