5.フレンド2人?目。③
「遂に冒険開始だ!」
1度ログアウトして休憩がてら食事を済ませた後、再びログインした俺は、クレオを連れてビマナの森に来た。
ゲーム時間と現実の時間で進み具合に違いがあるとは聞いていたけれど、ゲーム初心者の俺はよくわかっていなかった。しかし、実際に1度ログアウトしてみるとよくわかる。
自分の感覚では既に1日経っているのに、現実の時間では3時間程しか経っていないのだ。
それに物凄く違和感を感じたけれど、きっとこれにも段々と慣れていくのだろう。
ただ、暫くはゲーム内のシステムにあるアラーム機能を使って時間管理はしていった方が良さそうだなぁと思った。
「一休憩入れて戻ったら朝ってのはラッキーだったな」
特に時間は気にせず、休憩が済んだタイミングで再ログインをしただけだったんだが、タイミングとしてはバッチリだ。
……これで再ログインしたらまた夜だったなんて事になったら、やる事もなく町をブラブラするか宿で休むかクレオと戯れるか位しかやる事がなくて、時間を持て余していただろう。
「さて、まずは……やっぱり戦闘の練習だよな」
採取から始めても良いけど、もし採取中にモンスターと出くわして、いきなり初戦闘って事になったら絶対に焦る。
そんな事になる位なら、自分で獲物を探して先に仕掛けた方が、気持ちの準備も出来て戦いやすいだろう。
「やっぱり、テイマーならテイムモンスターに戦ってもらう事は必須だよな。頼むぞ、クレオ」
そう言ってクレオの首を撫でれば、「任せなさい!」とでも言うように「ブルル」と首を震わせ、足を鳴らしてくれた。
「後は俺の方の戦闘だけど……実は戦闘向けのスキルは持ってないんだよな」
俺の持っているスキルは、テイマー用のスキルである調教と育成。薬師のスキルである採取と調合。そして、たまたまGET出来た調理だけだ。
俺自身が攻撃出来るスキルは今の所何一つ保有していない。
「一定条件をクリアすればスキルはGET出来るみたいだし、スキルがなくても攻撃自体は出来るんだろうけど……その状態でどれ位ダメージを与えられるかだよな」
多分、料理の時の事を考えると、攻撃だってスキルがなくてもやってやれない事はないと思う。
ただ、料理と違い、攻撃というのはゲーム内での自分のステータスやスキルが大きく影響するものだ。
例え俺が剣道の達人だったとしても、剣を振るうのに必要なステータスやスキルが不足していたら、動作だけは完璧にやれたとしても、力や攻撃力不足で大したダメージを与えられないだろう。
「一先ず実践でやってみて、どんな感じか見るしかないか」
ゲームに詳しい人なら感覚的にどんな感じなのかわかるかもしれないが、俺はその辺が全くわからない。
ステータス等の数値を見る事は出来ても、それがどの程度のものなのかわからない。
どれ位あれば敵を倒せるのかもわからない。
だから、教えを乞える相手がいない今は、実践の中で体感しながら学んでいくしかないのだ。
「まぁ、クレオもいるし何とかなるだろう」
俺に比べて、クレオは物凄くステータスが高い。
それでどの程度の敵と戦えるのかはわからないけれど、俺の10倍以上の力を秘めているクレオがいればある程度の事は何とかなる気がする。
というか、ならなかったら俺にはもうなす術がない。
「取り合えず、森の入口からあまり離れない所で狩りをしよう」
きっと浅い所の方が、出てくるモンスターのレベルも低いだろう。
ゲームなんだから、きっとその辺は製作者側も上手く調整してくれているはずだ。
初戦はやはり無理せず簡単な所から始めて、慣れてきたら少しずつ奥に入って行こう。
無理は厳禁。
一歩ずつ確実に進む事が肝心だ。
そう思っていたんだか……
「く、黒騎士さん!?え?まさか黒騎士さんと狩場被った!?譲らないと駄目!?」
ゲームが発売されてから1ヶ月程度。
まだまだ初心者が多いこのゲームでは、初心者向けの狩場はかなり混雑していて、浅い所には大勢の先客がいた。
そして、初心者同士、挨拶は大事だと思って戦闘中ではない他の冒険者に近寄って声を掛けようとしたんだが……何故か絶望した顔で見られた。
「折角頑張って早めに来て狩場の確保したのに!」
「でも、やっぱり高ランクプレイヤーが来たら……譲った方が良いのかな?」
な、何故だ?
