5.今日は私の誕生日
休日で余裕が出来たので投稿しました。
次話更新予定日:6月14日〜15日
たくさんの談笑する声。きらびやかな音楽と豪華な調度品。まだ社交界デビューをしていない私に年頃のお友達がいるはずもなく、見知らぬ大人たちに囲まれながらの誕生日会を過ごしている。
全員がお父様の知り合いだから別に楽しい誕生日ってわけじゃない。確か、寝着に着替える時に、暗殺者様がきてくれるシナリオだったはずだから、それまでの暇つぶしに話を聞いてるだけ。お父様は早々に仕事の話をしに行っちゃった。暇だなぁ。
私が足をぶらぶらさせて、暇を持て余していると、目の前に黒髪で澄んだ空色の瞳が印象的な少年が立った。歳は10歳頃だろうか。彼はじっとこちらを見て、少し微笑んでる。いや、目は細めているけど笑ってるわけじゃない。何かをさぐっているような......。
少年は目にかかった前髪を払うと、口を開いた。
「どうも、はじめまして。お姫様」
「......ええ、はじめまして」
「暇ですか?それはそうでしょうね。ここにいる大人たちはあなたの誕生日を祝いに来ている訳では無い。あなたのお父様とお近付きになりたくてやってきている人ばかりだ」
「知ってるわ。あなたは何故私に話しかけてきたの?」
「......僕はあなたとお近付きになりたい、と言ったらどうしますか?乗ってくれますか?」
ああ、なるほど。彼も暇を持て余していたのね。
私は静かに頷くと立ち上がって彼の手を取った。少年は一瞬、驚いた顔を見せたがすぐに愉快そうに笑うと一歩進んでバルコニーの方へと足を向けた。そして心底楽しそうに
「何をしましょうか。ずっと喋っていたいような、あなたと踊ってみたいような、そんな気持ちです。全てわかった上で僕の話に乗ったのはあなただけ。あなたは、初めての人だ」
と笑った。探るような素振りはなく、年相応の少年らしい笑顔だ。細められた目からは宝石みたいな空が覗く。
綺麗な目ね。ゲームのシナリオには登場してこなかったキャラだけど、攻略対象にいてもおかしくない顔立ちだ。
バルコニーに着くとまだ少しだけ明るい空を眺めて、近くの手すりに手をかける。少年もとなりに並び同じようにする。
「ねえ、あなたはどこの子なの?似ている方がどこにもいらっしゃらなかったから」
「あ、いや、僕は養子なので。血が繋がってないんです」
焦ったように取り繕う少年の様子を見て私は顔を手でおおった。
しまった。聞いちゃいけない事だったかぁ。そうだよね、家族のことに踏み入るなんてこの世界観じゃ尚更しちゃいけないよね。色々複雑な事情が絡んでくるんだろうし。
「ごめんなさい。プライベートを詮索するようなことを言ってしまったわ。名前は言わなくていい。私は好きに呼ぶから」
暇つぶしに付き合ってくれている少年に申し訳ないことをした後ろめたさで押しつぶされそうになりながらも精一杯の笑顔を全面に出し、これ以上は立ち入らないから安心してねということを暗に示した。少年は少し安堵した様子だった。
少しづつ星が見え始めたその頃、ずっと黙ったままだった私たちの間に流れる空気を断ち切るように少年が口を開いた。
「......最初は、純粋な興味でした。暇そうにしている今日の主役はどんな子なのか。僕が、お近付きになりたいと言ったら喜びながらついてくるような考え無しか、男好きか。でもあなたは違った。冷静に僕が暇つぶしをしているとわかってついてきた。......単純に僕だけを見てくれていた気がして嬉しかったです。僕の周りには僕の目にしか興味のない人が沢山いるから。養父母もそうです。養父母が見繕ってくる婚約者候補もそう。呆れてた、から、あなたの追求してこない態度がすごく嬉しかったです」
顔は何も感じてないように見えるけど、声は今にも泣きそうに震えていた。かすれるように言った嬉しかったですの声でどれだけ珍獣のように扱われるのが嫌だったか、辛かったかがわかる。少し、というかとんでもなく可哀想で、抱きついて慰めてあげたい。でもそれはこの世界観では褒められたことじゃない。ああ、私が彼のお母さんだったらすぐに抱きついてあげられたのに!
こちらを向こうとしない顔をこちらに向けようと手を伸ばしかけたその時。
「あら、ここにいたのアスール。そろそろ帰りましょう?さあ、その美しい瞳をこちらに向けて。......泣いていたの?潤んでいるからいっそう綺麗ね」
まるで国でも傾けそうな美女が少年に声をかけた。義母だろう。泣きそうになっていたことをいいことかのように言うその口ぶりが気に入らない。ちょっとそこのポジション変われ。
アスールと呼ばれた少年は急に笑顔を作ると1度瞬きをし、明るい声で言った。
「少し風で目がかわいてしまっただけですよ。帰りましょうか」
すれ違う時、彼の別れの言葉が耳にかすかに聞こえた。
「......お姫様、それじゃあまた」
さようなら、ではなくてまた、と言ってくれた。次こそ彼にいい言葉をかけられるようにしないと。
「ええ、また」
私は聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。彼が笑ったような気がしたのできっと聞こえただろう。去っていく彼の背中を見つめながらこの後のシナリオを頭のなかで反芻した。




