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15 誰何する声を無視し、砦内部へ駆けこんだ


 誰何する声を無視し、砦内部へ駆けこんだ。


 エントランスにできた人混みをかきわけて強引に割りこむと、床に寝かせられた男の姿が視界に飛びこんできた。

 伸び放題の蓬髪に顔の下半分を覆った豊かな口髭。

 まちがいなく親方だった。

 意識はなく、いまも口からはとめどもなく血があふれている。

 全身に傷を負っているのか、見ているあいだにも血だまりが周囲に広がっていった。


 となりで座りこみ介抱を受けていた男が言った。


「村まで偵察に行った帰り、巡回中のデルモンド兵部隊に見つかって森に逃げ込んだところをオーガの群れにやられた。サイモンとクーパーは食われた。おれはベッカムの親方を助けるのが精一杯で」


 男もまた、全身血にまみれていた。

 親方を運んできたさいに浴びた血だけではなく、自身もいたるところに傷を負っている様子だった。


「森のそんな浅いところにオーガの群れがいたってのか。奴らは中深層モンスターだろう。めったに街道周辺には出てこないはずだ」


「デルモンドの奴らだってただじゃすまんだろう」


 周囲を取り囲んでいた野次馬が、次々と声をあげた。


 介抱を受けていた男は、身につけていた胸当てを力任せにもぎ取ると、激情のままに床に叩きつけた。


「森んなかでトレントが集団発生してるんだ。オーガが押し出されてくるくらいだ。おそらく、深部では全域がトレント化してる。放っておいたらスタンピードが起きるぞ。くそっ。親方を早く助けろ!」


 怒号を放つ男とは裏腹に、集まった人間たちは沈黙に包まれた。


 呆然とした空気が漂うなか、誰かの呟く声が聞こえた。


「村を奪還するどころじゃねえ。スタンピードが本当なら、いますぐ逃げねえと」


 それを聞きとがめた男の一人が、怒りの滲んだ声音で口を開いた。


「逃げるだとっ。おれら冒険者と砦の駐留兵がこれだけいるんだ。スタンピードに立ち向かうのが筋だろう!」


「避難してきた連中が何人いると思ってやがる。護衛もなしに街道を逃げさせるつもりか。魔物が押し寄せてきたら全員食われるのがおちだ」


「砦に立てこもろうにも、とてもじゃないが全員は収容できん。速攻で村を取り戻す目処が立たないのなら、砦のおさえには少人数だけを残して、難民たちの避難支援を優先せざるをえまい」


 砦の駐留兵であることを示すシンプルな軽鎧に身を包んだ男が言うと、薄汚れたマントに弓を担いだ冒険者の若者が反論の叫びをあげた。


「それじゃあ村に残っているギルドの仲間たちはどうなるんだ。なぶり殺しにされるのを見捨てろっていうのか!」


「そうだ! 砦の軍人たちさえ連れてきてくれりゃなんとかなるって、身を張っておれたちを逃がしてくれたんだ。ここで逃げるのは仁義にもとる」


「村のミスリルが欲しいのはおまえたちだっておなじじゃねえか!」


 次々にあがる若い冒険者たちの非難の声に、砦の士官らしき男は苦渋に表情をゆがめて答えた。


「デルモンド兵の不法占拠と魔物のスタンピードでは状況が異なる。貴族や軍の私欲のために、戦うすべのない平民たちを犠牲にしていいわけがなかろう。いまの我々は撤退を選ばざるをえん」


