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ワンストックのマイライフ~『復活』の力で異世界を生き抜く高校生~  作者: 蒼井バウム
第1章 ファーストフレンド
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第2話 王都ツェントルム

 ――気がつくと伊藤幸也は見知らぬ街の見知らぬ道のど真ん中に突っ立っていた。


「…………ッ!」


 呆然と立ち尽くしていた状況から意識が回復する。真っ先に驚いたのは胸の痛みだった。先程の痛みが嘘のように消えている。そのことに少しばかりの恐怖を憶える。しかし、恐怖よりも戸惑いのほうが大きい。それは何故なのか。理由は簡単だった。ありえないことが起き過ぎている。さっきの痛みは何だったんだ。そして何故いま平気なんだ。それから――、


「どけどけ! 邪魔だ! 危ねえだろうが!」


 男性の怒声と共に突如急接近してくる、馬車のような何か。猛スピードで走ってきたそれによって思考を遮られてしまった幸也は、轢かれないように慌てて道の端にそれる。馬車のような何かは、そのまま砂埃を巻上げながら突っ切っていき、次第に見えなくなった。


 周囲の人間が、何かあったのかとこちらに意識を向けている。安堵と疲れからなのか、はぁ、と深いため息をつくと、幸也はそんな人々の視線を無視して一度中断してしまった思考を再び巡らせることに集中した。


 まず真っ先に周りを見渡してみる。


 ――見たことのない動物がいる。


 ――所々に、()を腰に携えたガタイのいい男達もいる。


 ――そして先程の乗り物を引いていた動物。


 その光景に違和感を憶える。


「まさかとは思ったけどやっぱりこれ……」


 思わず口ごもりながらも幸也は違和感の正体に気づいたようにとある可能性を導き出した。


「――あれか? ネットでよく見る、異世界転移的なやつか?」


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 見知らぬ街に見知らぬ道。そして―、


「見知らぬ人たち……か」


 妙に納得したような、諦めたような、そんな声を幸也はこぼした。


 彼がさまよっている街は、一見するとイタリアのフィレンツェによく似ている。建物の色やデザインはほぼそのままと言っても過言ではないだろう。街を歩いている人々は金髪の人やブロンドヘアの人が多い。よくある中世ヨーロッパ風といったところだ。幸也がいきなりここへ来たという状況を除けばそこまで不自然な光景ではない。ただし――先程見た光景と、()()()()()()()()()()、そして()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()に目を向けなければだが。


 街を歩いているここの住人であろう人たちの服装、それは現代的な服装とは大きくかけ離れた、それこそ中世に生きた人々のような服装であった。また馬の代わりになっているであろう動物、これに関してはもはやファンタジーと呼ぶほかない外見をしている。鷹のような頭に、茶色の毛を纏った馬のような胴体と足。極めつけはその動物の胴体の背中にあたるであろう部分に翼がついていることだった。その見た目はまるで、どこかの丸メガネの少年が主人公の、ファンタジー映画に出てきていそうな外見だった。


 さっきの馬車みたいなのを走らせてたのもおそらくこの生き物だろう。さっきは思考が追いついていないのと走り去る速度が速すぎるせいで見逃したが、幸也はそう確信した。


 そこで思考が一段落し再び辺りを見てみる。周辺の人たちが奇妙なものを見るような目でこちらに視線を向けていた。


「視線がチョー気になるんですけど!」


 いろいろな人に、ジロジロ見られている幸也がそうぼやく。ここの人達からすれば、大半が金髪だったり、目が青色だったり、そうでなくともカラフルな色の人が多いのだろうから、黒髪で黒瞳、現地の人は普段見ることのないであろう現代の服を着ている幸也はとても異質な存在だろう。


 それはたしかに当然だ。だが、もちろん幸也からすれば異質なのは、視線を向けている現地の住人たちの方なのだ。


 ただ、それにしてもあまりにも視線に遠慮がない。この街の住人が特別そうなのか。それともむしろこれが当たり前なのだろうか。そのあまりの遠慮のなさに少しだけイライラしつつも幸也は状況把握のために街を見て回り続けるのだった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 しばらく歩いて街を見て回っていると、街が少しザワザワしていることに気がついた。騎士のような格好の人達が何人も街をウロウロしている。それも忙しなく、何かを探しているように――。


 「なんか忙しねぇなぁ。犯罪者とかが逃げ出したのか? ……それでもあの急ぎようは普通じゃねぇよな」


 そんな忙しなく動いている騎士のような人達を見ながら、幸也は自分自身の考察をボソボソと口に出していた。その時だった。後ろから幸也に対してのものだろうと思われる声が掛けられた。


