第57話 神域を踏み越えた男
「ギィヤァァァァァッ！！ 身体がッ身体がバラバラにッ！！ ななな何がッ起こってッ！？」
ネイサンは突然全身を襲った気が狂う程の激痛と迫る死に対する恐怖によって泣き叫んだ。
自分の身に何が起こったのか理解出来ず、唯只管に助けを求めて絶叫し続けている。
其れも当然であろう。何の前触れも衝撃も無く身体をバラバラにされて激痛に包み込まれたのだ、パニックに成らない方がおかしい。
その時再びパチンッという指を弾く音が聞こえた。
そしてネイサンが気が付くと、傷跡も僅かな出血も無く身体が元通りくっついていて痛みも綺麗さっぱり無くなっていた。
「へぇ？」
ネイサンは脳がフリーズして時間が止まったかの様に静止した。
しかし脳内を整理する時間を与えず再びパチンという音が響き、今度は縦に五分割する様にスライスされてネイサンの身体はパタパタと横倒しになっていく。
今度は知覚する前に意識が途切れたのか絶叫すらしない。
指を弾く音が響く。
そして同じ様にネイサンの身体は元通り傷一つ無く綺麗で健康的な肉体に戻り、意識が戻ってきた瞬間絶叫が響いた。
「うわあああああああああああああああああああああああッ」
等々言葉を発する事も無くなり、身体の穴という穴から液体を吹き出し顔を掻きむしりながら叫び声を上げる。
完全で最も整った状態で復活したにも関わらず、一瞬で髪に白髪の部分が現われて汚い汁に塗れた。一蹴で数十年時間が流れた様である。
「あぁ、あぁぁ……る、ルチアーノ貴様ぁ何をした？」
ネイサンがその身に残っている全ての力を振りしぼる様に弱々しくてか細い声を上げる。
ルチアーノは満足そうにネイサンが地面に両手を突きながら縋る様に自分を見上げているという光景を眺め、嬉しそうに口を開いた。
「お前が八つ裂きになるという結果を生み出してリピートし、お前の身体が元通りに戻るという結果を即座に発生させている。死による地獄の苦しみを高速で何度も味わえるという他に変え難い貴重な体験をプレゼントしてやる。残り100セットだ、精々楽しめッ」
そう言ってルチアーノは指と指をくっつけ、音を発する準備をする。
其れを見たネイサンは血相を変えてルチアーノに迫り、全身をブルブルと震わせながら慈悲を求めて縋り寄る。
「まままっまままッ待っでえ、お願いしッ、ブギィッ！！」
媚びを売るように汚らわしい笑みを浮かべるネイサンをルチアーノは冷めた目で眺め、迷い無く指を鳴らした。
その瞬間絶望的な表情を浮かべ、ネイサンはサイコロステーキの様に一般数センチのブロックにカットされて地面に崩れ落ちる。
そして即座に復活して再びカットされる、この繰り返しが百回以上続いて犬や豚を大量飼いしているかの様な人間とは思えない断末魔を高速で何度も響き渡らせた。
まるで玩具の様に何度もバラバラにされて復活しまたバラバラにされる。
一瞬のうちに全身を切り裂かれる激痛と身体のパーツが離れていく喪失感を何度も味わい、ネイサンの魂に耐えがたいストレスが刻み込まれていく。
BIFの訓練によって鍛え上げられたネイサンの屈強な精神も気が付けば崩壊ししていた。
百度身体を切り刻まれ地獄から解放された瞬間、全てを完全に復元されたにも関わらず即座に全ての毛髪が抜け落ち肌の艶は消えて骨と皮だけに変化する。
その姿は生気が無く、まるで枯れ木の様だ。
「こ、殺して……殺して……」
死体と言われても驚かない様な姿に変化したネイサンは、脳内を埋め尽くす痛みと恐怖から解放される為に死を求めた。
しかし彼の精神は完全に肉体から乖離してしまい、自らの手で命を絶つことが出来ない。
其処でネイサンは光が消えて落ち窪んだ目でルチアーノを見上げる。
「お願いします……殺してッ下さい」
隙間風のような弱くて耳障りの悪い声で請願する。
しかしルチアーノは手を下そうとしない、道ばたの小石でも見る様な無機質で詰まらなさ気な視線を足下に落とすのみ。
彼の胸中に有ったのは虚しさだけ。
自分の妻とファミリーの運命がこの程度の低俗な人間によって狂わされた事が、なんとも言えない虚しさを感じさせた。
ルチアーノはコントラストが消えた目で近づき、ネイサンの耳に小さな声で囁く。
「お前には殺される価値も無い、死んで解放される事も許さない。地獄の苦しみと埋まらない無力感を背負いながら生き続けろッ」
そう言うとルチアーノはネイサンの首根っこを掴み、ゴミでも放る様にすっかり廃墟と化してしまった街の中に放り投げる。
ネイサンの身体は余りにも軽く、空中で力なく一回転して瓦礫の中に消えていった。
最低最悪の気分であった。
何も得られた物は無く、失うばかりの戦い。
あの様な小物を幾らいたぶっても失ったモノは戻らないし、自らの残り少ない命を消費してしまったせいで死の時間が迫っていた。
ディーノの事が気掛かりであったが、何故か生きているという強い確信があった為心配はしていない。父と子は繋がって居るのだ、生きているのか死んでいるのか位は分かる。
其れよりも今は命尽きる前にやっておかなくては成らない事が有るのだ。
「……二人で話せる場所を作ってやったぞ、出てこいよッ」
その声を聞いて背後から足音が近づいてくる。
『やっておかなくては成らない事』とは、今回の事件の首謀者である裏切り者から話を聞く事であった。
裏切りに対する怒りは無い、唯理由が聞きたかったのだ。
「私を殺しますか？ ボス？？」
「殺さねえよ、逆にお前が自主性を持って行動してくれた事が嬉しい位だッ」
背後からの声にルチアーノは振り返らずに言った。
元々何と無く予想は付いていたが、その声を聞いて予想は確信に変わる。
聞き間違える筈が無い、何度も寝食を共にして人生の半分を共に過ごした愛弟子の声である。
「だが一つだけ教えてくれ…何故裏切った？ オーウェン？？」
今日もお読み頂きありがとうございます！！
今朝は午前5時半に起きて小説をきています、午前中に3時間書いて午後は少します。
休日をお楽しみ下さい！！
『『ブックマークと評価、感想を宜しくお願いします！！』』
