10.依頼
翌朝、エルドは日が昇り始めたころに起き、町周辺の散策に行っていた。これからの依頼で多く行き来する場所のために少しは地形を頭に入れておいた方がいいなという考えからである。
町周辺をぐるりと周り、西に見える森に目をやる。
「あそこも行ってみたいな。依頼で森に行くものがあれば積極的に受注してみるか。」
そう言ってエルドは町に戻る。
町に戻ると朝食を食べに昨夜も行っていた食堂へと足を運ぶ。
「おや、旦那。本当に朝も来てくれたんだな。」
出迎えてくれたのは40代頃の店の店主の男であった。
「ええ。昨夜の料理もおいしかったですし、しばらく贔屓にさせてもらいますよ。」
「あはは、そいつはありがたい。今朝のおすすめのメニューは猪肉のスープだ。冒険者なら朝からガッツリいかないとな。」
「それじゃあそれと、パンとサラダのセットで。」
「あいよ。」
店主はキッチンへ入り、しばらくしてエルドの前に料理を運ぶ。エルドが料理を食べていると、店に入った時には誰もいなかった店内が次第に客が増えてくる。
この店以外にも朝からやっている食堂はあるが、込み具合から味の良さは折り紙付きといえるだろう。
「さて、ギルドが開くまで少し時間があるか。」
食事を終え店を出てから時間を見ると少しながら支部ギルドの開店まで時間がある。かといって一度家に戻るにも少々面倒な時間だ。
どこか座って時間をつぶせる場所がないかと見渡すと、町の中心にある広場のところにベンチが置いてあるのを見つける。
エルドはそこへ行き、座ってあたりを見渡した。
この町は新しいということもあっていろいろな店が並んでいるが、町民の約半分は農夫のようだ。馬に荷車を引かせて町の外に出ていく人を多く見かける。
「依頼もそれ関連が多そうだな。」
エルドは行きかう人を見ながらどのような依頼があるか楽しみ半分、不安半分で支部ギルドが開くのを待った。
開店したのを確認してエルドはギルドに入っていく。
「おはようございます。開店早々来る人は珍しいですね。」
受付カウンターに座っていた女性が立ち上がり会釈する。
「おはよう。そうなんだ。中央都の方は割とそんなものだったけどな。」
中央都で依頼を受けている時はまさに奪い合いであった。開店と同時に入り、少しでも割のいい依頼を受けることが大切であった。
だがそれも、中央都から離れ地方に行くにつれ開店から焦らなくてもよくなっていた。
「もしかしてエルドさんですか?」
女性の問いにエルドは頷く。
「初めまして。ソフィア・レイグラースと申します。このギルドで受付をしておりますので気軽にお声かけください。」
「よろしく。早速依頼を確認したいんだけど…」
エルドがあたりをキョロキョロと見渡す。エルドの記憶だと依頼は掲示板に張り出されているものだが、そもそも掲示板自体が見当たらない。
朝一のため、張り出しはされていなくてもおかしくはないが、掲示板自体ないのは違和感がある。
「エルドさんは復帰組でしたね。当支部ギルドではこちらにレコードを読み取らせてその人に合った依頼を表示してくれます。」
そう言って透明な板を差し出す。
「あぁ、タブレット水晶か。3年しか離れていないのに随分様変わりしたものだ。」
そう言ってエルドは首にかけた導き石を外し、タブレットにかざす。すると空中に複数の依頼が表示される。
「さて…お、これは西の森での薬草採取か。とりあえずこれにしとこうかな。」
「承りました。西の森で薬草100本の納品をお願いします。」
ソフィアがエルドの選んだ依頼の表示に触れるとその文字が光り、導き石に吸い込まれていく。
「へえ、いちいち契約書を書かなくていいのは楽だ。」
エルドは導き石に触れ、今受けた依頼の内容を脳内で確認する。
依頼情報が記録されたのを確認し、導き石を首にかけなおす。
「でもいちいち記録媒体を取り外しするのは面倒だな。契約書の時は書き終われば勝手に石に吸い込まれたのに。」
「そうですね。そういったお話はよく聞きます。ですから最近はネックレスやイヤリングより指輪や腕輪にする方が多いようです。」
そう言ってソフィアが右手につけた指輪を見せる。
「指輪か。あまり手にごてごてと付けるのは好きじゃないんだよな。腕輪にするか。」
腕を組みながらエルドは考えるが、今考えててもしょうがないと気持ちを切り替え、ギルドを出て西の森へ向かった。