挨拶をしに来ただけなのに、まるで略奪者が来たかのような反応をされている。
別に狩場奪ったりしないよ?
ちゃんと先に来ている人優先だってのはわかっているし。
そういうマナーはちゃんとネットで調べてきたから大丈夫だよ?
大体それ以前に、俺はそんな特別扱いで気を遣ってもらえるようなレベルのプレイヤーじゃないからな!!
「いや、ただ通り掛かったから、挨拶をしよう思って……」
戦々恐々と俺の出方を窺う初心者プレイヤー達に顔を強張らせながら必死で事情を説明する。
ただ挨拶をしたかっただけなのに、高圧的で我儘なプレイヤーと勘違いされたらあったもんじゃない。
俺の目的はフレンドを作る事なんだから、ここで例え狩場を譲ってもらったとしても、それで「あのプレイヤー、性格悪い」なんていう噂が流れてしまったら、本末転倒も良い所だ。
「あ、そうだったんですね!そうですよね。黒騎士さんがこんな所で狩りなんてしませんよね」
あからさまにホッした様子で笑みを浮かべる初心者プレイヤー。
「わざわざ声を掛けて下さって有難うございます。プレイ頑張って下さいね!」
そして開けられる、森の奥に進む道。
いや、森の中だから道という道はないんだけどね。
とにかく、そんな状況で元々話すのが苦手な俺が出来る事なんて限られているわけで……。
「あぁ、有難う。君達も頑張ってくれ」
仕事の時に部下に掛ける言葉のような少し上からの口調でお礼を言って、まるで初めからそうするつもりだったかのように、示された方向に進む事しか出来なかった。
そして、似たような事が2、3度起こった結果……俺は何故か周りに初心者プレイヤーの姿がない、森の奥へと到着していた。
「……何故こうなった」
当初の予定とは大幅にズレてしまった目的地に愕然としつつ、周囲を見渡す。
パッと見た感じ、周囲に他のプレイヤーの気配はない。
途中で出会ったプレイヤーの装備から考えると、俺は低の低→低の中→低の高という感じでどんどんと難易度の高い方のエリアに流され、初心者向けの中で比較的難易度高めの狩場に来てしまっているのだと思う。……多分。
そうは言っても、ここは初心者向けエリアだから、そこまでレベルの高いモンスターも出ないだろうし、レベル上げが進んで奥の方に来ているプレイヤーも低の低エリアや低の中エリア程ではなくてもいると思う。
きっとこの辺にもプレイヤーはいるだろう。
いるだろうけど……正直、挨拶をしようとする度に暗い表情をされる事が数回続いて、俺の心は少し折れている。今は誰とも会いたくない。
フレンド作りを諦める気はないけれど、今日の分の勇気はもう使い切ってしまったのだ。
「クレオ、今日はここで俺と2人で戦闘の練習と依頼をやろうな」
クレオの首に腕を回し抱き付くと、クレオは「フス~」と呆れを含んだ鼻息を漏らした後、少し顔を俺の方に摺り寄せて慰めてくれた。
本当に良く出来たテイムモンスターだ。
見た目は怖いし、女王様気質な所もあるけれど、この優しさには癒される。
暫く、クレオの温もりを感じ、少し心の傷が癒えた所で、俺はやっと狩りに取り掛かる事にした。
「まずは、何でもいいからモンスターを見付けて、倒すところからだな」
俺には索敵のスキルはまだないから、地道に探し歩かないといけない。
なるべく、早く見つかると良いけど……なんて考えていたら早速見つかった。
ここまで他のプレイヤーと戦っているモンスターの姿しかほとんど見なかったけれど、それはどうやらそれは狩場がプレイヤーで飽和状態になっていて、モンスターがすぐに倒されてしまうからだったようだ。
初心者エリアだけあって、低級のモンスターはそれなりに用意されているらしく、プレイヤーが少ない森の奥の方はそれらが倒されないままおり、結構見付けるのは簡単だった。
