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6.フレンド2人?目。④

本日更新2回目です。


「よし、今日もやるとするか」


ログアウトした後、現実世界でやらないといけない事を細々と熟し、十分な休息を取った後、再度ログイン。


そして、コツを掴んだ回復草と魔力草の採取をさっさと済ませて、いざ初級回復薬と初級魔力回復薬の調合という事になったんだけど……流石難易度最低ランク。


調合基本セットBに入っていた鍋に、川で汲んだ水を入れて取った薬草を適当にグツグツと似たら、あっという間に完成してしまった。


まずは失敗してもいいから適当にやってみるかという思いで作っただけあって、★1の品質だったけれど、依頼品に品質の指定はないから、失敗さえしていなければ依頼品として提出しても問題ない。


ただ俺としては折角だし★5を作ってみたたかったから、その後はひたすら初級回復薬と初級魔力回復薬を試行錯誤しながら作り続けて★5を目指した。


結果としては、水は一度煮沸して冷ました物を使い、薬草は★5の物を素早く細かく刻んでからすぐに水に入れ、その後ゆっくりじっくりコトコトと弱火で煮詰めたものが、★5になった。


本当は依頼分の薬はさっさと作って、オリジナルレシピの薬づくりに取り組む予定だったんだが、★5が出ないのが悔しくて、結局次のアラームがなる直前まで使用した分の薬草の補充と調合を繰り返してしまった。


だが、★5に辿り着けた時の満足感は格別だったから、それはそれでよしとしておこう。


その後は、さすがにずっと同じような作業を繰り返し何回もやり続けていたせいで、疲労困憊だったからその日のゲームはそこまでにして、後は家でのんびりご飯を食べたり風呂に入ったりして過ごす事にした。


まぁ、グロウワールドをやる為に1週間も連休を確保したんだ。


初日からそんなに、根詰める必要はないだろう。




そして、迎えた翌日。


のんびりとした朝のひと時を過ごした後、早速ゲーム再開。


最終目標はフレンドを大勢作る事だけど、まだ休みは沢山あるんだから、折角だし、今日は調合に専念しようと思う。


仕事もそうだが、やっぱり俺はこうやってコツコツと色々な事を試しながら研究するのが性に合っている。


やってると、凄く楽しい。


というか、この単純作業と探求の組み合わせが物凄く落ち着く。


「よし、早速オリジナルレシピの薬作りだ!今日もボディーガードよろしくな、クレオ」


「ヒヒーンッ!!」


ログインしてすぐに、高級干し草と人参を進呈した甲斐があり、相棒のクレオの機嫌も上々だ。


ちなみに、最高級干し草も所持している事はもちろんクレオには言っていない。


俺の方は、試しに冒険者ギルドで買った携帯食料を食べてみたんだけど……うん、美味しくも不味くもない、リアクションに困る味だった。


穀物入りの焼き固めた甘さ控えめのクッキーのような感じ。


口の水分がやたらと奪われるけど、噛み続けると素朴な美味しさを感じられなくもない。


ただ、ずっとこれだと飽きるから、採取した植物を使って適当に料理もしてみようとは思う。



「1番多いのはやっぱり雑草だけど、採取しているとそれ以外の植物も結構色々あるんだな」


昨日採取した分の、植物を見る。


聞き覚えのある名前の植物から、如何にもファンタジーな名前の植物、後明らかにネタ枠の名前の植物まで、いろんな物がたくさんあった。


「カレーに使えそうなスパイスも採取出来たのは良かったけど、名前が『ダメーリック』『コリルンダー』『カモダモン』ってなんだよ!ってか、リックって誰だよ!!お前、仲間に止められているのに、懲りずにカモられてるだろ!!」


最初は普通にターメリック、コリアンダー、カルダモンだと思ってたんだけど、よく見たら微妙に違う名前だった。


そして、何故かストーリーが出来上がっていた事に気付いた瞬間、思わず全力でツッコミを入れてしまった。


その時、不意にピコーンッと軽快な音と共に、目の前に画面が現れた。


「ん?何だ?」


あまりに変なタイミングでの通知に首を傾げつつ、画面に視線を落とす。


『称号「気付きし者」を取得しました』


「……は?」


俺、今称号を与えられるような事したっけ?


