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ワンストックのマイライフ~『復活』の力で異世界を生き抜く高校生~  作者: 蒼井バウム
第1章 ファーストフレンド
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第三話 ウェアーアーユーフロム?

幸也は、先程まで自分が馬の代わりと言っていた動物――、幻馬が引く馬車にファトラウと二人で乗っていた。前には御者台から馬車を走らせる御者のような役目を担う騎士がいる。




 ――馬車に乗り込んでもう十分近くが経過しただろうか。その間に幸也は、ファトラウと話しながら、彼らの素性や、馬車を引く動物について、それとなく探っていた。分かったことは二つ。


 


 一つ目に、不思議な見た目の動物は、ヒポグリフという名前の種族で、幸也の推測通り、中世ヨーロッパでの馬のような役割をしているのだということ。




 二つ目に、ファトラウたちはこの王国の騎士であり、彼だけに関して言えば、そんな王国の騎士の中でもエリートなのだということ。




 馬車を走らせてからかなりの距離を走ったはずだが、街の景色は一向に変わらない。




 爽やかな自己紹介によって、うっかりと相手に流されてしまったが、これからどこに行くのだろうか、何をされるのだろうか。




 そもそも何故自分がこの世界へ来たのか、どうやって来たのか、おそらく存在するであろう金銭についてはどうするのか。




 そんなことを幸也はひどく神妙な顔つきで考えていた。




 そんな幸也の不安に気づいたのか、ファトラウは安心させるような言葉を彼につぶやいた。




「今は不安だろうが安心してほしい。これから行く場所は、君を拷問したりするような場所じゃない。君の身の安全は僕が保証するよ」




「んなこと言われたって、いきなり、見たことも聞いたこともねぇ、訳分からんイケメン騎士様に馬車に乗っけられて、敵か味方かもわかんねぇヤツがいるこの状況で、安心できるわけねぇだろ」




 不安であるということを否定せずに、やや早口で悪態をついてしまう幸也。そんな彼の態度を気にした様子もなく、だが何かに驚いたように幸也に質問を投げかけるファトラウ。




「――、ユキヤは僕のことを知らないのかい?」




 ――おかしな質問だった。




「あぁ、まったくもって知らねぇぞ。なんだ? いくら自分がイケてるからって自惚れすぎるのは良くねぇぞ。全世界の人間がお前のことを知ってると思ったら大間違いだからな。見てて腹立たしいぞ」




 そんな憎まれ口を叩く幸也に対してファトラウは黙り込んでしまう。そんな彼の様子を見て、さすがにやりすぎてしまったと幸也はバツの悪い顔をした。




「…………すまん、今のは俺が悪い。少し言い過ぎた」




 顔を見ずに謝る幸也。それでもファトラウは黙りこんでいるので、幸也はチラリと横にいる彼を見る。




 ――――横にいるファトラウは、なぜか申し訳無さそうな顔をしていた。とても落ち込んだ顔。




 どうしてそんな顔をするのか幸也には分からなかった。分からなかったが、彼の顔があまりにも浮かばれないので反射的に声を掛けてしまった。




「あー……大丈夫……だぞ。何考えてんのか知らないけど、そんな暗い顔するほどのことじゃない。なんとかなるよ。多分」




 幸也の適当な、元気づけるような言葉。その言葉に少し目を見開くファトラウ。そして彼はなにを思ったのか、許しを請うような顔で幸也のほうを見てなにか言おうとする――だが、




「ファトラウ卿、着きました」




 目的地の到着を知らせる騎士の言葉に彼の言葉は遮られてしまう。




 そんな、話を遮られたファトラウは、ふぅ、と短いため息を吐いた。そして先程の顔の名残を残しつつも、普段の爽やかな顔に戻り、




「では行こう、ユキヤ。案内するよ、王と僕たち『王国近衛騎士団』の城『ブルクシュロス』へ」




 そう言ってファトラウは、少し誇らしげに馬車を降りたのだった。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「城の大きさといい、廊下の広さといい、桁外れにもほどがあるな」




 思わず口をつく幸也。




 それもそのはず。幸也たちが今いるのはグラウゼヴィッツ王国のシンボル、王族の象徴でもある城なのだ。大きさ、派手さ、その他諸々全てが、常識の範疇を逸脱するものであった。




