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7.フレンド?3人目。①

ブチッ。


「……折角のチャンスだったのに」


ズリズリズリ……ブチッ。


「シルドラにさえいれば、今頃は実質初の本当のフレンドと一緒に料理の話が出来たのに……」


ズリズリズリ……ブチッ。


「もう急いで帰っても新フレンド(予定)とは会えないんだと思うとすぐに帰る気が起きないなぁ……」


ズリズリズリ……ブチッ。


「仲間と一緒にゲームを楽しんでるやつ等が妬ましい……」


ズリズリズリ……ブチッ。


「フレンドが欲しい……」


ズリズリ……~♪。

軽快な音楽と共に、目の前にモンスターコールの画面が現れる。


「……うん、フレンドになってくれたクレオには感謝してるよ。ただもしかしたら、更にもう一人フレンドが増えてたかもってのがショックで落ち込んで……いろんなものに当たり散らしたい気分なだけだから。だから、目の前に敵が迫ってきてるタイミングでモンスターコールでスタンプ押すのは危ないからやめような?」


「ブルルルル……」


モンスターを発見して俺から少し離れた所に移動し、戦闘開始10秒前状態だったクレオから不満げな鳴き声が聞こえる。


けれど、それ以上スタンプが来ないという事は納得してくれたという事だろう。


ズリ……ブチッ。


「いっそ、本当にイベントの敵役とかになったら仲間出来るかな?……いや、無理か」


敵役な時点で、仲間はきっとモンスターとか他国の兵士とかそういう立ち位置だろう。


攻撃されるて倒される未来しか見えない。しかも瞬殺で。


ズリズリズリ……ブチッ。


「……悔しい……悔しい……悔しい」


ズリズリズリ……ブチッ。


「ハァ……」


ズリズリズリ……ブチッ。


「ハァ……」


ズリズリズリ……ブチッ。


「ショックが大き過ぎて気分がなかなか浮上しない……」


ズリズリ……~♪。

軽快な音楽と共に再び目の前に現れたモンスターコール画面。


「ん?戦闘が終わったのか。なんだクレオ、慰めて……白い目の馬と茸のコンビのスタンプは止めてくれ。茸生えそうな程ウジウジジメジメしてるのは自分でもわかってるから」


「ヒヒン……?」


「本当だって。だからこんなに茸を採取してるじゃないか」


ズリ……ブチッ。


そう言って俺は採取した茸をクレオに見せた。


え?何?そんな方法での落ち込んでるアピールいらないって?