それに、『気付きし者』ってなんだよ。……って、もしかして!?


慌てて称号の説明画面を開く。


「称号『気付きし者』。グロウワールドの管理者の遊び心に気付いた人に与えられる。各ネタに最初に気付いた者にのみ与えられる称号。NPCの好感度が少しだけ上昇しやすくなる……って、おい!!」


思わず、表示されている画面を掴んで地面に叩きつけ……ようとして、手が画面をすり抜けてこけそうになった。


有難う、クレオ。俺が転ばないように支えてくれて。


君は本当に良く出来たボディーガードだよ。


だから、頼むからそんな残念なものを見るような目で俺を見ないでくれ。


「ま、まぁ、称号もその効果も貰っておいて悪いものではないしな。ツッコミ所は満載だけど、ラッキーって思っておこう」


きっと、管理者――運営も徹夜続きとかで変なテンションになってたんだろう。


そういう時って確かにあるからな。


何日も徹夜して眠気が限界に達するとよくわからない事やってたりして、後で後悔した事は俺だってあるし。


きっと、そういう系のアレだ。


ん?ちょっと待て。『各ネタ』って事は他にも似たようなネタを何処かに潜ませているって事か?


つまり、これは一時的なハイテンションによる過ちではなく確信犯?お調子者のお遊び?


「……ちょっと他のネタも気になるから、何かないか探しながらゲームをしよう」



それから、折角カレーのスパイスになりそうなものがいくつか手に入ったのだからと思い、他のスパイスもないか探す事にした。


何となくの形は見た事があったから、探す植物の形態も予測しやすい。


後、ゲーム仕様なのか、或いは俺の選択した種族が獣人(狼)なせいか、スパイス系の植物は何故か近くに行くとそのスパイスっぽい香りがする為、探しやすい。


鼻をスンスンさせ、それっぽい匂いがないか探しつつ、どんどんと森の奥へと進んでいく。


暫くあっちこっち探し歩いて、『オーレスパイスル』、『レッドチレ』、『ゴメン』が見つかった。


香りと見た目からして、オールスパイス、レットチリペッパー、クミンだと思われる。


……リックがカモられている証拠を探す為にスパイしようとしたレッドを、一言で叩き潰して謝らせた人物が気になる。


まぁ、それ以前に、ストーリーが俺の考えている通りなのかも気になっているが。


ってか、前半はまだしも、後半は絶対ネタ切れしている所を無理矢理捻り出してこじつけただろ?


ちょっと、無理を感じる。


何もそこまで頑張らなくても良いのに、運営の誰か。


何だか、「寒い」や「痛い」を通り越して「痛々しい」。



「その頑張りだけは認めるよ」


手にしたスパイスを眺めて、運営の誰かへボソリッと称賛(?)を贈った。


「それにしても……ネタ枠スパイス以外にも普通のスパイスもあったとは……」


スパイスを求めて散策している中、実は普通のコリアンダーやクミン等も見つかった。


それを見て、思わず微妙な顔をしてしまったが、よく考えれば恵の所にあった大量のスパイスや店で売っていたスパイスも全部普通の名前だったなと思い出す。


折角集めたネタ枠スパイスだから、それでカレー粉を作ってみようとは思っているけれど、だからと言って元々後で買おうと思っていた通常のスパイスを採取しないのは勿体ない。


もちろん、見付けた物は全て採取してアイテムボックスに保管した。



「まだ欲しいスパイスもあるけれど、カレー用のスパイスはほぼ集まったな」


恵の所ではスパイス使い放題だったから、結構凝った物になったけれど、これで作るカレーはどんな感じだろう?