 不穏な対立感情とともに喧噪の湧きあがった人の渦をかきわけ、若い女の声が響いた。


「通してくださいっ。回復術士です。けが人はどこですか! 通して! ちょっと押さないでっ。いて! 誰だ踏んだ奴。通せっつってんだろ、ゴラァ!」


「ぐはぁっ」


 鋭い右フックを一閃させて士官を殴り倒し、強引に人混みを割って出てきたのは、髪をボサボサに振り乱したメルトだった。


 人の影に紛れるように立っていた私の姿を目敏く見つけると、視線だけで合図をよこし、倒れている親方へと駆け寄った。


 あとを追って親方を間近に見た私は、ひと目見て手の施しようがないことを悟った。


 左のこめかみから顎にかけての皮膚がごっそりとめくりあがっていた。

 すだれ状に垂れ下がった肉にちぎれた耳がブラブラと揺れ、破れた頬のすきまからは奥歯から犬歯までの歯列が剥き出しになっていた。

 オーガの爪のひと振りを、正面から顔面に受けたようすだった。


 革鎧の肩当てが右側だけ失われており、かわりに折れた鎖骨が飛び出していた。

 鋭い先端から、外気に曝された血液が糸を引いてしたたっている。


 肩から伸びる右腕はもっとひどかった。

 子どもの胴回りほどもあった自慢の力こぶは無残に潰れ、水の入っていない革袋のようにぶよぶよとひしゃげていた。

 肘から先も内部で骨折し、ずれた骨がいびつに皮膚を盛り上げている。

 親指と中指は薄皮一枚でかろうじてつながっており、残った指もすべて関節とは逆方向にねじ曲がっていた。


 下半身に目を向ければ、左の腰から太腿にかけての肉がザクロのように弾けていた。

 太い枝のようなものが膝上に刺さっているように見えたが、引き抜けるかどうか触ってみると、破裂した脚から露出した大腿骨だった。

 骨盤が粉々に砕けて靱帯が切れたため、右足の骨が付け根からはずれ、膝の関節からぶら下がっている状態だった。


 腕や足といった末端は、切断すれば死ぬことはない。

 頭も皮こそ剥がれているが、頭蓋骨に陥没や割れている箇所はなく、内部で脳が潰れている可能性は低いように思えた。


 問題は胸だった。

 なめした魔物の革に鋼の一枚板を貼りつけていた胸当てが、不自然なほど内側に湾曲し、胸板が半分程度の厚さになるまで潰されていた。

 血とも泥ともつかぬ赤黒い汚れを拭い去ると、両の手のひらを広げても覆い隠せぬほど巨大な足の跡がくっきりと刻まれていた。


 おそらくは、一瞬のできごとだったはずだ。


 親方の前に立ちはだかったオーガは右手のひと振りで顔面を崩壊させ、左腕を掴んで握りつぶしながら身体を持ち上げ、振り上げた勢いのままに、親方を森の立木へと叩きつけたのだろう。

 仰向けに倒れた親方の胸に、オーガの全体重をのせた脚が踏みおろされたとき、すでに意識が残っていたかどうか。

 まだかすかながらも生きていることが、信じられないほどだった。


 通常であれば、ここまで全身に致命傷を負った人間は下手に治療などしない。

 大神官クラスの回復術士でも、せいぜいが切れた腕や足をつなぐくらいで、ぐちゃぐちゃに潰れた身体の中身を治癒するなど不可能だ。

 できたとしても、時間をかけてひとつひとつの臓器を再生しているうちに大量の出血や呼吸不全で死ぬだろう。

 できることといえば、苦しむ時間を少しでも短くするためにとどめを刺してやるくらいがせいぜいだった。


 だが、いまはメルトがいる。

 女神を辞したことで、以前の全能ともいえるような聖魔法は失っていたが、彼女の回復術士としての腕前は他の追随を許すものではなかった。

 なにより、彼女の持つ人体の構造に関する知識は、この世界の常識とは隔絶したものがあった。


 私の縋るような思いを感じ取ったのか、メルトが私に向け、低い声で言った。


「わたくし一人では助けることはできません。あなたの協力がいります。あなたが人であることをやめて手に入れた能力なしでは、この方の命を救うことはできません。それでも、この方の命を救いますか?」


