115.閑話 残った二家
「ブライナスさん、いつまで座ってるつもりですか?」
目をつむりながら椅子にもたれかかっているブライナスにルリアは声をかける。この二人はエルド達が医務室に向かった後にワンダルとキュートルを縛り引き渡すためにこの場に残っていた。それも先ほど終わりとりあえずバルザに会いに行こうかと考えていたところだった。
「なんだルリア。昔みたいにブライ爺って呼んでくれないのか?エルドはなんだかんだと昔と変わらない呼び方をしてくれるのに」
「しませんよ。もうそんな立場じゃないんですから…」
そう言うルリアの表情はわずかに曇る。ブライナスは目を開けルリアを見た。
「なんだ、弟分がいなくなるのが寂しいのか?まあ確かに、何事もなければ五大家はお前とエルドが先頭に立っただろうからな。」
ブライナスは立ち上がる。
「しかしそれも、もうお前ひとりが背負わないといけなくなるだろうな。俺ももうそろそろ引退の時期だ。ファニアール家もまだ未成年の子供が当主になるんだ。それも仕方ない。」
「いや、別にそんな心配をしているわけじゃ…」
「わけじゃないって?俺に噓が通じると思うなよ?お前やエルドをそれこそ赤ん坊の時から知ってるんだ。お前の嘘も、エルドのたくらみも一目でわかるんだよ。」
そう言ってルリアの頭を撫でる。
「まあ、五大家がどうなるのかもわからないからな。落ち着くまでは俺も引退はしないでおいてやるよ。そうじゃないとお前が責任に押しつぶされてしまうからな。」
ルリアは十数年ぶりかに頭を撫でられ気恥ずかしくなる。
「それより、あのエルド坊も婚約か。お前もそろそろ結婚しないと跡取りの事面倒になるぞ。」
そう言ってルリアの背中を叩く。
「まあそうですね…俺も色々考えてはいるんですけど…」
ルリアは頬をかきながら苦笑した。
「まあ五大家もどうなるかわからないからな。それがわかってからでもいいかもな。」
ルリアはふと、足元に転がっていた魔封じの腕輪のかけらを拾い上げる。
「改めてすごいな。魔力を封じられた状態で壊すまで魔力を叩きこめる量とその技量…それにこの腕輪自体相当硬いのに…」
「つけられる前から魔力を放出してたんだろうよ。まあ、破壊したはいいけど封じられた状態での態度が変貌するのを忘れていたのか隠す気がなかったのか、入ってくる時から不機嫌最大の状態で入って来たからな。」
「扉蹴って入って来た時は誰かと思いましたね。いつもは扉に入る前に付けるから会議中にどんどん態度悪くなっていってたのに。」
ルリアは笑いながら言う。
「そういやエルドが付けてた別の腕輪、あれたしか魔法封入の腕輪だったよな。なつかしいな。俺が若い頃にも流行って婚約時にお互いの得意な魔法を封じてお守りに渡してたんだ。」
ブライナスが懐かしそうに言う。しかしルリアは何とも複雑な表情でいる。
「ああ、そういえばあれはもともとそういうやつでしたっけ…」
「なんだ、今は違うのか?」
ルリアは一蹴応えるのに躊躇した。
「今あれは、追跡魔法を封入して浮気防止に使われるのが主なんですよね。」
それを聞いてブライナスは大笑いしだした。
「は~なるほどね~。こりゃ傑作だ。なかなかうまい使い方を考えるものだな。」
「まあ、エルドの腕はには追跡魔法は入ってないようですからそういう意図で購入したわけじゃなさそうですけど。」
ひとしきり笑った後、ブライナスはルリアに向き変える。
「さ、いつまでもここにいてもしょうがない。そろそろ行くか。」
「ブライナスさんがここでダラダラしてたのが悪いんでしょうが。」
2人は部屋を出て行った。