104.裁判準備
エルドは急いでファニアール家を訪れた。前日のうちに手紙を送り訪問する旨を伝えていたため大して驚かれることもなく応接間に通される。
しばらく待つとノック音がして執事服姿のルーファスが扉を開けてサンドレアが入って来た。後ろにジェイロットとジャスティパールも続いて入ってくる。
「お待たせしましたお義兄様。」
そう言いながらエルドの対面に座るサンドレア。ジェイロットはエルドの隣に座った。ルーファスはサンドレアの後ろに、ジャスティパールはジェイロットの後ろに立つ。
「ああ、急に来てしまってすまない。かなり緊急だ。」
「ええ。こちらの方にもお義兄様の手紙と一緒に連絡が来ています。それで…」
サンドレアはちらりとジェイロットを見る。
「本当にそのようにするのですか?」
「ああ。ジェイロットには申し訳ないが僕が自由に動くにはこれしかない。」
前日に送った手紙にエルドの頼み事はすべて書いておいた。今ここにジェイロットがいるのはエルドにも賭けの部分があった。
「…ジェイロット、あなたはどうしたいのですか?」
サンドレアがジェイロットに聞いてくる。
「僕はもともとそのつもりでした。ですので構いません。」
ジェイロットはサンドレアの目を見て答える。
「わかりました。もともと私には過ぎた役職です。お義兄様の提案通りにしましょう。」
「ああ、すまない。迷惑をかける。」
「いえ…むしろ迷惑をかけたのは私の方です。呪いの女神の影響とはいえお義兄様を追い出してしまってしまい…」
サンドレアが頭を下げようとするのをエルドは止める。
「サンドレア、君も犠牲者だ。謝罪なんかいらないよ。」
「お義兄様…」
エルドはサンドレアの後ろに立っているルーファスをちらりと見る。
「ただ、君の旦那の事は絶対に許さないけどね。」
笑顔でそう言われてルーファスは苦しそうな表情になる。サンドレアは苦笑した。
「はい。その理由もジェイロットから聞いています。ルーファス、契約用紙を持ってきてちょうだい。」
ルーファスは一度お辞儀をして応接間から出て行った。
「…ルーファスとは別れないのか?」
ルーファスが出て行ったのを確認してエルドが口を開く。
「あら、私は一度もそんなこと思ったことありませんよ。」
サンドレアは笑顔で返答する。
「確かに私はルーファスに対して変えないととは言いましたが、それは父親になるのだから意識を変えないとダメねって言ったんです。それを一部分だけ耳にして勘違いしたみたいで。」
それを聞いてエルドは微笑んだ。
「やっぱそうか。おめでとう。」
「ありがとうございます。そう言えばお義兄様、マリーとの結婚もまだなのに第二夫人とご婚約なされたとか。」
笑顔はそのままだが何となく冷たくなったのをエルドは感じた。
「ん…まあ、ちょっと成り行きでね。」
「お義兄様って意外と軟派なんですね。いつまでも結婚しないと思ってたらこんな風に…」
もう一人の妹にも軟派だと言われたのを思い出す。
「言いたいことは解るが、しょうがなかったと思ってほしいな。」
「あら、しょうがなく婚約だなんて…少々軽蔑してしまいますわね。」
それを聞いてエルドは苦笑いを浮かべる。
エルドが何と答えればいいか考えているとルーファスが契約用紙を持って戻ってきた。
サンドレアが用紙を受け取り契約内容を書き連ねる。書きあがったものをエルドに渡し、エルドが確認をして署名する。そしてジェイロットに回す。
ジェイロットもその内容を後ろのジャスティパールと相談しながら確認し署名する。
最後にサンドレアが署名すると契約用紙は光り、3つの光の玉になって署名した3人の媒体石に吸い込まれていった。
「これで契約完了です。ジェイロット、これから苦労を掛けると思いますがよろしくお願いします。」
サンドレアがジェイロットに頭を下げた。
「いえ、サンドレアお姉様が大変な時期にいろいろお世話になると思います。こちらこそよろしくお願いします。」
それを聞いてエルドは立ち上がった。
「裁判は明日だ。さっさと中央都に戻ろう。」
そう言ってエルドは応接間から出て行った。