特にネタ枠スパイスの方が気になる。


「先に調合をしてみ……」


薬用の薬草採取を後回しにして、気になって仕方ないカレー粉作りを優先しようかと思い始めた俺の鼻に、不意にとても馴染みのある香りが届いた。


「これは!」


鼻をスンスンさせて香りの元を探す。


そして、それはすぐに見つかった。


こんもりと艶々した緑の葉を茂らせる、俺の胸元辺りまである木。


特筆すべきはその香り。


「お茶だ!」


生い茂る木から1枚葉を採取すると、『茶の木(葉)』と表示された。


間違いない。


これはお茶だ。


「これは、採取するしかないな」


幸い、これは木である為、一度に複数の葉を採取出来る。


しかも、少し離れた所に後3本同じ木が生えている。


「これで、お茶作り放題だ。自分の好みに合うものを作る為に色々試してみたいな」


その後、俺は時間を忘れて茶葉の収穫に勤しんだ。


スパイス探しにも時間が掛かっていた事もあり、2回程休憩を挟みつつ収穫し続ける事になった。


結果、茶葉の表記が葉の枚数からグラムに代わる程の量の採取が出来た。


これは、ゲームの仕様上、茶の木を切り倒してしまわない限り、時間経過と共に葉が戻るようになっていた事も大きく影響している。


「ここに来れば無限に茶葉が手に入るなんて最高だな」


ちょっと感動しつつ、俺はマップを出して茶の木がある場所にマークを付けて、その日の茶葉の採取を終わりにした。


「さて、今度こそ薬草を探そう」


今度こそ、薬に使えそうな薬草を採取しようと、俺は見慣れない植物を片っ端から採取していく。


ほとんどが雑木や雑草だったが、たまに毒消し草や麻痺消し草なんていう、如何にもゲームっぽい薬草や、高麗人参やどくだみ等の効能はよく知らないけど何かに使えそうな実在する植物、トリカブトやベニテングダケ、麻痺草、ドクドク草なんていう、如何にもヤバそうな植物なんかも見つかった。


採取依頼の多いエリアなだけあって、モンスターの種類はそこまで多くないけれど、植物の種類は結構多くて楽しい。


「……あれ?この匂いって、もしかして……」


甘い香り。


この香りも今までに何度も嗅いだ事がある。


これは……


「ジャスミン!!」


俺は再び匂いを辿った。


お茶の時より香りが弱く辿りにくいと思ったら、ジャスミンは木ではなく、高さ20㎝程の草のような形態で生えていた。


「これでジャスミン茶も作れる!!」


喜び勇んで早速採取。


『ジャスミン★★★ 1輪』


……うん。絶対に量が足りない。


確か、ジャスミン茶は緑茶にジャスミンの花の香りを付ける事で出来るはずだ。


そう考えると1輪では茶葉に対して圧倒的に量が足りない。


これでは、ジャスミンの香りがするかしないか、してる気がするかもしれない位のレベルの物しか作れそうにない。


「でも、俺ジャスミン茶好きなんだよな」


以前、職場でペットボトルのジャスミン茶を飲んでいたら、部下の女性に「意外」「イメージじゃない」と言われてしまい、それ以来外ではあまり飲まなくなったジャスミン茶。


別に気にする程の事ではないんだろうけれど、相手のイメージ通りに動く事が身に沁みついてしまっている俺は、何となく気まずい感じがして、イメージに合うと言われたブラックのコーヒーを飲むようになった。