だって、仕方ないじゃないか。


落ち込んでしゃがみ込んで地面にのの字書いてたら、そこに茸があったんだから。


何の気なしに採ってみれば、また更に2m位先に別の茸。


それを採ると更に2m位先に別の茸。


落ち込み過ぎて何もする気が起きなかったはずなのに、気付いたら茸を見付けては採る事を繰り返していた。


多分あれだ。いじけた気分の時や暇な時に地面に座っていると、ついつい草をブチブチむしってしまうような、あの感じ。


これがまた、所々で距離は多少違うけれど、採った場所でぐるりと周囲を見回すと、「行くの面倒くさいなぁ」と思わせない絶妙な距離に生えているんだ。


思わず「あそこまでだったら行くか」としゃがんだまま前進してキノコを採るという行動を繰り返してしまう。


この探して進んで採るの単純作業がまた落ち着くんだ。


溜まっていた思いを独り言(愚痴)として吐き出して同じ行動を繰り返していく内に、徐々に集中して無心に近付いていくこの感じ。


癒されるとまではいかなくても、気持ちの安定には役立っている気がする。


そうして、気付けば使うかどうか、使い道があるのかすらわからないようないろんな種類の茸がアイテムボックスに溜まっている。


なんていうトラップだ。



「それにしてもこの茸、何処まで続いているんだろう?」


初めの内はただの偶然だと思っていたけれど、こうも一定距離に続いて茸が生えているとなると、何かしらの意図を感じる。


そして、ついつい終着地点を探したくなる。


「こうして俺のフレンド獲得への道が更に遠くなっていくってか?ハハハ……」


自分で言っていてちょっと悲しくなった。


せめて、こんなセリフでも他の誰かが言ってくれれば会話になるのにとついつい考えてしまう。


ズリズリズリ……ブチッ。


「……はぁ」


また1つ茸を採って溜息が零れたその時、視界の端にに緑の物が入ってくる。


「……ジャズミ~ント?」


心配するように首……というか、体全体をしならせて傾げて俺の顔を覗いてくるジャズミント、改め俺のテイムモンスターとなった『アイデ』。


ちなみに名前の由来は、少しでもアイデンティティを大切にして欲しいと思ったからなんだけど……まぁ、種族としての設定がもう既にアレな感じだから、恐らく無駄だろう。


「アイデ、お前も心配してくれるんだな」


見た目ジャスミン(ゲーム仕様)にしか見えないそれにさえ、ついついホロリッときてしまう。


俺、自分で思っていたよりも寂しかったんだな。


……ブチッ。


「ん?何だ?俺にくれるのか?」


「~♪」


頭だと思われる白い花を咲かせている一番上の部分を撫でてやると、何を思ったのか、ジャズミントは自分の体に生えた葉っぱを一枚差し出し、俺がそれを受け取るとジャラ~ンッと機嫌良さそうに葉っぱのギターを鳴らした。


「なになに……『ジャズミントの葉』。クールで清涼感のある味と香り。食用可。……うん、ミントだな」


匂いを嗅ぐと、まさにミントという感じの香りがする。


そういえば、この森で採取を始めて結構経つけれど、まだミントは見付けられていなかったっけ?


ミントだったら、色々とハーブティーにしたり色々と使い道はありそうだけど、量がなぁ……1枚か。


「~♪?」


思わずジャズミントをジッと見詰めると、ジャズミントはまた体をしならせ、もう1枚自分の葉を取って俺に差し出してくる。


「有難う。だけど、あんまり葉っぱを取ると葉っぱがなくなって……あれ?減った感じがしないな。寧ろ増えている?」


茸採りに集中していて気付かなかったけれど、テイムした時に比べてジャズミントの葉が増えている気がする。


前の状態だったら、葉っぱ2枚も取ったら何処から取ったか一目瞭然という感じになっていたと思うけれど、今は葉が増えていて、後数枚取ったところで何処から取ったのかすらわからないだろう。


……どういう事だ?


「そういえば、前に恵が雑貨やで売ってた栽培セットでミントを育てたら、育ち過ぎて困ったって言ってた事があったな」


ミントって確か、繁殖力が凄いはずだ。


もしかして、それと同じでジャズミントも結構な勢いで増えていくとか?


まぁ、テイムモンスターな時点で2体に増えるとかそういう事はないと思うけど、気付いたら大きくなっていて葉がもっさりしているなんて事はありそうでな気がする。


少し気になって、アイデのステータス画面を開くと……見付けてしまった。『繁殖力過多』の文字を。


その文字に触れると更に詳しい説明は表示される。


どうやら、ジャズミントは生命力が高く、放っておくと葉がどんどんと増えていくらしい。


もっさりしていても、別に何か影響があるわけではなく、いちいち葉を取らなくても戦闘すると勝手に減って元の状態に戻っていくようになってるっぽい。


ちなみに、アイデは防御力も攻撃力も低いのに、HPだけはやけに高い。


きっと、これもジャズミントの特性による影響だろうな。


「まぁ、これならミントを定期的に結構な量、採取する事が出来そうだし良かったというべきか……」


視線を再びステータス画面からアイデに向けると、また葉っぱを差し出された。


慰めの意味もあるんだろうけれど、それ以上に葉っぱが多くなってきて邪魔だからという理由で俺にくれている気がするのは俺だけだろうか?


