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第83話 力を手に入れる

「気持ちの分別は付いたか?」


「付かねえよ、胸の奥がムカムカしてる。でももうこの話題は出さねえから安心しろよッ」


 マルク達が住み慣れた地下空間を後にしたのと同じ時刻、ディーノとアンベルトは薄暗く足音が反響する階段を歩いていた。どうやら地下に向かっているようだ。


 驚く程静かな建物。

 仲間達に送る手紙を手渡した時に聞いたのだが、此処は国中にあるレヴィアスファミリーが保有している隠れ家の一つらしい。

 アンベルト達も首に賞金を掛けられ命を狙われており、廃墟の様なこの建物で息を潜めながら潜伏しているそうだ。


「そうか、では此れからの話をしよう。今日から修業開始だ、先ずは戦闘訓練を行ってもらう」


「戦闘訓練? アンタが銃の撃ち方でも教えてくれるってのか??」


「いや、教わるのは銃の撃ち方でもなければ、私が教える訳でも無い。もっと強力な戦闘技術をある男に教えて貰う。一先ず自分の目で見てみろッ」


 数分間歩いた二人は階段を下り終えて、重い防火扉のような扉の前につきアンベルトがその取っ手に手を掛ける。

 そして勢いよくその扉を開けると、その先には軽く500m四方はある巨大な地下空間が広がっていた。床は全てコンクリートで、何本か地上を支える支柱が立っている。

 

「凄えッ、何だよこれ?」


「訓練場だ、則を利用して思い切り戦う為のな。此れでも狭い位だ」


 今まで見たことが無い巨大空間に度肝を抜かれるディーノとは対照的に、アンベルトは見慣れている様で表情を一切変えずに足を踏み入れていく。

 しかしディーノに疑問が浮かんだ。此れで狭いとはどういう事なのだろうか?


「此れで狭いのかよ? 一体どんな修業をするつもりだよ」


「直に分かる。おいゴンザレスッ!! ディーノを連れてきたッ修業を付けろォッ!!」


 途轍もなく巨大な空間全てに響き渡る程の大声をアンベルトが発すると、空間の奥から凄まじい速度で人影が迫ってくる。

 始めは遠すぎて人相も体格も把握出来なかったが、近づいてきて相手が自分の二倍以上の肩幅を誇っている事に気が付いた時漸く誰だか分かった。

 此処で意識を取り戻したとき、息が掛る程の至近距離で自分を凝視していた大男である。


 その大男は豆粒大にしか見えない距離から弾丸の様に走ってきて、ものの十秒程度でディーノの前に姿を現した。

 アンベルトに呼ばれた大男、ゴンザレスは足の裏から煙が出しながらブレーキを掛けてディーノの前に停止し、満面の笑みで手を伸ばして来た。


「やあディーノ、この前は脅かせちゃって悪かったね。僕はゴンザレス、今日は僕が君に修業を付けるよ。一緒に強く成っていこうね!!」


「あッ、ああ!! 宜しく!!」


 ド派手な登場には一瞬ビビったが、その声を聞き表情を見たディーノは直ぐに相手が良い奴であると気が付いた。

 数日前に会った時と同じく、僅かな悪意も感じさせない男である。

 ディーノは迷い無くその手を掴み返す。

 過ごした時間はまだ数秒だが、既に二人の間には謎の友情が出現していた。


 そんな二人を見て居心地が悪そうにしていたアンベルトが痺れを切らした様に口を開く。


「男同士で見詰め合うな、気色悪い。さっさと修業だッ我々に残されいる時間は有限なんだぞ!!」


「了解ですッ!! ディーノ、ちょっと準備するから付いて来てッ」


 アンベルトの声を聞いたゴンザレスは慌てて手を離し、一目散に地下空間の中央を目掛けて走り抜けて行った。

 当然の様にダダダダダダという衝突音を響かせる全力ダッシュ。

 全力以外のギアを持ち合わせていない様な男である。


 そしてディーノが数秒遅れてその背中を追おうとし、アンベルトに話掛ける。


「俺の修業は、あのゴンザレスって奴が言ったメニューを熟せば良いって事か?」


「ああ、その通りだ」


 アンベルトは薄い笑みを浮かべながら頷いた。


「あのゴンザレスは我々マフィアには珍しく人並みの、いやッ常人以上の優しさと思いやりを持った非常に素直な男だ。きっとお前に最適なメニューを提供してくれる筈だッ」


「なッ、何でお前笑ってんだよ……」


 話している最中でアンベルトは急に耐えられなく成った様に笑みを深め、気味の悪い笑顔を作ってゴンザレスの説明をした。

 ディーノはその表情に若干の不安を覚える。

 しかしディーノの不安を解消する事無くアンベルトは再び無表情に戻り、振り返って元来た扉へ向かい歩き始めた。


「とにかくお前はあの男の指示に従っていれば良い。終わったら勝手に汗を流し、着替えて自室に戻れ……修業を切り抜けられたらの話だがな」


 最後にそう言い残してアンベルトは扉の向こうに消える。

 ディーノはその含みのある言葉に違和感を覚えて頭を傾げたが、とにかく自分が今すべき事は明確に成ったのでゴンザレスの背を追った。

 そして空間の中央に到達すると、何も無い場所でゴンザレスが巨大な身体を丸めてタイマーを弄っている。

 その絶妙な不格好さは非常にコミカルに映った。


「ゴンちゃん、タイマー弄って何すんの?」


「ん? ああ、このタイマーを五分でセットするから音が鳴るまで殴り合うんだよ」


 ディーノは背後からゴンザレスのグローブの様に巨大な手に包まれたタイマーを覗き込む。

 そしてゴンザレスは、突然の『ゴンちゃん』呼びにも一切気分を害した様子を見せず、満面の笑みで一切オブラートに包まない修業内容を発表した。

 その殴り合うという言葉を平然と言ってのける姿に、ディーノも流石に顔を引き吊らせる。


「そ、そうなんだ……」


「うん、そうだよ~……よしッ! 準備完了だ!! 早速やろうかッ!!」


 タイマーのセットを完了させたゴンザレスは少し離れた所にタイマーを置き、笑顔で振り返って巨大な拳を作った。

 どうやらゴンザレスは殺る気まんまんの様だ。

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