120.北へ
エルド、マリー、モイラの3人は国の依頼で北の前線へ向かっていた。
用意してもらった魔獣馬二頭立ての馬車で約二週間走り続けている。
北に行くのは危険なのもあり第三者を連れていくわけにも行かないため、御者は自分たちで努めている。
エルドとマリーは御者の経験はあるがモイラはなかったために国内では主にモイラに御者の練習をさせた。
そう、北の前線は国外のある。
リュトデリーン王国と両隣国が資金を出しあい運営しているのが北の前線だ。しかしその割合はリュトデリーン王国が九割以上出しているため実質リュトデリーン王国が運営しているようなものである。
さて、現在の位置は北の前線へあと一日といった場所。エルドが御者をしてマリーは座りながら寝ている。モイラは呪文を唱え空間魔法の容量を増やしていた。
「どうモイラ、容量は増やせそう?」
モイラは詠唱をやめて肩で息をする。
「だめ!呪文とヒーリングの補助があっても全然広がらない!!」
「あはは。まあそもそも一度固定された空間魔法を広げようってのが無茶な話だからね〜。」
「でもエルドもマリーも広げてるんでしょ?」
モイラはお茶を煎れて飲みながら聞く。
「まあね。最も僕は倍に広げるのに三日かかったけど。」
それを聞いてモイラは絶句した。エルドレベルでも三日もかかるのかと。
小石か何かを踏んだのか馬車が大きく揺れた。その振動でマリーが目を覚ました。
「んん…やっぱり座って寝るものじゃないわね…」
懐から時計を出して時間を確認する。
「丁度いいくらいの時間か…エルド、御者交代する?」
マリーの声を聞いてエルドも時間を確認する。
「そうだね。交代の前に休憩しようか。魔獣馬たち今日はテンション高くて全然休憩してないんだ。」
そう言ってエルドは手綱に魔力を通して魔獣馬たちを止める。
「今日はどうしたんだお前たち。ヤケに興奮してるな。」
エルドは馬車から降りて近くの大木まで2匹を連れていき繋ぎ、水桶と飼葉を亜空間から取り出した。水桶に水魔法で水を一杯にする。
「さてこんなものか。」
エルドは魔獣馬たちを撫でてから馬車に戻る。馬車のそばではマリーが火を起こし料理の準備をしていた。
「今日の昼食は何にしようかな。」
マリーは亜空間に手を入れ食材を探る。数日前に討伐した猪魔物の肉が残っていた。
「猪肉の肉野菜炒めと串焼き、どっちがいい?」
「肉野菜炒めかな。」
「私もそっちがいい。」
マリーは頷いて材料を亜空間から取り出す。そして当然のように出てくるオレシア。
マリーが料理中はエルドとモイラで周囲の警戒をしたり、魔獣馬たちの様子を見たりしていた。
昼食も終えて魔獣馬たちを馬車に繋ぎなおそうと近くによればいまだに興奮気味であった。
エルドは丁寧に馬車につなぎ直し手綱をマリーに渡す。
「確かにかなり興奮気味ね。」
「でしょ?特に支障は無いからいいんだけどさ。」
エルドは水桶に残った水をまいて水桶を片付けた。
「それじゃあマリー、出発しよう。」
馬車に乗り込み声をかけた。
「それじゃあしっかりつかまっててね。」
マリーは手綱に魔力を流し魔獣馬たちを走らせる。その速度はエルドが御者をしていたときより早かった。
「マリー、ペース配分を考えてよ。」
「だってこの子達が思いっきり走りたいって思うならそうさせてあげたほうがいいかと思って。」
やれやれとエルドは首を降る。
「明日もこのペースを維持出来るなら午前中には到着かもね。」
チラリとモイラを見るとまた呪文の詠唱をして空間魔法の拡張に挑戦していた。