118.閑話 ファニアール家の顔合わせ
中央都の中央部にあるとある喫茶店。そこの個室にファニアール家の面々がそろっていた。
喫茶店の店員がお茶の入ったポッドを運び、それをマリーが受け取る。そして店員が一礼し部屋から出て行ったのを見計らってトーライトが扉を閉める。
マリーがカップにお茶を注ぎ、モイラがカップを配膳する。座っているファニアール家の4兄妹がお茶を一口飲み、一息ついた。
「はぁ…やっぱりマリーお義姉様の淹れてくれたお茶が一番おいしいですわ。」
「確かにこの味は他の人には出せませんね。」
恍惚とした表情でミレニアが言う。同意したのはジェイロットだ。
「ところでお義兄様…どうしてお義姉様方はメイド服なのですか?」
「さあ?それに関しては僕が聞きたいくらいだよ。」
そう。なぜかマリーとモイラはメイド服でエルドの後ろに立っていた。ちなみに髪型はマリーはメイド時代と同じように一つにまとめてある。モイラは二つの三つ編みにしていた。
「それにトーライトも呼んでいたんですね。」
「昨日たまたま会ってね。今日の事を話したらどうしても来るって言うから。」
昨日バルザとの面会の後、宿に戻る道すがらトーライトと再会し、この事を話したら是非とも参加させろとエルドに迫り、断り切れなかったためにトーライトもこの場に参加している。
「まあいいですわ。お義姉様方、今日はこうして顔合わせも兼ねているのですからお二人もお座りください。正直メイド服なのは気になりますが…」
サンドレアの言葉を聞いてエルドは後ろを振り返り2人に座るように言う。
「家族の顔合わせってのなら君の旦那にも座ってもらいなよ。あとはトーライトとジャスティパールがやってくれるでしょ?」
その言葉にトーライトとジェイロットの後ろに立っていたジャスティパールが頷く。サンドレアもうしろに立っているルーファスに座るよう促す。
「では改めまして、お義兄様、マリーお義姉様、モイラお義姉様、ご婚約おめでとうございます。」
「おめでとうございます!!」
「おめでとうございます。」
サンドレアに続き、ミレニアとジェイロットも祝福の言葉を贈る。
「婚約の経緯についてはミレニアとジェイロットから聞きました。…まあ、マリーお義姉様を3年近く待たせたり、結婚してないのに第二夫人を設けることになったりと正直色々言いたいことがありますが…」
サンドレアは一息つく。
「私が言えることではありませんし、お義兄様方が同意しているのであればそれで構いません。」
サンドレアは笑顔をエルドに向ける。
「ありがとう。いろいろ言いたいのもわかるけど、ホント色々あったから愚兄がわがまま言ったって思っておいてよ。」
エルドは笑いながらいいお茶を飲む。
「愚兄だなんて…いえ、実際そうなのかもしれませんね。」
サンドレアは笑いながら言う。
「ところでエルド兄さま、前々から聞こうと思っていたのですが、父様に夜中に連れ出されて森に放置された事があるってマリー義姉さまから聞いたのですが…」
ジェイロットが恐る恐る聞く。
「ん…ああ、あれか…あれはファニアール家の仕来りじゃないから心配しないでいいよ。」
エルドはお茶を飲みながら答える。
「それに父さんに連れ出されたんじゃなくて、父さんの命を受けてトーライトに雪山に放り出されただけだし。」
「いや、もっとひどいと思うんですけど…」
エルドとトーライト以外その場のものは絶句した。
「あはは、懐かしいですね。あれはぼっちゃまが10歳の時でしたか、そもそもぼっちゃまが…」
「トーライト!!」
トーライトの言葉をエルドが遮った。
「おっと、申し訳ございません。口が滑りました。」
そう言ってトーライトは口を閉ざした。
ふと、サンドレアがエルドに聞く。
「そういえば、お義兄様方はこれからどうなさるのですか?」
エルドはマリー、モイラを見てから答える。
「国からの依頼でね、北の最前線に行ってくるよ。」
「北の最前線ですか…たしか最近魔物の軍勢に攻め込まれたって聞きましたが大丈夫なんですか?」
サンドレアは心配そうに聞く。
「指揮官のアルから連絡あって問題ないらしい。
ただ後始末や回復薬なんかが足りないから依頼を受けたってわけ。」
エルドはお茶を飲み干す。
「なるほど…でも気をつけてくださいね。ここも所のお義兄様は巻き込まれ体質とでも言うのか、色々めんどい事に巻き込まれていますから。」
「ああ、気をつけるよ。」
エルドは笑って答えた。
それ以降は他愛ない話をしてそれぞれ帰路についた。