108.五大家会議 3
「まあ確かに、それだけだったらこんなことできないよね。」
いつの間にかエルドは6冊の本を取り出していた。
「こ、これは…」
キュートルが本を確認しようと伸ばす手をエルドは払いのける。
「おっと、これは禁呪を記したものだ。陛下や僕の許可なく触れるのはやめてもらおうかな。」
「な、なんだと!?」
キュートルがエルドの言葉に怒り、エルドに手を伸ばすがエルドはその手を掴む。
「少しおとなしくしててよ。これから決定的な証拠を教えるから。」
エルドの色の違う両の瞳が輝き、キュートルはそれを見て寒気を覚える。
「さて、今言ったようにこれは禁呪を記したものだ。これが大教会に保管されていたやつ。大教会が崩壊しても無事だったのは図書室の金庫にしまわれていたからという事だ。」
エルドは茶色い表紙の本を持ち上げてみんなに見せる。
「他の本は知っての通り見た目は同じ。中身も同じだ。まあ、自分のところのとわかるように表紙を開いたところに家名を記しているのもあるね。うちみたいに。」
エルドが一冊開くとファニアールと記されている。
「まあ、だから何なんだって話だがあくまでこれらは各家から回収されたものだと理解してほしい。そして、さっき中身は同じといった。実際内容は同じだが書き方に違いがあるのを発見した。」
エルドが大教会から回収された本とファニアール家から回収された本の同じ項目のところを開く。
「字が小さくて読みづらいとは思うが、このところ、書き方が異なっている。うちのやつは最初に呪文の効果を記してその後にやり方を記し、解呪の方法や問題点を記している。」
それを聞いて他の五大家領主は表情を強張らせた。
「待て、エルド…それは本当か?」
声を上げたのはブライナスだ。
「ああ。その反応を見るとそれぞれ順番に違いがあるのは明白のようだね。さて、それじゃあ大教会に書かれているものと同じ書き方をした本はどれか…」
エルドは大教会の本と同じ書き方をされている本を持ち上げる。
「それがこれってわけだ。さあ、この本はどの家から出たのか気になるよね?」
エルドが表紙を開こうとすると突如目の前に火の玉が現れエルドの持っている2冊とテーブルに置いてあった4冊はすべて燃やされてしまった。
「あら…」
燃えていく本をエルドは呆然と見ている。
「あ~っはっはっは。誰が燃やしたかわからねえがいやはや全く。そもそも禁呪を残しとくのが悪かったんだからちょうどいいじゃねぇか!」
キュートルが大声で笑い始める。
「キュートル殿!あんたまさか!!?」
バルザが立ち上がり真意を聞こうとするがキュートルは平然としている。
「あ~あ。逆に面倒なことしてくれちゃって。」
エルドは灰になった本を見て言う。
「それはどういう事だ?」
キュートルの問いにエルドは指をさし指し示す。エルドがさした先には火球が浮かんでいた。
「な、なんだこれは…」
キュートルは呆然とする。
「何って、さっき本を燃やした火球じゃないかな。この右の腕輪、こっちには聖女モイラに込めてもらった反射結界魔法が付与されてるんだ。僕を攻撃した魔法はそのまま反射して術者に返るから覚悟してね。」
そう言うが早いか火球は動き出した。しかし飛んでいった先はキュートルではなくワンダルの方だ。ワンダルは慌てて立ち上がり逃げようとするが隣にいたブライナスに足を引っかけられ転んでしまう。火球は転んだワンダルの上を通り過ぎそのまま壁にぶつかって来てた。
「相手に当たるまで追尾するものじゃなくてよかったなねえさん。」
ブライナスが倒れているワンダルを掴み立たせる。
「それじゃあ聞かせてもらおうか。なんでこんなことをしたのかを。」
ブライナスは表情を変えずにワンダルを見る。ワンダルはやれやれとため息をついてブライナスの腕を払いのける。
「は~あ。まったく。ほんとエルド坊が関わると上手くいかないね。」
そう言いながら机から離れ、ストレッチを始める。
「なんでこんなことをしたかって?理由は簡単さ。五大家のトップ…いや、この国のトップを狙っていたから単純なものさ。」
それを聞いても誰も表情を崩さない。むしろやはりかという感情しかない。
「しかしすごいな。血は繋がってなくてもソライス家は上を目指すのか。」
「そういうわけでもないんだよ。」
ワンダルは面倒くさそうに言う。