「まぁ、ミントティー飲みたいし、この香りも好きだから貰うけど」


葉っぱを受け取り、アイテムボックスにしまう。


ミントティーの次はジャスミンと合わせてポプリやお香ように香りを楽しむアイテムを作ってみても良いかもしれない。


ここはゲームの中だから、現実では作るのが難しい物なんかもアイディア次第で作れそうな気がする。


「この香りにリラックス効果とかもありそうだし、物によってはプレイヤーに話し掛ける時にリラックスする為の助けになるかもしれないな」


そんな事を考え、少し気分を上げて再度茸採取を再開する。




***



「ん?あれは……家か?」


暫く、茸採取をしながらの移動を繰り返していると、いつの間にかボロい……寂びれた味わいのある庭付きの小さな家へと辿り着いた。


こんな森の奥深くにある家という時点で、何かゲーム内で意味のある物なのだと思うけれど……。


「まるでヘンデルとグレーテルに出てくる魔女の家だな。……お菓子では出来てないし、古い建物だけど」


不安と期待を胸に、その小さな家へとゆっくりと近付く。


家の門は閉ざされていたけれど、家の煙突からは煙が出ており、中に誰かがいる気配は感じる。


「何が出るかはわからないけど、このまま帰るって選択肢はないしな。声を掛けるか」


ドキドキしながらゆっくりと大きく息を吸い込む。


「す、すみません!どなたかいらっしゃいますか?」


数メートル先の玄関に向かって大きな声で呼び掛ける。


……。


すぐには誰も現れず、これはハズレだったかと諦め掛けた時、ゆっくりと家の扉が開き、黒いローブを身に纏った老婆が姿を現した。


「煩いね。そこにあるベルが見えないのかい?」


不機嫌そうな老婆が視線で指し示した門の脇には、細い棒のようなものが立っており、その先には紐が垂れ下がったベルが付いていた。


なるほど。これを鳴らせば良かったのか。


指摘されて初めてその存在に気付いた俺は、垂れ下がっている紐を軽く引く。


カーンッ……カーン……。


決して大きくはないけれど、良く響く音が鳴り響く。


「……今更鳴らしても、もう意味がないよ」


俺の行動を見ていた老婆が呆れたような視線で俺を見て来る。


言われてみれば、確かにそうだ。ベルはあくまで中の住民を呼ぶ為にあるもので、もう既に出てきてくれている今の状況では鳴らしても意味がない。


「さて、こんな森の奥のあばら家までお前さんは一体何を求めて来たんだい?」


老婆がローブの下から覗く鋭い眼光を放つ目で、俺を見定めるように見る。


きっと、この質問には意味があるんだろうけれど……正直、何が正解なのかわからない。


もしかしたら、決まった手順を踏んでいれば、答えのヒントになるようなものがあったのかもしれないけれど、ここに来るまでほとんど採取以外していない俺には見当もつかない。


「何をしているんだい。さっさと答えな!私はこれでも結構忙しいんだよ」


どうすべきか無言で考え込んでいた俺に対して、老婆が急かすように告げる。


でも、急かされた所で答えがパッと思い付くわけでもなく……うん。どうせ答えなんてわからないんだし、こうなったら欲望に忠実に行こうじゃないか。


「俺は仲間が欲しい」


「……は?」


老婆が怪訝そうな顔をする。


けれど、もう口に出してしまったものは仕方ない。


大体相手はNPCだろう。


恥ずかしがる必要もないし、堂々と思いの丈を伝えてやろうじゃないか。


「俺は仲間が欲しい。そして、仲間と共に切磋琢磨したり楽しめる俺の居場所が欲しい!」


……言った。


言ってやったぞ!!


ずっと心の中に溜め続け、口に出す事が……愚痴としてテイムモンスターに聞いてもらうが一人で呟く事しか出来なかった思いを、ついに言ってやった。


……まぁ、相手はNPCだけど。



「……そうかい」


俺の言葉を聞いて、老婆はまずは一言そう返した。


その様子が若干引いているように見えたのはきっと気のせいだ。


クレオが後ろで呆れたような視線を向けているのも気のせいだ。


アイデは……相変わらず、我関せずで楽しそうに歌っているな。うん、通常運転だ。



「あ~、それだったら……」


老婆が顎に手をあてて少し考え込む。


その視線が俺をまるでスキャンでもしているかのよう下から上、上から下へと繰り返し行き来する。


「まぁ、良いとするか。珍しくジャズミントも懐いているようだしね。あんたの持っている茸10個とジャズミントの葉1枚寄越しな。そうしたら、ここに置いてやるよ」


「え?」


「察しが悪いね!部屋を貸して面倒を見てやると言っているんだ」


「……部屋?」


予想外の返答に頭の中に疑問符が浮かぶ。


一体、俺の希望をどう捉えたらこの答えになるんだろう。


あぁ、もしかして、『居場所が欲しい』という言葉を拾ってこの回答になったという事だろうか?