ちなみに、本当は苦いコーヒーは苦手だ。


コーヒーを飲むにしてもミルクと砂糖を入れたい。


気にし過ぎなのはわかっているくせに、なかなか自分を出す事が出来ない自分が心底情けなく感じる。


いつかは、自分の思っている通りに動けるようになりたいとは考えているけれど、それはやはり俺にとって勇気のいる事だから、少しずつ頑張っていこうと思う。


ただ、ここはゲームの中だ。


今の所、ゲーム内で現実の知り合いは恵だけ。


人目を気にする必要はないし、元々俺はここにフレンドを作りに……素の自分で接する事が出来る相手を作る練習の為に来ているんだ。


この中でまで、自分のイメージを気にする必要はない。


いや、寧ろ現実で自分を出していく為の練習としても、ここでありのままの自分として振る舞う事は良い事だろう。


「作ろう、ジャスミン茶!そして、堂々と自分で作ったジャスミン茶を飲むんだ」


それに、確か恵もジャスミン茶は好きだったはずだから多めに作って分けてやろう。


「そうなると、ジャスミンが大量にいるな」


茶葉と違い、ジャスミンは草のような形態で生えている。


現実のように1つの木に沢山の花が付いていてくれれば採取もしやすかったけれど、そうでない以上、1本1本採取していくしかない。


「これは根気のいる作業だな」


森を眺めてみても、視界に入る所にジャスミンはない。


「でも、やると決めたからには頑張ろう!!」


俺は決意も新たに、森の奥へと進んだ。


この時から、俺の数日間に渡るジャスミン採取の日々が始まった。




***


「あ~、さすがにもう疲れたな」


ひたすらジャスミンを採取してはログアウトして休憩、再ログインしてまた採取の繰り返しを行い続け、流石に疲労が溜まってきた。


まぁ、頑張った分だけジャスミンも溜まっているんだけど。


ゲームの合間にネットでジャスミン茶の作り方なんか調べたりしつつ、ジャスミン茶作りに費やす時間は大変だけどやりがいがあって楽しい。


最近ではひたすら採取のみをしていた事で『採取』のスキルが『採取Ⅱ』に進化して、3m以内で視界に入っている物であれば、採取する前にその植物の名前がわかるようになった。


そのお陰で、始めた当初よりはかなりジャスミン採取が楽になった。


「お、あそこの茂みの陰にもあるな。量も溜まって来たし、あれで最後にするか」


少し離れた所でフォレストウルフの群れと戦っているクレオにチラッと視線を向け、大丈夫そうなのを確認してから、戦闘が起こっている場所とは逆の方向にある木の根本に生えているジャスミンの元へと向かう。


