111.当主としての最後の役目 2
エルドは迫ってくる火球を斬りつけ、氷球は蹴り飛ばした。火球は斬られると消失し、氷球は他の氷球に当たり連鎖的にぶつかり合いを始める。
ワンダルは腕を動かし火球と氷球を操作している。エルドは優先的に火球を消し、火球がすべてなくなると氷球を斬りつけ消し始める。
すべての球を消し終えるとワンダルに向き返った。
「これで終わり?」
「まさか。」
ワンダルが腕を振ると再び何十もの火球と氷球が発生した。そして腕を振るいエルドに向かわせる。
「だよね~…」
エルドは再びテンペラを振り火球から消していく。火球をすべて消し氷球に取り掛かった時、一つを切り落とすと氷球の中から火球が飛び出てきた。
「あっ!」
エルドは対応できずに火球をもろにくらってしまう。
「やっぱりね。いくら魔力が高くても炎と氷の切り替えにはわずかながら時間がかかるようだね。だからこんな子供だましを簡単にくらってしまう。」
ワンダルは笑いながら火球と氷球を追加した。
「は~、魔力量から耐えきれると思ったけどちょっと数が多かったか。」
エルドは大してダメージを受けていない様子でテンペラを肩に担ぐ。
「婆さんの言う通り切り替えには時間がかかるんだ。極端な話0から100に変えないといけないことだからね。でも別に対応策がないわけじゃない。魔力の操作が面倒だからしたくないだけ。」
「強がりを。」
ワンダルは火球と氷球をエルドに飛ばした。エルドは担いだテンペラを振るい、向かってきた火球と氷球すべてを消した。
「なに?いったい何をした?」
「見ての通り消したよ。言ったでしょ?対応策がないわけじゃないって。」
ワンダルは訝しんだがはったりだと思い先ほどよりも多く火球と氷球を発生させてエルドに飛ばす。
エルドはワンダルが飛ばした瞬間テンペラを振るった。そこで振っても距離があるから何の意味もないだろうとワンダルは思ったがテンペラの剣身が突然伸び、火球と氷球を一掃した。
「な…なんだ今のは…」
突然の事で何が起こったのかわからないワンダルは呆然とした。
「わかりやすく言えば水の剣かな。温度の調節が難しいし、伸ばして使うのも魔力の操作が必要だからあまり使いたくなくって実戦で使うのは今回が初めてだよ。」
そう言ってエルドは再びテンペラを振るい、伸びた剣身がワンダルの体に巻き付き拘束する。
「こ、この…」
ワンダルは体に巻き付いた剣身を引きはがそうと体をよじるがびくともしない。それどころか剣身から氷が発生して全身を氷漬けにし始める。
「ふむ…やっぱり氷か炎がやりやすい。でも拘束しやすいならもう少し練習してみるか。」
エルドはそう言いながらワンダルに近づいてくる。
「さあ婆さん、まだやる?やるって言ったらこのまま氷像にするけど。」
「いや…どうやら思った以上に寿命が短かったようだ…」
そう言うとワンダルの体が元の老婆に戻っていく。
「おや…」
「私の負けだエルド坊…ああ安心しな。あと一年は生きられる分は残ってるから。はぁ…やっぱ無謀だったね…」
ワンダルは力なく座ってしまう。ワンダルが座ると同時に周りの景色がゆがみ始める。そして空間の一部が裂け、2人の人物が対峙しているのが見えた。
エルドはワンダルを拘束したままにしてそちらに向かう。対峙しているのは血まみれになったイニシアとキュートルだった。先に決着がついたのは自分の方かと思いながら近づいて行くとイニシアが膝から崩れ落ち倒れてしまった。
「イニシア殿下!!」
エルドの叫びにイニシアは反応しない。