それならそれで構わないが……出来れば『居場所』という言葉ではなく『友達』というも言葉の方を拾って欲しかった。


「ほら、さっさとおし!それとも必要ないのかい?」


「え?あ、はい」


皺くちゃの手を出し急かす老婆の気迫に押されて、画面を操作して茸とアイデの葉を取り出し、おずおずと差し出す。


そういえば、茸は種類の指定があったのかな?


茸としか言われなかったから、適当に個数が多いものから10個選んで出してみたんだけど……あぁ、受け取ってくれた。問題なさそうだな。


「うん、まぁいいだろう。ほら、ボサッとしてないでついてきな。まずはその図体のデカいテイムモンスターの小屋から案内するよ」


老婆は着ていたローブの下に茸とアイデの葉をしまい……いや、あの量をローブの何処にしまったんだろう?見てると違和感しか感じないんだが。


まぁ、でもプレイヤーもアイテムボックスに荷物はしまってあるし、同じような原理……という事だろうか?よくわからない。


「ついてきな」


そういうと、今度はまたどう考えてもローブの下には収まらないだろう大きな杖を取り出し、それをカツカツと鳴らしながら歩き始める。


こうなると、ますます魔女にしか見えない。


この後、俺は美味しいものをたらふく食べさせられた後、鍋で煮込まれるのだろうか?


そんな死に戻り方は嫌だけど、状況が掴めない以上気を付けつつ流れに身を任せるしかない。



「ここが、モンスター小屋だよ。大型のモンスターは家には入れないからね。ここに来た時にはここで休ませな」


家の裏側に回ると、木で出来た簡素な柵と小さな馬小屋のようなものがあり、クレオをそこに預けるように促された。


年季が入っていて質素で、テイマーギルドのそれとは比べ物にならないレベルの代物だけれど、手入れだけはしっかりされているようで、汚さは感じられない。


老婆の「図体がデカい」発言位からやや機嫌が悪かったクレオだが、暫く馬小屋等を検分してから「まぁ、ギリギリ合格ね」とでも言うように「フンッ」と鼻を鳴らして柵の中に入って行った。


「あ、有難うございます?」


「ふんっ!さぁ、次はこっちに来な」


お礼を言うと、老婆は俺から顔を背けた。


一見怒っているようにも見えるけれど、機嫌は悪くはなさそうだ。素直ではないだけで、何となく俺のお礼の言葉を受け入れてくれたような気がする。


「さぁ、そこにあるのが聖樹さね。必要なら先に祈っておきな」


再びカツカツと杖を鳴らして歩く老婆の後について行くと、今度は1本の大きな木の前に着いた。


何処か神々しさがあり、他の木とは何処か雰囲気の違うその木は、シルドラにある世界樹にどことなく似ている。


ジッと目を凝らせば、視界の端に『ビマナの森 魔女の家の聖樹』という表示が現れた。


「……なるほど。これに触れてセーブすればいいわけだ」


老婆のいう祈るという行為が、ゲームで言う『セーブ』の意味なのだろう。


老婆の急かすような視線を背に感じつつ、小走りで聖樹に触れると『セーブしますか? はい/いいえ』の表示が現れた為、躊躇わずセーブを選ぶ。


これでいつでもここに来る事が出来るようになったというわけだ。


ゲームというものにあまり慣れていない俺には、その一連の流れもなんだか珍しいものに思えて面白い。


……ピコーン。


突然、軽快なお知らせ音と共に画面が開く。


『おめでとうございます。プレイヤーホープさんの手によって、『ビマナの森 魔女の家』が隠しエリアとして開放されました。世界樹と魔女の家の聖樹の花が1つ開きます』


「……え?」


画面に表示されたコメントを目で追ってその意味を理解した瞬間、慌てて聖樹を見上げる。


すると、そこには1つだけ綺麗な白い花が咲いていた。


「新イベント……というか新エリアが開放されたという事か?」


呆然としてその花を見た後、慌ててマップの表示がどうなったのかを確認する為にマップを開く。


「何か色の違うゾーンが出来ている」


前に見た時には、地図から外れた所にポツンッと自分の現在地を示すマーカーがされていただけだった。


それが、今はその周辺の部分が他の色と違う色で表示されている。


「……これが隠しエリアという事なのか?」


よくわからないけれど、可能性があるとすればそういう事だろう。


『隠し』と書いてある位だ。


きちんとこの魔女の家とかいうエリアまで到達しないと、地図上に表示されない特殊エリアという事なんじゃないかな?


