つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
朝行ったら机の中にラブレターが入っていたので、席替えする前にこの席だったイケメン宛かと思い、イケメンの机に入れようとしたら、クラスの美少女に腕を掴まれた。
ふぅ。
僕は朝一番に登校するのが趣味だ。
僕が一番になれることっていったら、教室に来る早さくらいなのだ。
それに、誰もいない教室で寝るのはとても好きだし、本を読むのもいいし、なんなら別に歌ったって筋トレしたっていいと思う。
そんなこの時間が、大好きすぎる。
だから一番に登校するっていうのが続けられてるわけだな。
そんな僕は、今日の朝、自分の机から、小さな封筒が、はみだしていることに気がついた。
「これ……ラブレターか……?」
そうつぶやいてみてみれば、やっぱりそうだと確信した。
なんとなく、オーラがある。
ピンクのシールで封がされていて、よーく見ると、封筒自体も少しピンクだ。
さて。これはおそらく、僕宛ではないな。
そう結論づけた。
なぜなら昨日、席替えをしたからである。
そして今の僕の席に前座ってたのは、クラスの中でもイケメンでモテると話題の人。
つまりは、ちょっとおっちょこちょいな女の子が、そのイケメンに渡そうと思ってラブレターをここに入れたんだろう。
もうそこはイケメンの席ではなく僕の席になっているということを忘れて。
ま、仕方がないので、イケメンの机に入れ直してあげよう。
僕はそう考えて、さてイケメンの席はどこだったかな、と考え込んだ。
しばらくしたら思い出した。
そうそう確か前から二列めのここだな……うん、あってそう。
僕はそーっと机の中に、ラブレターを入れ……られなかった。
腕を誰かに掴まれたからだ。
「何してるの……?」
振り向くと、これまた美少女とクラスで話題の、涼奈だった。
「あ、えーと、これはね、別に何か机にいたずらしようとしたりしてたわけではなくてね」
「そんなのわかってるよ」
「あ、そっか、それならよかった」
僕は安心してラブレターを机の中に入れ……られないんだった。
「あのー、な、なんで腕を掴まれてるのでしょう?」
「うう……」
顔を真っ赤にしている涼奈からの返事はなし。
あ、これまさか。
ラブレターの差出人……が涼奈なのか。
あ、なるほどねー。
「大丈夫だって。秘密にしとくよ。うん、口は固いから」
「意味わかんない」
「え?」
「あ、あんたの頭の中で何が起こってるのかわからないけどさ、へ、返事はともかく、あ、開けてくれたっていいじゃない。な、なんでそんな他の人の机に入れちゃうの……? ばか」
「え?」
あ、僕、これ、よくないことやっちゃった。
まずい。
「わかった低めの屋上行くぞ」
「ええ?」
僕は教室の扉へと急いだ。
別に僕が涼奈の腕を掴んでいるわけではないので、涼奈がついてくるかは涼奈の自由なんだけど、涼奈は僕の腕を掴んだままついてきた。
人のいない朝の校舎を駆けて、低めの屋上についた。
今更だけど低めの屋上というのは、三階建ての一号館と三号館に挟まれた、二階建ての二号館の屋上のことだ。
三号館のベランダから行けるので、手軽に行ける屋上である。
「ね、ねえ……」
「ごめん。あの、僕本当に勘違いしてて……普通に僕宛だと思ってなくて」
「はいはい。若干そういう勘違いするかなって思いかけたよ。あんた、自分のことすぐ低く見るんだから。そう思って一応宛名も書いたのに」
「あ、気づかなかった。うすくて小さい字だし」
「だって……好きな人の名前書くのって、恥ずかしいじゃん……」
「……」
僕は涼奈を見つめた。
本当に僕のこと好きなのか、まじか。
いやどこで好きになったんだ?
それはラブレター読めばわかることか。
というわけで僕はラブレターを開いた。
思ったよりも冷静な自分。
冷静じゃないのは涼奈だった。
「あのさ、恥ずかしいからね、お手紙にして渡したんだけどね、私の目の前で読まれることになっちゃってるんだけど……もう、もおおお……」
うーん。
うめいてる涼奈と違って、ラブレターはなんか改まった感じ。
でもちゃんと、僕のことが好きだって、わかる。
涼奈とは同じ美化委員会なんだけど、まさかそんなただ真面目に仕事をしてるだけで、彼女の目に魅力的にうつっているとは思わなかった。
でもまあ確かに、真面目に仕事してる人自体が少ないからな……。
言われてみれば、涼奈と僕が、ちゃんとやってる二人、みたいになってたかもしれない。
「あの……」
「う、うん」
僕は涼奈に話しかける。
「返事……」
「……」
「の前にさ、涼奈が書いてくれたこと、全部ちゃんと理解したいから。読めない漢字がいくつかあるから教え……うほっ」
「ばか」
ああ、綺麗にほっぺをたたかれてしまった。
まあ別にいいか。返事は決まってるんだからな、もう。
☆ ○ ☆
「また漢字テスト三十点⁈ もう、柑奈、ちゃんと漢字の宿題やってんの?」
「五回中……三回はやった」
「二回サボったのね? そういうところがこの点になるきっかけなわけよ、わかる?」
「はい……」
「あのー、質問なんですが、どうして僕は柑奈の漢字テストが悪いたびに一緒に座らされてるのでしょう?」
「パパうるさい! パパはそこで反省しなさい。無期懲役だからねあれは」
「十五年経っても許されてないのか……」
「でもね、私ね、いつも漢字テスト悪くてもパパが一緒に怒られてくれるから心強い!」
にこにこ笑う娘の柑奈。
いやその心強いっていう気持ちが、ま、漢字テスト悪くてもいっかってなるのに繋がってる説が。
まずいまずい。
涼奈から告白されてから十五年後。
漢字が苦手な僕と、僕の漢字嫌いを受け継いでしまった柑奈は、こうしてママからお説教を受けているのであった。
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