102.指輪と腕輪
エルドが宿の部屋に戻るとモイラが真剣な表情で刺しゅうをしている。マリーはゴシップ紙を読んでいた。
「ただいま。」
「おかえり。…何かあった?」
マリーがゴシップ紙から顔を上げてエルドの顔を見て聞いてくる。
「まあね。明日の昼過ぎに王家の屋敷に来てくれって。」
それを聞いてモイラが口を開く。
「それは…うまくいったって報告…」
「ではないみたい。なんか悪い知らせだって。」
エルドはため息をつく。
「これ以上最悪な事って何かある?」
「さあね。予想がつかないから怖いんだよね。」
マリーもモイラも顔をしかめた。
「まあそれに関しては明日聞いてから考えるしかないでしょ。それよりモイラちょっといいかな?」
「え、なに?」
エルドはマリーとモイラの間に座り、モイラに向く。
「利き手は右だったよね。それなら左手を出してくれるかな。」
言われてモイラは左手を上げる。エルドは小さな箱を亜空間から取り出し物を取る。そしてモイラの左手を取り指輪を指にはめた。
「え…これ…」
「まあ、婚約のプレゼント。ちょっと急だったからマリーとデザイン同じなんだけど…」
エルドは恥ずかしそうに言う。モイラの指に付けられたのは白い指輪。エルドの瞳の色と同じ青と緑の小さい石がはめ込まれている。モイラは自分の指にはめられた指輪を嬉しそうに眺めている。
「あとマリーも、ちょっといいかな。」
「え?私も?」
エルドはマリーの方に向き直り、新たに小さな箱を取り出し中のものを取り、手の中に隠した。
そしてマリーの右手を取って指にはまっている指輪を抜き取った。
「え…」
「はぁ…」
その様子を見てマリーもモイラも目を丸くしてみている。しかしエルドは気にした様子もなく手の中に入れた物を再びマリーに付ける。
エルドがマリーの手を離すと今までつけていた指輪とは違う、赤い指輪に二つの石が付いていた。
「え…これって…」
「ほら、前に話したでしょ。本当はこういう赤い指輪を贈りたかったって。同じ装飾品店に行ったら最近色を変えられる金属がダンジョンで発見されたから作るようになったらしいんだ。だからマリーにって思って。」
「あ、ありがとう…えへへ…」
モイラに渡したときよりも恥ずかしそうにエルドは言う。マリーも顔を赤らめて新しい指輪を見ている。
「あ、そうだ。私達もエルドにプレゼントがあるんだ。」
マリーはテーブルの下から箱を取り出す。モイラも同じ箱をテーブルに置いた。
「左腕出してくれる?」
「私は右腕ね。」
言われるままにマリーに左腕を、モイラに右腕を差し出す。2人は顔を見合わせて箱の中から腕輪を取り出しそれぞれエルドの手首にはめる。
「これは?」
エルドは2人にはめられた腕輪を見ながら聞く。
「私達からの婚約のプレゼント。こういうのは贈りあうものだって知らなかったから遅くなってごめんね。」
マリーが申し訳なさそうに言う。
「あ、いや…別に気にしなくてもよかったのに。」
エルドがそう言っていると2人はそれぞれの箱からもう一つずつ腕輪を取り出し自分の腕に取り付けた。
「これ、二つで一つのペアリングなんだって。だからエルドは二つ付けないといけないけどいいよね?」
モイラが満面の笑みで聞いてくる。そういうのはつける前に聞くものじゃないかと思ったがエルドは何も言わずに頷く。
「それにしても…」
エルドは自分の両腕にはめられた腕輪を見て思う。まるで手枷をはめられたような気分になるなと。まあ、ある意味間違ってないかもしれないのかと納得している部分もあるのだが。