こういう時に、ゲームに詳しい友達とか一緒に冒険している仲間がいれば解説をしてもらえるかもしれないけれど……。


俺は自分の方に座ってご機嫌に歌っているアイデに視線を向ける。


「~♪?」


語尾を上げた疑問形っぽい音楽が返って来たけれど、当然会話なんて成り立たない。


俺の背後で今も「早くしろ」とでも言いたげな鋭い視線を向けてくる老婆に視線を向けると……「終わったかい?じゃあ、部屋に行くよ」と次の場所へと促されてしまった。


……うん、やっぱりフレンドが欲しい。


一先ず、今は聞けるのは妹の恵しかいないから、この話はとりあえずおいておいて、今度連絡した時にでも聞いてみよう。



「何してるんだい!用が済んだんなら、部屋に行くよ!!」


いつまでも、聖樹の傍から離れようとしない俺に痺れを切らしたのか、老婆が声を張り上げる。


気になる事も気になる物も色々あるけれど、ここはこのまま流れに身を任せよう。


部屋を貸してくれると言っている以上は、ここへ滞在できそうだし、後でゆっくりと気になる事は確かめておけば良い。


再び歩きだした老婆に連れられ、遂に家の中へと入る。


家は外から見た時よりも広く、なんと二階建てになっていた。


外から見た外見は、完璧に一階建ての小屋だったから、とても違和感があるんだけれど、ここはファンタジーなゲームの世界。深く考えても仕方がないだろう。


「……薬草や薬がいっぱいだ」


全体に使い込まれていて趣のある雰囲気の室内。


その壁にはたくさんの棚が並んでいる。


中央には大きなテーブル。


壁の一角には暖炉があり、その近くには大きな鍋が何個も積まれている。


「そりゃあ、私は魔女だからね。調薬や錬金に必要な物は一通り揃っているさ」


ニヤッと笑う老婆は言葉通り本当に魔女っぽい魔女だ。


このゲームでは普通に魔法を使う事が出来るし、魔術師なんていう職業もあるけれど、この魔女を名乗る老婆はどちらかというと大鍋で怪しい色の物体をグツグツと煮込んで魔法薬的な物を作る系の魔女なのだろう。


ん?そう考えると魔女というよりは、薬師や錬金術師という職業の方が近いのか?


そこら辺の区切りがよくわからないな。


あれか?自分で名乗ったもんが勝ち的な感じか?或いは、見た目優先なのか?



……そういえば、俺もテイマーなのに黒騎士と呼ばれているしな。


深く考えるとドツボにはまりそうだから、考えるのを止めておこう。


それに、確かこの老婆は俺に部屋を貸してくれる上に面倒を見てくれると言っていた。


もしかしたら、調薬の知識も教えてくれるかもしれない。


そうなれば、二次職業を薬師にしている俺としては大変助かる。



「あ、あの……俺にも薬の作り方とか教えてくれませんか?」


部屋に置かれている薬草等の種類に驚く俺を見て、ぶっきらぼうなのに何処か自慢げな表情をしていた老婆が、ジッと俺を見てくる。


あまりの鋭い眼光に、思わずゴクッと唾を飲み込みつつも老婆から視線を外さず見返す。



「……いいさね。面倒を見てやるといったからには、気が向いたら教えてやるよ。ただし、時々私のお使いもやってもらうからね!覚悟しておきな、馬鹿弟子」


フンッと鼻を鳴らして顔を背けた後、老婆はそんな言葉を口にした。


これはつまり、調薬を教えてくれるという事だろうか?