「そこの者! そう貴様だ!」


 思わず振り返った幸也に対して、明らかに警戒しているであろう声で肯定してくる者。後ろにいたのは幸也が先程まで見ていた騎士のような人達と同じような格好をした男だった。


いきなり呼び止められ警戒されている雰囲気に幸也は戸惑いの表情を隠せない。そんな幸也を見て、警戒を保ったまま男は、


「先程、不審な人物の知らせが付近の民から届いた。黒い髪に黒い瞳。それに奇抜な服装。今の貴様と条件が合致するが」


 と、なぜ幸也が警戒されているのかを伝える。


 その警戒されている理由を聞いた幸也は驚いたようにあたふたと慌てて弁明するが、


「――え? いやいや! 俺怪しいやつじゃないって! 」


「信じられん」


「それひどくね!? 俺ってそんな悪そうなやつに見える!?」


「無論、私は貴様が怪しいと思ったから呼び止めたのだ」


 と、そっけなく一蹴される。『それに』と言葉を付け加えると


「怪しい者であれば怪しい者であるほど、自分は怪しくないと身の潔白を証明したがる」


 男はより一層警戒を強めた声で、そう言い放った。


 思わず『ええ……』と、落胆と困惑の混じった声をこぼす幸也。


 その時あることに気づく。幸也は異世界から来たにも関わらず、ここの人たちが何を喋っているのかしっかり理解できていたのだ。喋っている言語は日本語に聞こえる。それに、街の至るところにある、店の看板であろうものに書かれている明らかに日本語と違う言語が、スラスラ理解できていた。さらに文字だけに関して言えば、初めて見たとは思えない親近感を抱いていた。どこか馴れ親しんだような、懐かしい感じ――。


 そんな事を考えていた幸也はとっさに目の前の現実に戻される。男がいきなり近づいてきたからだ。


「とりあえず、今一番有力な怪しい人物として連行させてもらう」


 男の声には有無を言わせぬ勢いがあった。だがそんな簡単に捕まってやるわけにもいかない。

 

「いや! ほんとにッ! ほんとに俺ヤバいヤツなんかじゃないって! マジでヤバいヤツだったらとっくにあんたを攻撃してるよ!」 


 幸也はなんとか懸命に食い下がろうとする。だが、そんな幸也の主張を聞き入れず、どんどん近づいてくる男。


 捕まったら何をされてしまうか分からない。そんな恐怖からか、幸也はとっさに逃げようとしていた。『逃げた後どうするんだ?』という疑問が頭をよぎるが無視する。今は、とりあえず捕まってはいけないということだけを考えた。そして今にも逃げ出しそうな雰囲気だった、まさにその時――、


「少しだけ待ってくれないかい?」


 近づいてくる男の後ろから、別の男の声が聞こえた。決して大きな声というわけではないが、しっかりと耳に入り込んでくるような鮮明で若々しい声。


 その声に急いで反応するように後ろを振り向く男。そして、


「ファトラウ卿!」


 男は後ろの男をそう呼んだ。


 男は一言でいうと所謂イケメンだった。スラリとした体にさらりとした赤い髪、それに緑系統のきれいな目。他の騎士のような人たちと同じような格好をしている物腰柔らかそうな、初対面の人間にも好印象なイメージを残しそうなそんな青年だった。


「彼は僕が直接、城まで連れていきたい」


 ファトラウは透き通った声で男にそう言った。


「貴方がそうおっしゃるのでしたら……どうぞ……」


 少し解せないというような表情をしながらも男はファトラウの願いを聞き入れた。


「ありがとう。感謝するよ」


「いえ、これしき…」


 男に感謝を述べた後、彼は幸也に近づいてきた。そして幸也を少し観察するように見た後、なにか納得したような顔で聞いてきた。


「君の名前はなんていうのかな?」


 どういう状況なのか理解しきれていない幸也であったが『伊藤幸也だ』と、聞かれた問いに答えた。


「『イトウユキヤ』か、珍しい名前だね」


 そう言いながらファトラウは笑顔で幸也に手を差し伸べ、


「僕はファトラウ。ファトラウ・アムスデルクだ、よろしくユキヤ」


幸也に対して爽やかに自己紹介をした。その姿はまさにモテる男のそれだった。彼は、『そして』と付け加えると――――、


「我がグラウゼヴィッツ王国の王都、ツェントルムへようこそ」


赤い髪を風になびかせながら幸也に向かって優雅にそう言った。

文字数が1000字近く違うのですが大丈夫でしょうか…

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