第43話 笑う腕無しピエロ
「ギャハハッデュフフデュフッデュハハハハハッ」
地面を凄まじい速度で走り抜ける足音と共に、水路中に響き渡る巨大な笑い声がトムハットとディーノの鼓膜を揺らした。
スピードも笑い声も明らかに常人のモノでは無い、確実に狂人が迫ってきている。
「おいディーノッ!! しっかり捕まってろよ、何が来ているのか分からないがとにかく逃げるぞ!」
「う、うん!!」
真っ暗で何が近づいてきているのか分からないが、追い付かれれば碌な事が起きないと目に見えている。
トムハットは一切背後を振り返ろうとせず、一目散に前方へと走った。
大量の死体が足に引っ掛かり何度も転倒しそうになるが、今までの人生で体験したことが無い程の体幹筋の活躍によって何とか持ち堪える。
「見えたッ! 梯子だぞッ!!」
数メートル先に錆びによって赤茶に変色した梯子が見えた。
とにかくアノ梯子を登れば背後から迫る存在から逃れられると信じ、疲労によって言う事を聞かなくなり始めた足を無理矢理動かす。
その時、ディーノは絶対に振り返らないと心に決めていたが、つい心の中で暴れ続ける好奇心に負けてしまい背後を振り返ってしまった。
「ハキャッキャキャキャキャキィアアアアアアアアアッ!!」
ディーノの瞳に映ったのは、もう20m程って来ていた絶叫とも笑い声とも取れない声を上げながら走るピエロの姿。
両手が切断されていて、心臓の少し横に刀傷がある。
右腕は完全に切断されて無く、左手は肘から先が無く半分の長さしか無い左手を凄まじい速度で振り回しながら迫ってきているのだ。
その表情は途轍もない重傷を負っているにも関わらず満面の笑顔。
体勢が算定しないのか上半身をブンブン振り回して何とかバランスを取り、凄まじい速度で二人を追いかけてきている。
「ヒイッ!? と、トムハット!! 凄い速さで腕の無いピエロが追いかけてきてるよッ!!」
「腕の無いピエロ!? クソッ、まだ死に損ないがいたのかッ」
トムハットは具体的に背後から追いかけて来ている存在がイメージでき、より一層恐怖が増した。
しかしディーノが教えてくれた情報は活路を示してくれた、手が無いという事は梯子を登れないという事である。
つまり梯子で一定以上高いところに行けば逃げられるのだ。
(大丈夫ッ大丈夫だ!! 梯子さえ登れば何とかなる!!)
トムハットは最後の力を振り絞って梯子に飛び付き、縋り付く様に登り始めた。
しかし狂った叫び声はもう直ぐ其処まで迫っていて追い付かれる寸前である。
(頼むッ……間に合ってくれ!!)
我武者羅に手と足を動かして登っていく。
背中ではディーノが抱きつく力を強めて、小さく震え続けて居る。
自分が追い付かれて引き摺り降ろされば背中にくっついているディーノまで道連れになってしまう、其れだけは絶対に許容できない。
「死んでッ、死んで溜まるかァァァ!!」
心からの叫びをトムハットは吐き出し、握力が無くなって吊る寸前である両手を上へと伸ばし続けた。
その時、下の方から凄まじい衝突音と振動が伝わってくる。
慌てて只管上に向けていた視線を足下に移すと……
「やった……やったッ間に合ったぞ!!」
その衝撃はチャムラップが二人よりも下の梯子に衝突した衝撃であった。
あと数秒遅れていればその衝突に巻き込まれ、地面に引き摺り降ろされていたであろう。
両手の無いピエロは梯子に衝突してヨロヨロと後退り、手が届かない所まで逃げたトムハットとディーノを口惜しそうに見上げた。
つい数秒前まで恐怖の対象でしか無かったその表情であるが、手出し出来ない程高い場所まで逃げた今となっては酷く滑稽に見える。
「ディーノもう大丈夫だ!! 下を見てみろ、俺達は完全に逃げきッ……」
上からチャムラップを見下ろし、まるで動物園のライオンでも差しているかの様なトムハットの声は途中で途切れた。
悔しそうにしていたピエロの表情が、突如ニンマリと邪悪な笑顔に変わったのである。
トムハットは冷や水を掛けられた様な悪寒を覚え、慌てて更に上に登ろうと手を伸ばした。
「アヘアヘアアアへへへへヘヘッアア~ッ!!」
しかしトムハットが慌てて上に逃げようとした時には既に手遅れ、気味の悪い笑い声が響着始める。
腕の無いピエロは両足を折り畳んで筋肉を収縮し、口をパカッと大きく開いたと思ったら一気に地面を蹴って巨大跳躍を見せた。
そのジャンプは6m上空にいるトムハットの元まで到達し、右足のアキレス腱の部分に噛みついてバリバリという音を出しながら噛み千切ったのだった。
「あッ、あぁッ、うああああああッ!?」
腱を噛み千切られた衝撃と激痛にトムハットは絶叫し、身体の力が抜けて梯子から手を離しそうになる。
しかし奥歯をギリギリと食い縛って持ち堪えた。
「トムハットッ!? 如何したの? 大丈夫!?」
その絶叫を聞いたディーノが心配そうに大きな声を上げた。
其処でトムハットはディーノを不安にしないよう真っ青な表情で無理に笑みを作り、再び手を上に伸ばし始める。
「大丈夫、だぞッ、ディーノ……。私がちゃんと外にッ連れて行って…………やるからッな」
身体を動かす度に激痛が走り、意識が飛びそうになる。
しかしディーノを是が非でも上に送り届けるという決意を胸に、根性に縋って何とか梯子を一番上まで登り切ったのだった。
今回もお読み頂きありがとうございます!!
一日六時間執筆してたら流石に眼精疲労が溜まってきますね、目薬差しながら頑張ります。
明日も午前8時、正午12時、午後10時に投稿するので是非見に来て下さい!!
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