……ピコーンッ。


『称号:ビマナの森の魔女の弟子(新米)を手に入れました』


言葉では弟子にしてくれると言っているけれど、魔女の突き放すような口調に本当に大丈夫なのか不安を感じているとお馴染みのお知らせ音と共に、画面が出た。


どうやら、本当に色々と教えてもらう事が出来るらしい。


表示された画面に触れ、称号について詳しく見ると、どうやら魔女のお使いを熟すごとに魔女の好感度が上がり、それに併せて薬師のレベルを一定まで上げると、魔女が時々特別な薬を作るためのヒントを与えてくれる仕様になっているようだ。


丁度、採取や調薬が楽しくなってきたところだし、これはこれで良い流れかもしれない。


「よろしくお願いします。えっと……」


名前を呼ぼうとして口が止まる。


よく考えたら、名前をずっと聞き忘れていた。


「あんたはどうやら抜けているらしいね。私の名前はビルマナだよ。まぁ、あんたは私のでしだからね。師匠とでもお呼び」


「よろしくお願いします、師匠」


背筋を伸ばしてしっかりと頭を下げると、老婆改めビルマナ師匠はまた「ふんっ」と言って顔を逸らした後、2階へと上がる階段に向かって歩き始めた。


「さぁ、ここがあんたに貸してやる部屋だよ。さっさと扉に手を付きな」


一度も振り返る事なく歩いて行ったビルマナ師匠は、2階の廊下を突き進み、一番奥の扉の前で足を止めた。


そして、一瞬俺をジロッと見た後、すぐに扉へと視線を戻し杖でその扉を指し示す。


……扉に手を付くって一体何をやらされるんだろう?


少しの不安を感じつつ、言われるがままに扉に片手を付く。


コンコンッ。


俺の手がしっかりと扉に付いているのを確認した所で、老婆は軽く扉を杖で叩いた。


すると、扉に『ホープ』とまるで焼き印を押したかのように文字が刻み込まれる。


「これでここはあんたと私以外開けられないからね。自由に使うと良いさ」


それだけ告げると、ビルマナ師匠はさっさと1階へ降りて行ってしまった。


「要するに、この部屋を自分の部屋として使う事が出来るという事か」


この前、恵が連れて行ってくれた拠点のようなものなのだろう。


恵達の場合、お金を払って買うもしくは借りているのだろうけれど、ここはゲーム内のイベントで手に入れられる仕様になっている。


お金が掛からなくていい反面、ビルマナ師匠が『貸して』くれている扱いになっている以上、彼女を怒らせる等、何かマイナスの条件を満たしてしまうと使えなくなってしまう気がする。


「どんな事をしたらNGなのかよくわからないけれど、折角手に入れた場所だ。自分なりに考えてなくさないように努力はしよう」


決意を込めて一人頷いた後、ドアノブに手を掛けて扉を押す。


キィィと小さな音を立てて開いた扉の先には……特に何もなかった。


いや、仮眠用の小さなベッドや机と言った物はあるんだけれど、他は特に何も置かれていない。


あ、流石魔女の家だけあって、暖炉と鍋をつるす場所だけは備え付けてある。


「後は必要な物は持ち込みでって事かな?」


まぁ、それならそれで問題ない。


俺には強い味方、調合基本セットBがあるのだから!!


……もう少し腕が上がってきたら、もうちょっとしっかりした調合用の道具を買うのも良いかもしれない。


道具に頼る気はないけれど……いや、道具も大事だな。


ここはゲームの世界だから、道具による効果は現実よりも重要になる。


「まぁ、まだ今は初歩の初歩だからこれで十分なんだけどね」


道中の森の中での調合にも調合基本セットBは非常に役に立ってくれたものだ。


最近、重くてろくに使えもしない武器なんかより、ずっと使用回数が多いこの調合基本セットBの方に愛着湧いてきている位だ。


「じゃあ、まだ時間もありそうだし、折角だからこの部屋で色々と作ってみるか」


そう言って俺はアイテムボックスから愛用の調合基本セットBや森の中で集めて来た薬草や茸、魔物の体の一部(主にアイデの葉)等を取り出した。


「さて、どんなものが出来るかな?」


調合基本セットの道具を手にした俺は、この時、とてもわくわくしていた。


他にもやりたい事、やらないといけない事はあるけれど、ちょっと位はのんびりと自分の好きな事を楽しんでもいいだろう。



うん、ちょっと位は……ね?

フレンド?3人目。……『①』になっているのを見てご察しの方もいるでしょう。

はい。また1話でまとまらなかったので、もうちょっとだけ続きます。

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