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第81話 突然の別れ

「ねえ、マルク兄ちゃん。一体何があったの? こんなにボロボロに成った事なんて今まで一度も無かったのに……ッ!! 其れに、ディーノ兄ちゃんはッ」


 全身を包帯で覆われたマルクの手を握りながらユウリが悲痛な声を零した。

 ディーノとマルクが年長者達を逃がした1時間後、足を引きずり苦しそうに息を荒げながらマルクのみが涙を流して帰って来た。

 その姿を見た仲間達全員が絶句したのは言うまでも無い。

 今までディーノとマルクが二人で行動し返り討ちにされた事など一度も無く、そして二人が揃って帰って来ないなど想像した事も無かった。

 そしてマルクが戻ってから丸一日が経ったが、依然として地下のアジトはパニック状態であった。


「大丈夫ッだ、ユウリ……もう少ししたら、俺がディーノをッ探しに行く。必ず見つけてきて、また、何時も通りの生活に戻るッから、心配するな……」


「駄目よッ!! 何カ所も骨が折れてて、大量に出血してるのよ? この状態で外に行くなんて絶対だめ、マルク兄ちゃんまで私達を置いていかないでよッ!!」


 ユウリは涙が一杯に詰まった目でマルクを見詰めた。

 たった今マルクの口から零れた言葉が彼女を宥める為の嘘ではなく、大真面目に今の僅かに動かしただけで激痛を発する身体でディーノを助けに行こうとしている長年の付き合いで悟ったのだ。

 このままではディーノのみならず、マルクまで帰って来ない様な気がして成らない。


 一方のマルクはその目と声を聞いて、ユウリがどれ程自分の身を心配してくれているのかしっかりと理解した。

 しかし理解した上で、彼の決心は全く揺らがない。

 寧ろ時間に比例して強く成り続けている。


「頼む、行かせてくれ……相棒が待ってるんだ。昔ッ、初めて食料を盗んだとき、約束したッんだ……どちらかがピンチに成ったら、必ずッ助けに行く、て」


 弱々しい声でそう言い切ると、マルクは痛みに呻き声を漏らしながら上半身を起こしてベッドから降りようとした。

 当然其れをユウリが許す筈もなく、慌てて止めに入る。


 その時、突如マンホールの蓋がノックされる音が地下空間に響き渡り、数秒後にその蓋が開いて落下音と共に男の声が聞こえた。


「……失礼します。此処はディーノ様の仲間の方々がアジトとしている場所で宜しかったですか?」


 即座に音の方向へ明かりが向けられ、その声の主が照らし出される。

 その男は寝癖が残ったままのボサボサな黒髪をしていて、黒縁の眼鏡にワイシャツを着た、くたびれたサラリーマンの様な印象を受ける男であった。

 しかし腰には奇妙な形をした剣が下がっており、戦闘能力のある人物である事が容易に想像できた。


 皆がその異様な雰囲気に口を噤む中、皆を代表してマルクが口を開く。


「そうだが、アンタは誰だ? ディーノについて何を知ってるッ」


 マルクはユウリの注意が突如現われたサラリーマン風の男に引き付けられている隙を突いてベッドから下り、痛みに呻き声を発しながらその男に近づいた。

 いろいろな事が起こりすぎて気が立ち、目には敵意が隠そうともせず輝いてる。


 だが先程マルクも対峙したアンベルトと同じく、その男もマルクの瞳を見て一切表情を変えなかった。

 能面の様な感情のない顔で、業務連絡でもする様に返答を発する。


「申し遅れました、私はレヴィアスファミリーに所属するフーガという者です。ディーノ様は現在我がファミリーで預からせて頂いております事を連絡しに参りました」


「預かっているだと……? ふざけるなァッ!!」


 『ディーノ様は現在我がファミリーで預からせて頂いて下ります』という言葉聞いた瞬間、マルクは怒りに身体を支配されて飛びかかった。

 しかし男はその突進を軽く回避し、マルクの身体は地面に叩き付けられる。


 地面に身体を打ち付けた事によって、骨折している部分が一斉に悲鳴を上げ始めて短い呻き声を上げる。マルクは本来動いて良い状態ではないのだ。

 一方の男は何も無かったかの様に口を開く。


「私は喧嘩をしにこの場へ着た訳ではありません、ディーノ様の無事を報告して手紙を渡すために来ました」


「ディーノ、はッ無事なのか? 其れに手紙ッて」


 床に転がり脂汗を吹き出しながらマルクは男を睨む。


「ええ、我々は悪意があってディーノ様を連れ去った訳ではありません。連れ去ったというよりも、戻るべき場所に戻ったと言う方が正しいでしょう」


「戻るべき場所だと? 詰まらない冗談を言うなッディーノの帰る場所は此処だ、俺とアイツで此処を作って家族が出来たんだ! 勝手な事言ってんじゃッ……」


「勝手な事を言っているのは貴方達ですよ。この場にいる誰もディーノ様が何処で生まれ、何故家名を持っているのか知らない……つまりそう言う事ですよ」


 マルクは男が言った事を聞いても数秒の間理解する事が出来なかったが、漸く理解が追い付いた時、身体に途轍もない衝撃が走った。

 詳しいことは分からないが、このマフィアがディーノを連れ去ったのは彼の生まれが大きく関係しているようだ。

 そして、マルクはディーノが出会う前に何処で何をしていたのか知らないのである。

 若しかすると、自分達がディーノを家族として引き込んだ事の方が誘拐に当るのでは……


「ディーノと、ディーノと直接話させてくれッ!! アイツが本当は何者なのか、今どうしたいと考えているのか、俺達の事をどう考えているのかを直接聞きたいんだッ!!」


「出来ません」


「何故だッ!!」


「ディーノ様自身の意向です。そして私も、これ以上ディーノ様に接触しない方が身の為だと思いますよ」


 男は疲労が溜まっているのか、眼鏡を外して目頭を抑えながら言った。


「ディーノ自身の意向だって? 何で、ディーノが俺達と会うのを拒むんだよ??」


 マルクの口から零れる言葉にはもう怒りの感情は込められていなかった。

 まるで怯えている様な、悲しみと戸惑いに溢れた声が薄暗い地下空間に響く。


「これ以上私から話しても意味が有りませんね。皆さんが知りたがっている内容は全てこの中に入っている筈です、自分の目で確かめて下さい」


 そう言うと男は懐から一枚の手紙を取り出し、マルクの目前に突き出した。


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