 考えるまでもなかった。私は羽織っていた外套を脱ぎ捨てると、全身を締めつけていた包帯をほどいた。


 解放された闇がぶるりと震え、周囲の空気を浸食するように溶け滲んでゆく感触が伝わってきた。


「気をしっかりと持って、自分の肉体を保ちなさい。あなたが自分の身体を制御できない限り、治療は成功しませんわよ」


 どこか散漫になりかけた意識を、メルトが引き戻した。


 同時に、周囲にいた人間たちの声にならないどよめきが聞こえた。


「なんだ、魔物かっ」


「こんなバケモン、見たことねえぞ!」


「どっからあらわれやがった!」


 続いて、幾振りもの剣が抜かれる鞘なりの音。


「落ち着きなさい! 私たちはあなた方と同じ冒険者です。そこのあなた、この砦の責任者でしょう。すぐに水となるべく清潔な布をありったけ用意なさってください。それから塩も。失った血のかわりに塩水で代用します」


 指名された男は、さきほどメルトによるパンチで打ちのめされた士官だった。

 意識が回復したばかりなのか、状況の変化に戸惑っているところを、メルトの矢継ぎ早の指示に混乱している様子だった。


「と、とにかく、親方を助けるのが先決だ。本当に助けられるんだな!」


「だからそう言ってるでしょう。わたくしと彼がいれば、生きているかぎりは死なせはしませんわ」


「彼……。その黒い魔物のことか? それはいったい……」


「いいから急げやコラ!」


 しびれを切らせたメルトが士官の足下にモーニングスターの星球を撃ちおろした。


「ぬおっ。わかった。疑問はあとだ。いまは親方を助けることに集中しよう。急げっ。水と布、それに塩を大量にだ!」


 士官の剣幕に打たれた冒険者や兵たちが、一斉に動きはじめた。


 にわかに騒然とする一帯から背を向けると、メルトは横たわる親方に手をかざした。


「全身に外傷多数。内臓にも致命的な損傷あり。通常の治療過程を踏んでいては肉体が持ちませんので、仮死状態になるまで体温を下げます。冷却(チルド)。呼吸、脈拍、ともに停止。脳幹の温度を摂氏十六度で維持」


 複雑な魔方陣が幾重にも重なり、親方の全身を舐めるように定着しては消えていった。

 それが終わると、メルトは別人のように感情を切り離した表情で親方を観察した。


「頭部、左側頭部から顎にかけて裂傷。皮膚の剥離あり。頭蓋骨および頸椎には損傷なし。右鎖骨、開放骨折。右鎖骨下動脈、断裂。あなたの出番ですわよ。つまんで止血してください」


 メルトは指先から出したウォーターの魔法によって傷口を洗い流しながら、次々と診断をくだしていった。

 応急処置が必要になると、私に指示を出す。


「手が邪魔です。もっと指を細くしてください。関節は必要ないでしょう。十本じゃ足りません。骨を組み立てて固定しますから、薄い板状のものも用意してください」


 私はメルトの意を汲み、身体の闇を幾重にも分裂させ、それらすべてを保持し続けた。


 いつしか、私の肉体は細い網目状となり、蜘蛛の巣が覆い被さるように、親方と治療するメルトの周囲を包んでいた。


「準備できたぞ。うわっ、これはいったいなんだ。どうなっている!」


 荷車を引き連れた士官の男が、私たちの姿を見て声をあげた。


「ちょうどいいところに来てくださいましたわ。あなた、ライトの魔法は使えますか?」


「せ、生活魔法ならば、ひととおりは嗜んでいるが」


 士官の男は無骨な職業軍人そのものに見えたが、意外に小器用らしかった。


「でしたら、こちらに入ってきてわたくしの手元を照らしてください。わたくしは手一杯ですし、彼はご覧のとおり闇属性ですので」


「闇属性……。これは闇属性の魔法なのか……」


 正確には闇属性の魔法ではなく、私自身が闇属性の生き物だった。


 網目をくぐって入ってきた男に手伝わせ、周囲の血だまりを洗い流したあと、親方の身体を空いた荷車の上に寝かせた。


 メルトはそのあいだに、持ってこさせた水と塩を混ぜ合わせ塩水を作っていた。

 時折、口に含んでは塩と水の割合を微調整しているようだった。


 完成した塩水を桶状に変形させた私の身体に注ぎこみ、同じく先端を針状にした管を通して親方の体内にゆっくりと流すよう、私に指示をすると、針を親方の太腿の内側に刺しこんだ。