「よし、これが最後のジャスミンだっと」


少しクレオのいる位置と離れてしまった為、チラッとだけ表示されている名前を見て、素早く採取に入る。


茎を持って、その根元に採取用のナイフの刃をあて引いた。


その瞬間……


「ジャーズミーント!!……~♪」


突然握っていたジャスミンが叫んで暴れたかと思ったら、俺の手から逃れて歌い始めた。


しかも、自分の葉っぱの1枚をまるでベースのように弾きながら。


「な、何だ!?え?もしかして擬態化してたモンスター?ってか、目が超痛い!鼻がスース―して痛い。涙が止まんないんだが!?」


慌てて距離を取るけれど、目の痛みと鼻の痛みは治まらない。


もちろん、ゲームだからそんな気がしているだけで、実際はそこまで強い痛みを感じているわけではない。


「何となく痛い気がする」っていう程度だ。


ただ、状態異常を知らせる為なのか、涙と鼻水が止まらないのは辛い。


視界が確保出来ないし。


何とか涙が溢れる目を擦り、目の前に突然現れたモンスターを見る。


見た目は……やっぱりグロウワールド風ジャスミンだな。


何かノリよく葉っぱのベース引きながら歌っているけど。


「名前はジャスミン……じゃなくて、ジャズミントか!?何だよその引っ掛け!!」


さっき名前を確認した時、適当に見てしまったせいで多分表記を見間違えたんだと思う。


まぁ、植物への擬態スキルがあるモンスターは擬態が解かれない限り、擬態している植物名が表示されるようになっている可能性も否定出来ないけれど。


「え?お前、そんな弱そうなのにレア度Aなの!?あ、そうか。レア度と強さはイコールではないんだっけ?」


見た目まんまジャスミンな目の前のモンスターが実はAレアだった事に驚いたけれど、よく考えれば珍しいだけで弱いモンスターだっていてもおかしくない。


クレオがレア度に比例して強いから、ついついレア度が高い=強いって考えてしまいがちだけど、これは気を付けないといけない。


「って、そんな事考えている前に、今の状態を何とかしないと!!」


どうやらこのジャズミントとかいう奴は、歌によって状態異常を引き起こさせる系のモンスターみたいだ。


黒騎士装備はステータスの引き上げはしてくれても、状態異常には対応していない。


だから、俺のHPも徐々にではあるが削られるわけで……。


「ク、クレオ!!」


俺の頼れるボディーガードに助けを求める。


クレオさんはまだフォレストウルフの群れと戦っていた。


森の奥の方へと進んできたせいで、どうやら群れの規模が大きくなったようだ。


未だに1、2撃で倒しているから、余裕そうではあるけれど、こちらに来る事は難しそうだ。


来たら、きっと群れまで一緒に来て、今より俺が危険になる。


「やばっ!HP半分切った!!」


少しずつではあるけれど、着実に減っていく俺のHP。


歌以外の攻撃はしてこないけれど、現状でも十分にヤバい。


「こ、こんな草にやられるのは流石に嫌だな」


まだフォレストラットの方がモンスターって感じがしていい。


「よし、俺も戦うぞ!!」


剣を抜いて振るうと、以前よりは軽く感じて振りやすくなっていた。


きっと、力のが増加したんだと思う。でもやっぱりこの剣を使うには足りない。


重さのせいで、動作の一つ一つがゆっくりで大きなものになってしまう。


そして、見た目によらず、ジャズミントは素早かった。


ベース(?)を弾き、歌い、踊るように俺の攻撃を避けていく。


「くそっ。打つ手なしか。こうなったら、最後の足掻きだ!!テイム!!」


俺のテイマーとしてのレベルは低いから、攻撃……調教しないとテイムが出来ない事は既にわかっている。


しかし、このままただHPが削り切られるのを待つのは嫌だった。


「~♪っ!?ジャ、ジャズミ~ント!」


正直、無駄な足掻きだと思っていた。


それなのに、目の間のジャズミントは突然光輝きだした。


そして……


『モンスター「ジャズミント(Aレア)」のテイムに成功しました。以後、「ジャズミント(Aレア)」はホープさんのテイムモンスターになります』


「……テイム、出来ただと?」


「~♪」


ご機嫌そうにベースを鳴らして歌うジャズミント。


気付けば涙も鼻水も止まっている。


「何故だ?」


腕を組んで考え込む。


そして、閃いた。


……そういえば、俺、最初にジャスミンと間違えてジャスミンとを採取しようとしてナイフで攻撃(?)したっけ?


正直、あれが攻撃にカウントされるのかは疑問だけど、きっとテイム出来たという事はそういう事だろう。


「それにしても……スレイプニルの次はジャスミンか」


俺の予定では可愛いモンスターをテイムして、人気者になるはずだったんだが……。


「ジャズミーント?」


首を傾げるジャズミントは気持ち悪かったり怖かったりはしないが、可愛いとも言えない。


もしかしたら『花』として考えれば可愛いかもしれないが、これはモンスターだ。


「ま、テイムモンスターになってしまった以上はしょうがないか」


「ジャズミーント!!」


俺の言葉にジャズミントは嬉しそうに笑う……いや揺れてるだけだな。


「名前は追々考えるとして、まずはスキルだな」


テイムモンスターの画面を出して、ジャズミントを選択する。


「えっとお前のスキルは……擬態とクールジャズ、魂のジャズ。ん?擬態ってジャスミンに擬態出来るって事か?見たまんまだな」


多分、クールジャズというのは、さっきに俺にした攻撃の事だろう。


目と鼻が物凄くクールになって痛かった。


魂のジャズは……今度戦闘の時にでも試してみるか。


魂って言葉からだと、どんなスキルかイメージが出来ない。


攻撃系のスキルか補助系のスキルか……回復系って可能性もあるな。


「あ、ジャズミントの種族についての説明書きがついてる。なになに、、ジャズミントはジャスミンに憧れジャスミンに擬態するジャズが大好きなミントのモンスター……ミントのモンスター?」


「~♪」


た、確かにめっちゃクールミントな感じの攻撃だったけどな?


え?何?じゃあ、そのジャスミンな見た目自体が擬態だって事?


