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第5話

「動け、動け。そんなんじゃ、敵のマトになるだけだぞ。死にたくなければ、もっと動け。」


上官である、マギー・ワトソン大尉の声が響く。


重さ20kgの荷物を背負いながら、カイオウ研究所の裏にある山で山登りである。


ここ1週間、筋トレと山の上までの荷物運びの毎日である。


季節は、まだ5月なので、気温も20度。それほど高くはないが、30分も山登りをするだけで汗が体内から噴き出す。


頂上までは、2時間。いつも着いたら服は、汗でびっしょりだ。


そこで、30分ほど休憩すると、すぐに研究所まで、走って下山する。


そこから、また、会社の退社時間まで筋トレだ。


椅子に座って、パソコンをしたり、電話の対応なんて今のところ、一度もない。


ワトソン大尉によると、最初の2週間ぐらいは、兵士になるための体つくりが大切だという。


だがら、今のところ、銃やナイフなどの武器の使い方も、習っていないし、触ったことすらない。


俺たちの兵士としての基礎体力を上げることが、重要らしい。


しかし・・・。


自分でいうのもなんだが、よく1週間こんな訓練を続けられたものだと思う。


いつもの自分なら、とっくに辞めてしまうだろう。


ロッキーは、この訓練を不思議に思いつつも、黙々と必死に山登りをする。


ゴローのジイさんの奴。


なんで俺を、こんな会社に推薦、それも傭兵として勧めたんだ。


カイオウ研究所の入社した時に、ワトソン大尉からもらった彼の手紙には、10万円の小切手としばらく兵士として働いてくれという内容が書かれていた。


どうしてゴローさんが、・・・お金を俺に払ってまで、カイオウ研究所で自分を働かせたいのかは疑問だ。


しかし、最後の一文に、「もし、このカイオウ研究所で働かなければ、ロッキー、あと数年後に死ぬか、病気になり、寝たきりになるだろう。」とあった。


なんで、いつも健康診断で健康体のA判定をもらっている俺が、数年後に・・・になるんだ。


とはいえ、10万円の小切手をもらったのも、事実である。


不気味な感じは否めず、結局、この会社で働くことになったのだ。


「さあ、もっと歩くペースを上げろ。そんなんじゃ、敵に追いつかれ、殺される。今は、戦場じゃないから、こうしてゆっくりと歩けるが戦場では命懸けの行進だ。

兵士になるつもりなら、それぐらいの危機感を持って訓練しろ。」


ワトソン大尉の声が、後ろから聞こえてくる。


彼女は、俺たちの倍、40キロの荷物を持っているのに、息切れ一つせず、ロッキーたちを叱咤する。


山登りの仕方は、一列に並び、一番後ろにワトソン大尉がいて、ロッキーたちの歩くスピードを調節する。


つまり、彼女が、後ろから声を上げて4人を歩かせるため、後ろにいる人も遅れることが許されないのだ。


はあっ、はあっ。


やればいいんだろが、やれば。


ワトソン大尉以外の4人の兵士は、息切れをしながら、登っていく。



夕方の、6時。


ようやく、今日の筋トレのメニューがすべて終わり、退社時刻である。


ロッキーは、へとへとに疲れた体を、だるそうに動かしながら、シャワー室に入る。


そこでは、ワトソン大尉をはじめ、メンバーの4人が既にシャワーを浴びていた。


「よう、ロッキー。大丈夫か。」


隣で髪を洗っていた、金髪の背の高い、ジェームズ・ハンクが、声を掛けてきた。


「まあ、何とか。1週間前に比べたら、まだマシという感じです。最初は、もう筋肉痛と疲労感で、声すら出ない状態でしたから。」


「俺もそうだ。1日目は、こんな会社、給料も普通だし、すぐに辞めてやろうと思ったぜ。でも・・・。俺の頭じゃ、どこも採用してくれないしな。

さすがに、3流の大学出身じゃ、就職もキツイ。アルバイトだって、最近じゃ、機械化が進んで肉体労働のバイトは、ほとんどなくなったしな。

お前も、そんな理由で、続けているのか。」


ジェームズは、まだ20代で、大学を卒業してから、3年~4年目といったところだ。