「心肺停止からまもなく二十五分が経過します。四肢の断裂した血管の接合と折れた骨の整形が完了しましたので、これより心肺蘇生に移ります。心臓を動かすと同時に血管の亀裂部分から出血がはじまりますので、あなたは引き続き血管同士をしっかり繋ぎあわせてください」


 メルトが周囲に展開する私に向けて言った。


「隊長さんはわたくしが治療しているあいだ、手元のライトとウォーターでの洗浄をお願いいたしますわ」


 これまでの会話で、士官の男は、この砦に駐屯する部隊の隊長だと話していた。

 メルトの無茶ぶりに、小さいながらもライトの魔法による光球を三つ同時に生み出し、そのうえウォーターの魔法を同時展開して指先から微量の水流を出すことまでやってのけている。

 たいしたものだと思った。


「しかし、こんなに切り刻んでしまって、本当に大丈夫なのか。これではまるで解体だ。まともな治癒魔法とは思えん」


「魔法は人の持つ自然回復力を増幅させるだけですわ。破損した肉体を物理的に修復していくのが外科医療です。さあ、内臓の処置にうつりますわよ。胸当てを外すのを手伝ってください」


 大きくへこんだ胸当てを取り去ると、強く圧迫されたせいで潰れた皮膚が裏側に張りついていた。

 親方の胸は筋肉の繊維が剥き出しになり、脇腹から折れた肋骨の先端がいくつも突き出していた。


「胸骨および左右第三から第六肋骨の粉砕骨折による胸郭陥没。このままでは切開できないので、内側から持ち上げてください」


 メルトは無数に伸ばした私の腕の一本を掴むと、無造作に親方の身体に突き刺した。


「左右の鎖骨のくぼみと剣状突起の下、三カ所から挿入しますので、胸膜にそって肺を包むように展開してください。同時に骨折部分の整形もお願いします」


 体内に刺しこんだ腕の先端を分岐させ、微細な網目を袋状に組み合わせた。

 ゆっくりと力を込めて胸を押し上げると、折れた肋骨がゴリゴリと音を立てて撓った。


「気道確保。開胸による肺の萎縮を防ぐため、口から挿入したチューブで与圧を開始。切開します。隊長さん、肋骨を左右に押し広げてください。もっと強く。頭を突っ込めるくらいまで」


 震える指先を一度強く握りしめた男が、迷いを振り払うように腕に力を込めた。

 眼前に広がった光景に、青褪めていた顔からさらに血の気が失せ、土気色になった。


「気合いを入れなさい。どちらが瀕死なのかわからなくなっていますわよ」


 メルトの揶揄に言い返すこともせず、歯を食いしばった男の顎に太い線が浮かんだ。


「左右両肺、ともに挫傷。折れた肋骨による裂傷、複数あり。心膜の破裂による心嚢液の漏出が認められるも、心臓には損傷なし。直接圧迫を加えることで除細動をおこないます。隊長さん、やってください」


 うつろな目でメルトの手元を照らしていた男が、びくりと震えた。


「わ、私か! これ以上、いったいなにをさせようというんだっ」


「言ったでしょう、直接圧迫すると。じかに心臓を握って、リズミカルに揉んでください。いっちにー、いっちにーのタイミングで。さあ、はやく!」


 メルトは血まみれの手で士官の男の手を掴むと、てらてらと光る臓物のなかで潜りこませた。


「心臓は筋肉の塊です。血管さえ傷つけなければ、多少乱暴に扱っても問題はありませんわ。もっと強く、こうやって。いっちにー、いっちにー」


「ひぃぃ! ぬるぬるする。ぬるぬるしてるのにかたい! 弾力がっ、弾力があ!」


 しばらく心臓を動かしていると、親方の口や鼻から湧き水が染みだすようにして血が溢れだした。

 粘度が高く、どす黒い色をしていた血液は、しばらくするとほのかに薄紅色に色づいたさらさらの水流へと変わっていった。


「輸血代わりに循環させている生理食塩水ですわ。破れた内臓を治療し次第、一気に全身を活性化させます。胃、肝臓、および脾臓が破裂。縫合している時間はありません。鉗子での圧着のみでしのぎます。小腸と大腸に開いた穴からの漏出物に関しては、水洗いだけですませましょう」