「自分の種族に誇りを持てよ!!アイデンティティ大事!!」


思わずツッコミを入れたが、当の本人は気にせず楽しそうにベースを弾いて歌ってる。


話を聞いているんだかいないんだかわからない。


ついつい深い溜息を溢してしまう。


そんな俺に、戦闘を終えたクレオが寄ってくる。



「ヒン?」


「あぁ、紹介するよ。新しい仲間のジャズミントだ。名前はまた考える予定だ」


「フンフン」


クレオがジャズミントの匂いを嗅ぎ始める。


見た目が植物だから、そのまま食べ始めやしないか内心冷や冷やしてしまう。


「ヒンッ!」


「ジャズミーント!~♪」


何かに納得したらしいクレオが一声鳴いて大きく頷いた。


それに答えるようにジャズミントも一声鳴いて嬉しそうに歌い始める。


ちょっと変な光景だけど、一先ず平和そうだからよしとしよう。


「ジャスミン?も最後の1輪?をテイム出来たし、これで採取も終わりにしよう」



……~♪……~♪


ひと段落してホッと息を吐いた瞬間、ジャズミントの発する音楽とは別の音楽が流れた。


同時に目の前に画面が表示される。


「フレンドコール:グレース……あ、恵からのコールか!」


慌てて表示された画面の『通話』のボタンを押す。


「もしもし、恵」

「もしもしじゃな~い!!」


電話に出た途端に何故か怒られた。


「え?何?俺、何かやらかした?」


「『やらかした?』じゃないわよ!望兄、今何処にいるの!?」


「えっと、ちょっと待って……」


慌てて画面を操作してマップを出し現在地を確認する。


……マップに表示されている部分からはみ出た空白の所に俺とテイムモンスター達のマークが付いていた。


「……ど、何処だろう?」


多分、ビマナの森の何処かなんだと思う。けど、何故か森として表示されている区域から外れた場所にポツンと点が3つ並んでる。


しかも、そこの周辺が何というエリアなのか記されていない。


マッピングは出来てそうだけど、あくまで通って来た道が表示されているだけだから、採取しながらあっちこっちふらふらしてここまで来た俺の足跡を辿るのはとても厄介な状態になっている。


「望兄、ふざけてるの?」


イラっとした様子の恵の声。


しかし俺はふざけてない。本気の迷子化しているだけだ。


「違う違う!そうじゃない。今マップを見たんだけど、ビマナの森にいたはずが、奥に来過ぎたのかマップに表示されてない場所にまで到達しちゃってて、本気で何処かわからないだけだ」


「……は?え?何?望兄、本当に何処にいるの?」


恵の口調が怒りから心配に変わった。


「ビマナの森の奥で迷子……かな?」


「ちょっとぉぉぉ!!」


妹が叫んだ。


でも迷子なものは迷子なんだからしょうがない。


「あ~もう、ちょっと目を離した隙に何やらかしてるのよ。久々にシルドラに来たら、突然現れた黒騎士が今度は突然消えたっていう事で、実は黒騎士はイベント関係の布石かなんかじゃないかっていう変な噂立ってるし、探しても見つからないし、待っても来ないし」


え?何それ怖い。


俺、イベントの布石のキャラクターとか間違われてるの?


今度他のプレイヤーと出会ったら、即攻撃されるとかないよな?


死に戻る自信あるよ、俺。


「ご、ごめん?いや、俺もそんな事になってるとは思わなかったんだよ。恵に言われた通りレベル上げしようと思って、ギルドで依頼を受けて採取と討伐やってたら、ついつい採取にはまっちゃって……」


「……望兄、自分の目的思いっきり忘れてない?」


「え?覚えているよ?レベル上げ。そしてフレンドを作る事」


「望兄が消えてから現実の時間で4日経つのよ?ゲーム時間ならもっとよ?それだけの間森に籠ってたら、依頼はもちろんの事、初期のレベル上げなんてとうの昔に終わってるでしょ?」


「え?」


「望兄、今レベルいくつ?」


「えっと……」


自分のステータス画面を出して確認する。


「……レベル28。……あれ?いつの間に?」


そういえば、俺が採取に励んでいる間、ずっとクレオがモンスターを倒してくれてたっけ。


テイムモンスターの経験値はテイマーと半分半分だから……。


ちょっと、クレオさん、頑張り過ぎではないですかね?