 城の巨大さはともかく、廊下の広さは特に異様だ。もはや、何を以て、廊下と名付けているのか分からない広さ。




 壁には、王の権威を示すためなのか、趣味の悪い、ギラギラとしたいくつもの装飾が施されている。




 そんなギラついた広間のような廊下を幸也たちは歩いていった。




 少し歩いたところでファトラウが足を止める。側面の壁にある扉に体を向け『ここだよ』と幸也に目的地到着を告げる。




 扉を開くファトラウに続いて部屋の中に入っていく。――その部屋は会議を行う場所であるような雰囲気を醸し出していた。




 縦長に見える広い空間に、中心には円卓のようなものが備え付けられてある。先程までの廊下のギラギラした様子とは打って変わって、落ち着いた雰囲気を感じる部屋だった。




「さぁ、腰を掛けて」




 円卓の前まで来たファトラウは笑顔で、幸也に座るよう促す。特別抗う理由もないので幸也も円卓の前まで行き、言われた通りに座る。




 幸也が椅子に座ったのを確認してから、ファトラウも椅子に座る。そして彼は幸也に語りかけた。




「僕が君をわざわざ連れてきたのは、どうしても聞きたい質問があるからなんだ。」




 そう言って先程までの笑顔から一変して、とても真剣な顔つきになる。どんな質問が来るのだろうか。少し顔がこわばる幸也。




「単刀直入に言うね。――君はどこから来たんだい?」




 こちらを真っ直ぐ見つめるファトラウがそう問いかけた。




 ――――ファトラウのあまりにもストレートな質問に幸也は思わず目を見開いた。色々な質問が飛んでくるだろうと考えて構えてはいた。だが、まさかいきなりそんなことを、意味ありげに問われるとは思っていなかった。




 ファトラウの質問に幸也は狼狽する。




「え……あぁ……えっと……」




「正直に言ってくれればいい。ユキヤの答えに僕は驚いたりはしないよ」




 ファトラウにそう言われて幸也はますます焦ってしまう。『――この男は自分が違う世界から来たことを知っているのだろうか』と、彼の頭に疑問が浮かんでくる。




 今のファトラウの質問の仕方だと、幸也が異世界から来たことについて、ファトラウ自身が知っているのか知らないのか分からない。




 だが仮に知っているのだとすれば、自分が異世界に転移してきた理由を、彼は何か知っているのではないだろうかと幸也は考える。




 『どう答えればよいのだろう』――焦りと迷いから幸也は黙り込んでしまった。




 部屋がしんと静まる。幸也は何も言えないまま俯いてしまっている。


 


 そんな幸也の様子を見て、ファトラウは言いづらそうにしながらもはっきりと声に出して彼に言った。




「ユキヤはその……東の……オステン出身じゃないのかい?」




 『――おすてん?』




 いきなり訳の分からない単語が飛び出してきた。幸也にはファトラウの言っていることがよく分からなかった。




 そんな戸惑いの表情を隠せない彼に対してファトラウは、気後れした顔で、




「とても失礼なことだから言うのを躊躇ったんだが……そのよく分からない服装や貧相な体つき。僕にはどうしてもユキヤがオステン出身のものにしか見えないんだ……」




 と、依然として黙っている幸也に語りかける。




「あの街は廃れてしまった……その原因を作ってしまった僕に……君は復讐しに来たんじゃないのかい?」




 ファトラウは申し訳無さそうな顔で、少し俯きながらそう言った。




 その顔を見て、幸也は先程の馬車の中での、彼の顔を思い出し、そして合点がいった。




 ――ファトラウは幸也がオステンという街から来たと勘違いしている。




 幸也の強ばった頬が少し緩んだ。先程までの彼が考えていたことはどうやら杞憂だったらしい。緊張が解け、思わず嘆息する。




 ――――ファトラウが幸也について勘違いをしていると分かれば話は一気に楽になる。何しろ彼は『自分がオステン出身で、だがファトラウに対しては敵意を持ってない』ということを伝えればよいだけなのだから。




「ええと……安心しろよ、ファトラウ。たしかに俺はオステンっていう街から来た。でも別に、お前に復讐しようだとかそんな物騒なことは微塵も考えてねぇよ」




 サラッと嘘を交えつつ、沈んだ顔をしたファトラウに、幸也は、はっきりと自分の声を伝えた。




 その言葉を聞いて、解せないという表情をしながら顔を上げ『では何故この街に来たんだい?』と、幸也に問いかけるファトラウ。




 何も返す言葉を考えていなかった幸也はファトラウに対し、




「あー……えーっと……仕事を探してんだ。……やりがいあって、まあまあ稼げる仕事」




 咄嗟にそうつぶやいた。一瞬『適当に言い過ぎたか』と後悔しかける。




 しかし、実際のところ就ける仕事があるなら、その仕事で金を稼がなくてはいけないと幸也はそう思っていた。こっちに世界にしろ、向こうの世界にしろ、金がないと生きてはいけないだろう。




 問題はこの世界の住人とあまりにも接点が無さすぎて、仕事を探そうにも探せなさそうということだった。


 


そんな時に発言したこの軽口。パッと何か閃いたような顔の幸也は、『仕事のアテを見つけるなら今しかない』そんなふうに思ったのか、少し躊躇いつつも、




「その……俺に対してなんか負い目を感じてるんだったら……おすすめの仕事の紹介みたいなのとか……してくれねぇか?」




 解せないという表情をしたままのファトラウに、そう語りかけるのだった。

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