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112.王への試練

 イニシアは消えていくエルドを見て己の拳を見た。拳を合わせるのは昔から友人や認めた相手にしかやらない行為だが、エルドに対してなぜこれをしたのか自分でもわからなかった。


「おいおいよそ見してていいのかよ!」


 突如上空からキュートルが飛んできた。イニシアは後ろに飛びのく。


「相変わらず正々堂々とやれないやつだな、お前は。」


 イニシアはあきれた表情でため息をついた。


「何言ってやがる、ここはもう戦場。よそ見をすれば死ぬだけだ!」


 そう言ってイニシアに殴りかかる。キュートルのその拳はとても重くそして鋭い。イニシアは何とかかわしながらキュートルの隙を伺う。


「相変わらずの防戦か?学院時代から何も変わってないな!」


「それはお前もだろ。ただ愚直に殴りに来るしかできない。」


 イニシアとキュートルは同い年。学院で共に過ごした仲だった。


 学院時代と聞いてもう一人、共に過ごした異母弟の事をふいに思い出すイニシア。すべてにおいて自分以上の才能を持っていながら、幼き日に自分のせいですべてを捨てた異母弟。


「しかし本当にお前が関わっていたとは思わなかったよ。」


 キュートルの拳を受けながらイニシアが言う。


「エルド・ファニアールから聞いたときは耳を疑った。お前はこういう犯罪じみたことには手を染めないと思ってたからな。」


「は、王太子様にそう言ってもらえて光栄だな。まあ実際、俺はお前に勝てればそれでいいんだがな。だからワンダルの誘いに乗ったんだ。」


 イニシアはキュートルの拳を受け止めその勢いを利用して投げ飛ばす。キュートルは空中に投げられるが空を蹴って向かってきた。


 そうやってくることを予想していたイニシアは拳を握りキュートルに殴りかかる。一瞬だけ、拳がキュートルに当たる瞬間に肉体強化魔法を発動させキュートルを殴り飛ばす。


 他の兄弟に比べて明らかに魔力の低いイニシアは自身の肉体を鍛え、技を磨き、攻撃が当たる瞬間に魔法を発動させることを覚えた。そしてそれは学院時代から幾千回とも挑まれたキュートルから身を守っていた。


「さ、これで終わりかな。」


 いつもなら一撃を入れればキュートルはおとなしくなる。少々頭脳足らずな男だが戦いには全力で挑んでくる。それは攻撃の勢いに加算されてそしていつもイニシアにカウンターを喰らわされていた。


 イニシアがキュートルの生死を確認しようと近づくとキュートルは突然立ち上がった。いつもと違う状況にイニシアは距離をとる。


「か~、やっぱ強いな。」


 キュートルは首をまわしながら言う。


「だが今日はそんなわけにはいかない。俺も全力で行かせてもらうからな!」


 いつも全力だっただろうにと思いながら警戒を緩めないイニシア。キュートルは魔力封じの腕輪を外す。


「さあ、これで終わりだ!!」


 先ほどとは違いキュートルの動きが早くなった。イニシアはその動きについて行くことが出来ず攻撃を受け始める。


 最初こそ腕で防御をしていたがそれも次第に追い付かなくなっていく。


 重篤な一撃を喰らう事こそよけているがもうそう長い時間受けていられないとイニシアは感じていた。


 ならばこそ、タイミングを見計らいいつも通りにカウンターを決める、それがイニシアに残された最後の反撃になるだろう。


 しかしキュートルのスピードは緩むどころか次第に早くなっていくように感じる。


 キュートル自体は単純な男だ。実際今受けている攻撃もある程度のパターンで構成されているのは早々に理解している。しかし早すぎるためにイニシアは反応できないでいた。


「はあ…まさかだよな…」


 最初こそいつもどおりキュートルが考え無しに突っ込んできてそれをいなして終わりだと思っていた。だからエルドにあんな賭けを持ち掛けた。


 しかし実際はどうだ。イニシアの目論見は外れて窮地に追いやられている。


 もう意識がもうろうとして来ていた。イニシアは倒れることも許されずただキュートルの攻撃を受けていた。


 次に攻撃を受ければ踏ん張りがきかずに飛ばされてしまうだろう…イニシアはそう考え、最後の攻撃を待った。キュートルが何かを言ってる気がするが動きが早すぎるために風に飛ばされて音が拾えない。


 イニシアは目をつむり最後の攻撃を待った。


 キュートルが迫ってくるのを感じる。これはいつもと同じ単調な正面からの攻撃…そう感じた時、イニシアの体は意思とは関係なく動いた。


 何回も同じパターンで受けたために体が覚えてしまった反射的な行動だった。しかしその威力は今までとは比にならずキュートルは吹き飛んでいった。


 イニシアは目を開ける。かすんでよくは見えないがキュートルはふらつきながらも立ち上がりこちらに来ているのが見えた。


 どちらにせよもう終わりかとイニシアは考えた。さっきのカウンターが上手く行っててもイニシアももうぼろぼろの状態だ。次の攻撃ですべてが終わってしまうだろう…


 その時端っこの方で今まで耳にしたことのなかった何かの破壊音が聞こえる。そしてイニシアは膝から崩れ落ちてしまった。

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