「最初から依頼のフォレストラットを見付けられるなんて、ラッキーだな」
現れたのは小型のネズミによく似たモンスター。
今は敵状態な為、目が吊り上がって赤くなっているが、ハムスターっぽい見た目だから、テイムして目が通常の状態になれば可愛くなりそうだ。
そんな事を考えつつ、フォレストラットに対して警戒するように頭を低く足を鳴らすクレオの隣に立つ。
「まずはクレオ、お前の力を見せてくれ。……攻撃だ!行け!」
促すように軽く首筋をポンッと叩き、そう伝えると同時にクレオが走り出す。
きっとクレオの持っている「体当たり」というスキルだろう。
「よし俺も……俺も?」
自分も戦闘に加わろうと思って、黒騎士装備に付いてきた剣の柄を握った瞬間……フォレストラットがエフェクトと共に消えて、アイテムに変わった。
一撃だった。
俺の出番なんて、微塵もなかった。
「……クレオさん、お強いですね?」
「ヒヒンッ!」
「当然でしょ?」というように首を上げ胸を張るクレオさん。
初心者の戦闘ってこんな感じなのか?
いや、違うよな?
クレオのステータスが異様に高い気がしてたんだが……やっぱり並外れた強さを持っていたようだ。
「あ、もう1匹フォレストラットが……」
「ヒンッ!」
クレオが突撃してまた一瞬でアイテムになった。
次のフォレストラットを見付けた時には、クレオに気付かれないように口に出さずにどの程度のレベルなのかと思って敵のデータを見てみたら、レベル53だった。
事前に調べたところ、フォレストラットは初心者向けのモンスターで、元々種族的に弱いモンスターらしい。
その為、レベルが高くてもそこまで強くはならないようだが、それでもレベルが高い個体を初心者が倒すのは難しいらしい。
「あ、また倒された」
俺がデータを見ていたフォレストラットが消えてまたアイテム化した。
今度は何か火の玉みたいなのが飛んでって倒された。
「もしかして、クレオのスキルにあった『馬魔法(火)』とかいうやつ?」
クレオのスキルには、馬魔法(火)と馬魔法(水)というのがあった。
ネットで調べてみたら、モンスターの中で魔法を操る奴は比較的強めでの奴で、更に体の何処かに属性を示す色が出ているらしい。
クレオの場合も目が青と赤だ。
結構、魔法主体で戦うモンスター以外でクレオのように複数の属性を持つモンスターは珍しいようだから、多分だけどクレオが発売記念特典ガチャ限定の『特殊個体モンスター』となっているのは、この辺が影響していそうな気がする。
まぁ、これに関してはまだ仮説の段階で、実際に他のスレイプニルが発見されてみないと検証のしようがないから今はおいておこう。
「……やばい。クレオが無双し過ぎて俺の出番がまるでない」
楽しそうにモンスターを発見しては走って行って倒してしまうクレオ。
非常に助かりはするけれど、「冒険ってこんなんじゃない」感が半端ない。
あ、ちなみに、アイテムに関しては、敵を倒した後、アイテムが出たという事を示す宝箱が出現するけれど、暫くすると勝手にアイテムボックスに収納される。
だから、クレオが倒した敵のアイテムを俺が拾いに行く必要もない。
何が出たのか、アイテムボックスの中身の一覧を見て確認するだけで良い。
「って、ボーっと突っ立ってるだけじゃ駄目だよな!」
暫く呆然とクレオの動向を見守っていた俺は、ハッとしてクレオの戦闘を制止した。
クレオは不満そうだったけれど、俺の指示に渋々従ってくれた。
「クレオ、戦ってくれて有難う。お前がモンスターを倒す事で俺にも経験値は入るんだけど……俺も少し戦ってみたいから、少し見守っていてくれな。そして、もし俺が危なくなったら助けてくれ」