彼の話だと、大学が文系だったらしく、就職先も、企業の営業職がいいところで、自給500円ぐらいのクソみたいなパートかアルバイトしか仕事がなかったらしい。


「確か、ロッキーは、G大学で、2流大学だったわね。それでも一応、薬学部出身だし、薬剤師の免許持っているから、就職には困らないじゃないの。

こんな傭兵になる必要もないとおもうけど。」


すると、ワトソン大尉が、ジェームズの話を聞いていたらしく口をはさんできた。彼女は、訓練の時は、厳しい教官だが、普段は、なんでも気軽に話ができるお姉さんである。


シャワー室は、個別ブースのように仕切りがなく、隣の人の声が聞こえることは、もちろん、相手の体も丸見えだ。


ロッキーは、ワトソン大尉のほうを向きながら答える。


「俺も、薬学部だからもう将来は、仕事に関しては安定していると思っていましたよ。しかし、薬剤師免許を取ってから、最初の就職に失敗しましてね。

そこから正規採用を目指して、何度も就職活動はしたんですが、すべて面接で落ちました。

結局は、派遣社員。仕事は、どんな仕事でもいいならばあるんですが・・・。こんな年齢になったら、新しい環境に飛び込む勇気がなかなかなくって。」


ロッキーは、ワトソン大尉の女性でありながらスタイルのいい筋肉質な全裸を見る。


彼女は、軍人なので、男性から裸を見られても慣れているのだろう、ぜんぜん、恥ずかしがる様子もなく、裸を見せてくれる。


「ロックさんは、薬剤師なんですね。いいな。新しい職場に行く勇気がないという、気持ちはわかりますが、まだ仕事があるだけでも、十分マシですよ。

私なんて、T大学出たのに、文系だったからかどうかわかりませんが、ブラック企業に就職してしまい、あまりのツラさに3カ月で辞めてしまいました。

そのため、次の就職もできず、アルバイトをするのが、精一杯。

その上、アルバイトだって、今まで勉強ばかりしてきたので、コンビニやスーパーの接客業なんて、とても無理でした。」


今度は、ワトソン大尉の隣で、赤髪の知的そうな女性、シェリー・ワンが、体を隠しながら、顔を後ろに向けて答える。


彼女は、どちらかというと、やせ型で、出るところは出ているような体つきだ。


見方によっては、男性はもしかすると男勝りな体つきのワトソン大尉よりも魅力的かもしれない。


「Tへえっー。シェリーは、T大学かよ。T大学といえば、あの1流の大学だろう。その割には、この厳しい訓練、1週間よく耐えているな。

雰囲気的には、言っちゃ悪いが、一番最初に、辞めると思っていたぜ。根性はあるということか。なあ、キャンディー。」


ジェームズは、髪が紫色で、オールバックの女性に声を掛ける。


キャンディー・ホールマン。


彼女は、ほとんど無表情で無口で、その上、雰囲気が暗い。だが、この隊の中では一番、優秀といってもいいだろう。


山登り、下山で、常に一番であり、筋トレも熱心に行っている。


「辞めるかどうかは、人それぞれだと思う。シェリーにも、辞められない理由があるだろし、私にもそれがあるから・・・。

どの人もこの世界で生きるのに大変よ。」


キャンディーは、体を洗いながら小声であるがはっきりと答えた。


彼女の体は、ワトソン大尉ほど筋肉質ではないが、それでも何かトレーニングをしていたのだろう、がっしりした体格で色も白く、肉付きも良い体だ。


「どちらにしろ、キミたちは、1週間よく頑張っている。来週もこの調子で頑張るんだな。

そうすればいずれキミたちが、なぜこんな肉体的に厳しい訓練に耐えられるかわかるときがくる。

そして私と同じように戦場でも、生き残ることができるだろう。戦場では、生き残った者が勝者だ。よーく、覚えておけ。」


ワトソン大尉は、最後、メンバー4人に激励をする。そして、シャワーを止め、ショートカットの髪の毛をなびかせながら、タオルで体を隠すこともなく、堂々とシャワー室を出ていく。


シャンプーのいい匂いが、少しする。カッコイイいい女性だな。


ロッキーは、彼女の全裸を名残り惜しそうに見ながら、自分もシャワーを浴び始めた。


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