114.後始末
「さ~て、面倒ごとはすんだし宿に帰ろうか。」
医務室を出てエルドはマリーとモイラに声をかける。マリーは腕を組みながら呆れたようにエルドを見て、モイラはバルザに回復魔法をかけていた。
「今回の事、結局どうなったのかよくわからないんだけど。」
マリーが言う。
「今回の事、そもそもマリーが自分をおとりに五大家の誰が教会の後ろにいるかあぶりだそうって言いだしたのが最初だね。」
「それに関していえば、私が言わなくてもエルドならそうしたでしょ?」
「確かにね…それはそうだと思う。」
エルドは苦笑いを浮かべる。
「しかしそのおかげで長年のらりくらりと逃げられていた教会の背後関係が整理できそうでこちらとしてはありがたかった。」
そうバルザが言う。
「本当ならこちらで何とかしないといけなかったのに、どうも調査を入れるとその情報が流れていてどうしようもなかったんだ。」
バルザはため息をついた。
「まだ色々調べないといけないことも有るだろうけど、少なくとも裏で手をまわしていたのがいなくなったなら妨害されることなく調査できるでしょうね。」
エルドが一息おく。
「それより気になったのはあの女神様だな…あの居眠り女神、呼び出しに応じなかったくせに何をしに来たんだ…」
そのつぶやきを理解したのはマリーとモイラだけだった。バルザは不思議そうな表情を見せる。
「そういえば…五大家はどうなります?」
エルドはバルザに聞く。
「ふむ…少なくとも二家は取り潰しになるかもな。残った三家で継続させるのもありだとは思うが、そろそろ領主も世襲制を取りやめようと考えていた。ちょうどいい機会かもしれない。」
それを聞いてエルドは昔父親がそんな計画があると言っていたのを思い出す。
「具体的にどうするかはこれから調整していくことになるがまあ悪いようにはしないよ。」
バルザは微笑みながら言った。
「モイラ殿、もう大丈夫だ。ありがとう。」
「あ、はい。」
モイラは唱えていた詠唱を止めた。バルザは肩をまわし身体を伸ばす。
「エルド殿、マリー殿、モイラ殿、今回の件重ね重ね礼を言う。特にエルド殿には愚息の件もありいくら礼を言っても足りないほどだ。」
「いえ別に…僕もまあまあ無茶を通しましたから…」
「まあまあ…ね…」
マリーはあきれた声で言う。それを聞いてモイラは笑う。
「後始末もまだ残っているし、三人にはもう少し中央都に滞在してもらうことになる。」
バルザは申し訳なさそうに言う。
「しょうがないですよ。ちょうどこっちも中央都でやることがあるから気にしないでください。」
「それならよかった。」
「じゃ、帰りますか。」
エルドはそう言って歩き出した。それを聞いてマリーとモイラはバルザに一礼してエルドの後に続く。
「ねえ、中央都でやることって何かあるの?」
マリーが聞いてくる。
「ん、ああ。サンドレアが中央都にいるから時間を取ってみんなで会えないかって言われててね。ちょうどいいから顔合わせをって思って。」
エルドはモイラを見る。そしてため息をついた。
「なんかいろいろ言われそうだな…」
モイラは失礼なと憤慨してエルドの背中を魔剣ヒーリングでポカポカ叩いた。