110.当主としての最後の役目 1
次にエルドの目に入ったのは先ほどと同じような青白い空間だった。
「なんだ、先に消えるから自分の有利なフィールドにでもしてるかと思ったら特にそんなことはしないんだね。」
「あんたとイニシアの最後の会話さ。ああいう演出は嫌いじゃないだろ?」
それを聞いてエルドは肩をすくめながら亜空間を開く。
「まあね。それより婆さん、本当にやるの?いくら魔力封じの腕輪をつけてても婆さんじゃ僕には…」
エルドが亜空間に手を突っ込みながらワンダルを見るとその場所にいたはずのワンダルがいなかった。
「ちょっと気を抜きすぎじゃないか?」
エルドの背後にワンダルが現れ、エルドの首に腕を回し占める。エルドは突然のことに驚きワンダルの腕をつかむ。
「なんだ、ヒョロイから素の力は弱いのかと思ってたけど意外とあるんだねぇ。」
ワンダルはエルドの首を絞め続ける。
「が…は…ははは。意外と力があるのは婆さんの方だよ。なんだよこの力。」
エルドがワンダルの腕を無理やり引きはがしていく。
「な!?いくら私が老いてるからって魔力強化をしている私としてないあんたじゃ力の差は歴然のはず…」
そうは言うがエルドはやすやすとワンダルの腕を引きはがしワンダルを投げてしまう。
「あ~残念。ちゃんと確認しておくんだったね。この魔力封じの腕輪、最初っから機能してないよ。」
そう言ってエルドは魔力封じの腕輪に指をかけて破壊する。
「はぁ!?なんで!?それは最新型のはず!?そうやすやすと壊されることなんか…」
「いくら魔力を封じるからって封じられる魔力に上限はあるさ。その上限をはるかに上回る魔力を叩きこめば簡単に壊せるよ。」
エルドは腕を振りながら言う。
「あ~重かった。さあ婆さん。これで僕も全力で戦える。降参するなら今のうちだよ。」
エルドは亜空間から魔剣テンペラを取り出した。最初から剣身をつけていない全力の状態だ。
「まったく…これはさすがに予想外だったよ。」
ワンダルはため息をつく。
「まあだからって何もできないわけじゃない。」
そう言って呪文を唱え始める。エルドは面倒くさそうにワンダルを見ているが呪文の詠唱を止める気はなかった。
呪文が進むにつれてワンダルの体が光り始める。そして目が眩むほどの明かりが周囲を包み収束していった。
エルドが目を開けてワンダルを見るとそこにいたのは老婆ではなく麗しき美女だった。
「へぇ。それが最大禁呪の若返りの秘術か。」
「なんだ知っていたのかい。そう、これが若返りの秘術。己の寿命を糧に肉体も魔力も全盛期の頃に戻す術さ。」
ワンダルは自分の体を確認するように見ている。
「どうだいエルド坊、私の魅力に溺れるのも一興じゃないか?」
ワンダルが魅惑的な表情でエルドを見るがエルドは鼻で笑う。
「冗談。小さい胸は好みじゃないからね。遠慮しとくよ。」
「相変わらずかわいげのない坊やだこと。」
そう言ってワンダルが腕を振ると周囲に火球と氷球が何十と発生する。
「あ~…これは…」
火球と氷球を見てエルドは眉を顰める。
「あんたの魔剣は火と氷の剣だろ。もし両方の属性魔法に同時に襲われたらどうするのかね?」
「予想している通りだと思うよ?」
エルドはテンペラに炎をともした。とても綺麗な青い炎だ。
「それじゃあ答え合わせと行こうか!」
ワンダルが腕を振ると火球と氷球がエルドに襲い掛かる。