第8話 ケシュレ・ヴェルナー
テーブルには様々な料理が並べられていた。幸也の両脇と向かいには、名も知らないガタイの良い騎士たちが座っている。
『すげぇいい体格だ』なんてことを考えながら、自分もゆくゆくは隣の人達と同じような体型になるのだろうかと未来の自分の姿を想像する。
「おめぇ、見ねぇ顔だけど、噂の時期違いの新入りか?」
隣の男が突然顔をこちらに向けて、聞いてきた。
「ん? あー、多分そうだ。てか、俺って噂されてんの?」
そんな雰囲気を今まで感じなかった幸也は男に尋ねる。
「あぁ。騎士の中じゃ絶賛、話題の種だぞ。ただ聖騎士の方と一緒にいるもんだから、みんな声を掛けづらいんだろうな」
答えた男は苦笑する。騎士にとって、自分がそれなりに注目されているということと、聖騎士という者たちの存在が良くも悪くも特別なものであることを、幸也は改めて知った。
「……そっか。あんたはそういうのあんま気にしたりしねぇのか?」
「んまー、気にしてはいるが聖騎士の方々も俺らと同じ人間だしな。そんなにビビりまくることもねぇだろ」
そう言って白い歯を出して笑う男。幸也は、話している男の気前の良さに、騎士も付き合いづらい奴らばかりではなさそうだなと感じる。少なくとも今話しているこの男は好印象だ。
「あんたイイやつだな」
微笑み返す幸也。
『だろ』と男は笑顔でそう言うと、何かを見つけたように幸也の後ろに視線を移す。その視線の方へ幸也も体を向けると先には、儀式のときにもいた司祭の格好の男性がいた。
「騎士の皆さん、そろそろ夕食の時間です。全員席に着かれていますね。」
そう言うと司祭は、無表情な顔を幸也達に向けて、周りの騎士が静まるのを待つ。すると先程まで騒がしかった食堂はまたたく間に静かになり、騎士全員が司祭の方を見る。その光景を見て、
「あなた方の目の前にある食事は、我らがグラウゼヴィッツ王国と、その国を治めてくださっている王のおかげで食べられるものです。そのことを忘れず、感謝して食してください。」
食堂内に通る声で言い切った。そして言葉を言い終えた司祭は、スタスタと出口へ歩いていき、すぐに視界から消えていく。
あの言葉は、日本で言うところの『いただきます』のようなものだろうと幸也は考えた。司祭が消えた瞬間、一斉に大はしゃぎで食事にかぶりつき賑やかになった様子から、その推察は概ね当たっているものだと思われる。
肉やパンにかぶりつく騎士を見て、幸也もそれに釣られるように食事に手を付ける。料理はどれも美味しかった。パンは想像以上に柔らかいし、肉料理の味付けも幸也好みのものである。
食事を取りながら幸也はあたりを見回す。
――――――幸也が探している人がいなかった。
「なぁ、あんた。ここにはケシュレって人はいねぇのか?」
見渡した限りめぼしい人物を見つけられなかった幸也は、先程の男に話しかける。
「ん? ケシュレ卿のことか? あの方だったら多分、別の部屋で飯を食ってると思うぞ」
余程料理にがっついていたのだろうか。男の口の端には料理のかすがついている。そんな顔のまま、彼は幸也の方を見て、口の汚れは気にした素振りも見せずに、質問に答える。
「別? なんでだ? 騎士はみんなここで飯食うんじゃねぇのかよ? 女だからか? それとも聖騎士の特権か?」
幸也は男の答えに対して、更に質問を投げかける。
彼の探していた人、――それは四人いる聖騎士のまだ会っていない最後の一人、『ケシュレ・ヴェルナー』だった。
その人物はどうやら騎士団唯一の女性騎士らしく、そんな変わった特徴を持つ彼女と、幸也は話してみたいと考えていたのだ。
「聖騎士の特権だとかじゃあねぇ。んまぁ、女だからってのは……当たってるっちゃ、当たってるな……」
含みのある言い方で男は顔をこちらに向ける。その顔の眉間には、少しシワが寄っている。その様子に疑念を感じる幸也。
「まーた、ワケ有りかい! ……揃いも揃って相変わらずだな……」
うんざりだというように、両手をだらんとさせて幸也は大きなため息を一つ吐く。
「まぁ、あの方たちは俺らとは次元が違うからなぁ。悩みなんかも、それ相応に抱えてるんだ」
「そうだとしてもなぁ……もう少し他の人に相談するとかすればいいのに……」
「俺らみたいな奴らに相談して解決できちまうことなら、そもそも悩んだりしねぇだろうさ」
苦笑しつつ肉に食らいつく男。それにつられて幸也もパンに手を出す。テーブルを見ると、最初にたんまりあった料理がほぼなくなっている。夕食の時間はあっという間に終わりを告げる。
「飯がなくなっちまった。……まぁ、十分食ったな。そろそろお開きにするか」
少し名残惜しそうに男は独り言をつぶやいて席を立つ。幸也の周りを見るとほかの騎士たちも続々と席を立ち始めていた。
「ケシュレ卿のことなんか聞いて何考えてんのかは知らんが、まぁがんばれよ新入りー。俺はとりあえず寮に戻る」
「おう、サンキュー。んじゃな」
片手を振りながら去っていく男の背を見ながら幸也はお礼を言う。
「さて。一旦会いに行ってみるかな」
椅子から立ち上がり、彼は食堂の出口へ向かっていった。