101.贈り物と呼び出し
中央都滞在六日目。エルドは一人で出かけて行った。マリーもモイラも一緒に行くと言ったがエルドは断固拒否した。その様子を見てマリーは何をしに行くのか何となく察した。過去に一度、マリーと別行動をしたがる時期があったのを思い出していた。
暇を持て余したためモイラはマリーに一緒に中央都観光に行こうと誘うがマリーはあまりで歩きたくないとゴシップ紙を読み始める。モイラはつまらなそうにマリーの隣に座った。
「一人で観光してくればいいじゃない。」
「一人だとつまんないもの。」
そう言うとマリーの右手を見る。
「ねえマリー、その右手の指輪ってエルドからの贈り物?」
「え、うん…そう。婚約した時に貰ったの。」
「へ~…」
多分今モイラの分も用意してるよと口を開こうとした。しかしその前にモイラの口が動いた。
「マリーはエルドに何か贈ったの?」
それを聞いてマリーは固まった。自分からは何も贈っていない。
「ああ、贈ってないんだ。でも別に変な事じゃないから気にしないでいいんじゃない。婚約の時に何か形に残るものを送るのって貴族制があった時の貴族の風習だし。そもそもエルドは貴族の血脈だろうからやっただけなんじゃないかな。」
「そ、そう…ね…」
マリーの顔が青くなる。モイラは一つため息をついた。
「…それじゃあ出かけようか。」
「え?観光はいかないって…」
「聞いちゃった私も悪いし、今日はエルドに贈るプレゼントを選びに行こう。観光じゃなくて買い物よ。」
そう言って立ち上がりマリーの手を取る。
「ああ…そうね…ありがとう。私じゃ思いつかなかった。」
マリーは立ち上がりモイラと共に街へ出かけることにした。
エルドは装飾品店から二つの小箱を持って出てきた。
「思ったより高かったな。こっちのアイデア勝手に使ったんだから少し値引いてくれたっていいのに。」
エルドは小箱を亜空間にしまいながらぶつくさとぼやく。そんなエルドに声をかける人物がいた。
「エルド・ファニアール。ちょうどよかった。」
誰だと思って振り向くと予想通りイニシアがそこにいた。
「いちいち家名を呼ばないでくださいよ。そうでなくてもあなたは僕の事が嫌いだっているのはわかっているんだから。」
この国でフルネームで相手を呼ぶのは軽蔑の意味を持つ。家名だけが立派で個人としては何も大したことを成してないという。
「わかっているならフルネームで呼んでもいいじゃないか。今後も変える気はない。」
イニシアはきっぱりと告げる。ここまではっきり言われてしまうとエルドも感心してしまった。
「そうですか。それより何の用で?調査が終わったとか?」
「ああ、それなんだが…明日、うちの屋敷に来てほしい。父上が三人を呼んでいる。」
「マリーとモイラもか。もう嫌な予感しかないんですが。」
「まあ、お前らにとっては悪い知らせだろうな。いや、こちらにとってもだが…」
エルドは顔をしかめるが気を取り直す。
「わかりました。伺うのは明日の昼過ぎでいいですか?」
「ああ、それで構わん。それじゃあよろしくな。」
イニシアはそう言って行ってしまった。
「あ~、面倒くさい…」
エルドは頭を抱え、宿に帰っていく。