チラッとクレオに視線を向けると、クレオは「ヒン?」と不思議そうに首を傾げた。


「望兄、そのレベルだとシルドラでパーティー組むのはもう難しいよ?」


「え!?何で!?」


「私、言ったよね?シルドラでパーティー組むならレベル10位まで上げてからが良いって。それって、反対に言えば、そのレベルよりも高過ぎてもシルドラでパーティー組むのは難しいって事よ?」


「そ、そういえば、冒険者ギルドのパーティー募集も規定レベルが5~10ばっかりだった!!」


すっかり忘れていた。


そうだ。ここは初心者向けのエリア。


低すぎても高過ぎてもパーティーが組みにくいのは当然だ。


「大体、フレンド作るのが目的って言ってるくせに、何森の奥で一人で何日も引きこもって採取なんかしてるのよ。それじゃあ、普段の現実と全く変わらないじゃない」


「面目ない」


確かに言われてみれば本末転倒もいい所だ。


「はぁぁ……。それに折角今日は、この前話した仲間の第2職業が料理人の子が、望兄とぜひ会って料理の話がしたいって来てるから紹介してあげようと思ってたのに、迷子じゃ帰ってくる事すら出来ないじゃない」


「え!?紹介!?新たなフレンドの予感か!?」


「望兄がシルドラにいれば普通にフレンドになれたと思うけど……いないものはしょうがないわね」


「帰る!今すぐ帰ります!!」


「居場所がわからないのに、そんなにすぐに帰れるわけないでしょ?その感じじゃ、聖樹だって近くにないだろうしね」


「あ……」


「もう少ししたら、私達またいつもの活動エリアに戻るから、今回は縁がなかったって事で!」


「ちょっ!まっ!!」


「じゃあ、またシルドラ来たら……あ~もしかしたら、次は望兄もお引越しして、シルドラの次の町に行ってるかな?まぁ、近くに来たら私も連絡するし、望兄も何かあったら連絡頂戴よ。じゃあね!!」


「待ってくれ、望!俺のフレンドは!!」


ツー……ツー……。


コールが切れた。


「俺のフレンドチャンスがぁぁぁ!!」


頭を抱えてしゃがみ込む。


待ちに待ったチャンスが向こうから歩いて来てくれたのに、それをふいにしてしまうなんて何たる不覚。


「あ~フレンドが欲しい、フレンドが欲しい、フレンドが欲しい、フレンドが欲しい……」


あまりの悔しさで、まるで壊れたかのように同じフレーズを繰り返す。


「フレンドが欲しい~!!」


「ヒヒンッ!!」


俯く俺の頭をクレオが鼻先で突く。


無視するわけにもいかず、顔をのっそりと上げる。


いつものように呆れた視線が俺を見つめていた。


そして、その口には何かを銜えている。


「え?何?」


首を傾げていると、「取れ」とでも言うように鼻をしゃくるクレオ。


ちょっと唾液でベタベタしそうとか思いつつも、銜えている物を受け取る。


「……フレンドカード?」


ピコーンッ!


『特殊条件クリアにより、テイムモンスターのクレオがフレンド登録されました。これにより、クレオとモンスターコールが可能になります」


「……は?」


手渡されたフレンドカードと現れた画面に書かれた内容に目が点になる。


クレオと俺がフレンド登録?


クレオはテイムモンスターですが?


ピコーンッ。


『称号「モンスターの友達」を取得しました』


「モンスターの友達……」


「ヒンッ!」


まるで感謝しろとでもいうかのように胸を張るクレオ。


~♪


突然なったいつもと違う軽快な効果音に思わずビクッとすると『モンスターコール』と表示された画面が現れた。


「……デフォルメされたクレオそっくりな馬がピースしているスタンプ」


蹄をこちらに向けているけれど、先が二つに割れているあたり、ピースという認識で合っているだろう。


モンスターコール……鳴き声による通話でなかった事にはホッとしたけれど、そうか、スタンプか。


「クレオ、気を遣ってくれて有難う」


少し悩んでから直接言葉で返すと、今度は親指……ではなく蹄の片方を立てた馬の笑顔のスタンプが押される。


「悪いな、俺のフレンド」


新たに増えたフレンドは、人ですらなかった。


これにて『フレンド2人?目。』は終了です!(お話自体はまだ続きます)

長くなってすみません。読んで下さっている方、有難うございます。

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