 メルトは大きく開いた腹のなかに肘まで手を突っ込み、体内に収まっていたはらわたを一気にひきずり出した。

 すばやく内臓の種類ごとに仕分けて並べ、ひとつひとつを丁寧に水で洗っていく。


 必要な水流を出しているのは、もちろん士官の男だった。

 左手で心臓を握りしめ、右手でメルトの言うがままに、水の量を調節している。

 次から次へと繰り出される無理難題に打ち込むことで、もはや人体損壊といっても過言ではない治療行為から目を逸らしているのだろうことは想像できた。


 ワームのような腸を念入りに洗っていたメルトが手を止めた。


「内部に残っていた残留物はほぼ排出しました。これより治癒魔法を行使しつつ、全身を元通りに組み立てていきます」


 そこから先のメルトの動きは、まさしく神業といってよかった。

 手に持った内臓にヒールをかけながら、体内にあった位置にパズルのピースをはめ込むように配置していく。


 破けていたはらわたは、傷ひとつない蛇腹のくびれをとりもどし、潰れていた腎臓はみずみずしい張りを取り戻していた。

 裂けて気味の悪い断面を晒していた肝臓はつるりとした粘膜質の表面を取り戻し、破けて粘液が流出したスライムのようになっていた胃は熟れた果実のように指先で弾んでいた。


 繋げた骨、爆ぜた筋肉、破れた皮膚。

 ひとつづつ、丁寧にメルトはヒールをかけていった。

 それは、まるで細部にこそ神は宿るとでもいうような、執拗な行為だった。

 たしかに、それは魔法とはちがった。

 手をかざし、患部が光に包まれれば完了などという、手軽なものではなかった。


 気がつけば、彼女の助手を務めていた男が、身じろぎもせずにメルトの姿を凝視していた。


「傷がどんどんなくなって、まるで眠っているような姿に戻っていく。まさしく神の力だ。これほど凄惨な奇跡は見たことがない」


 男のいうとおり、横たわる親方の姿は、さきほどまで全身に致命傷を負って死にかけていた人間だとは思えぬほど、穏やかな顔つきをしていた。


「さあ、最後の仕上げですわ。体温を上げて肉体の恒常性を活性化させます。加熱(ヒートインクリーズ)。隊長さん、もう一度心臓マッサージをなさってください。今度は胸の上から手を押し当てて、胸骨マッサージで大丈夫ですわ」


「本当に、これで親方は生き返るんだな」


「言ったはずです。それに、そもそもこの方は一度も死んでおりませんわ」


 頭を振り、疑念を振り払った男が、教えられたとおり、親方の胸に重ねた両手を添え、一定のリズムで押し続ける。

 しばらくすると、体温を上げた効果なのか、血の気を失っていた親方の全身が桃色に上気してきた。


「やれやれ、これでひと安心ですわ。久々に軍医だったときの記憶を思い出しました」


 そういってメルトは懐から取り出したスキットルに口をつけた。

 白く細い喉元を上下に揺らして内部の液体を飲み込むと、強く目をしばたいた。


「くあーっ、きくぅー!」


 どこからか伸びてきた腕がその容器をひっつかむと、口をつける前から流し込むような勢いで飲み干した。


「くあーっ、染み渡るぜー! これが幻のエリクサーってやつかよ、ねーちゃん!」


 それはさきほどまで全身血にまみれ、生存を絶望視されていた親方の姿だった。


 なにごともなかったかのように目を覚ました親方の姿を見た周囲の野次馬たちが、次々と声をあげた。


「あれがエリクサー……」


「さすがは伝説と言われるだけある。本当に死者すら生き返るとは」


「最初からあれ使っとけばよかったんじゃねえか」


 喜びを爆発させる男たちの片隅で、メルトは絶望に肩を震わせていた。


「ああ、ボウモアの50年ものが……。あれが最後だったのに……」



たいした知識もないのに専門的なことを書きたがるから、こういう支離滅裂でバカな文章を並べることになる。

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