このゲームにおいて、テイマーがテイムモンスターを戦わせて得られる経験値はテイムモンスターと半分ずつに振り分けられる。
だから、テイムモンスターが1匹の時はテイマーの成長率は決して良いとは言えない。
通常得られる経験値の半分なのだから仕方がない事だ。
ちなみに、パーティーを組んでの戦闘等では貢献度の比率で経験値がそれぞれのプレイヤーに振り分けられ、テイマーが振り分けられた分の経験値をテイムモンスターと等分にして分け合う形になる。
では、テイマー自身が武器を持って戦った場合はどうなるか。
正解は戦った分だけ経験値を得られるだ。
だから、この戦闘においても、実は俺自身が戦った方が経験値を効率的に得る事が出来るのだ。
「ブルルル……」
俺の提案というかお願いに対して、不満そうに鳴いたクレオだったけれど、仕方なさそうに首を上下に振って了承してくれた。
うん、多分これは了承したはずだ。……かなり不満そうな顔だけど。
「武器は……一先ずはこれだよな」
戦闘をする為に、俺は黒騎士装備に付いてきた、腰にぶら下げたっきりになっていた厳つい剣を抜いてみた。
……重くて上手く片手では持ち上げられなかった。
両手で持ってやっと構える事が出来たけれど、これはちゃんと振り回せる気がしない。
「……初期装備仕様の装備だから、装備自体は出来るけれど、俺の力……確か今は5だったか?では、上手く使い熟す事は出来ないというわけか?」
今の俺は、明らかにこの重い剣を使い熟すには『力』が不足している。
何とか振り回したり、精密性に欠ける簡単な動作であれば頑張れば出来そうだが、『使い熟す』レベルまでにはいかないだろう。
ただ、装備自体の攻撃力補正はかなりあるから、敵にあてる事させ出来れば結構なダメージを与えられる可能性はある。
一先ず、他に武器もないし、不格好になったとしても、持てる『力』を振り絞って、頑張ってこの剣を振り回してみよう。
「まずは……やっぱり、フォレストラット位が無難か?あんまり強くても俺じゃ相手にならないからな。とにかく獲物を探さないとな」
俺達のいる周辺のモンスターはほとんどクレオが倒してしまった。
再出現するまでには暫く待たないといけないだろう。
「この辺のモンスターでも無双出来るクレオがいるんだから、もう少し先に進んでみても良いか」
あくまで俺が初戦の相手として探すのはフォレストラットだけど、それ以外のが出たらクレオに頑張ってもらえばいい。
クレオが倒しても主である俺にも経験値が入るから、レベル上げにはなるしな。
まぁ、何だか寄生しているみたいで心苦しくはあるけれど……俺はテイマーだし、これが本来の戦い方なのだから仕方ない。
「ボディーガード、頼むな」
「ヒヒンッ」
「まっかせなさい!」とでも言うように、勢いよく頭を上下させるクレオを頼もしく思いつつ、俺は獲物を求めて更に先へと進んだ。
***
「……フォレストラット発見!クレオ、今度は……今度こそは倒すなよ!倒すなよ!!」
「ブルル……」
不満そうに鳴くクレオに、俺は思わず溜息を吐いた。
自分自身が戦う為に、獲物を求めてビマナの森の奥へと進んだ俺だったが……ゲームって、難しい狩場に行くとショボい魔物はあまり出なくなるんだな。知らなかった。
少し前までは結構な数いたはずのフォレストラットはほとんど見かけなくなり、代わりにフォレストウルフというのがたくさん出るようになった。
フォレストウルフは狼型のモンスターで、見た目も強そうだったからクレオに任せる事にした。
まぁ、クレオは俺が「ボディーガード、頼むな」と言ったのが指示になってたらしく、俺が何か言う前にフォレストウルフを倒していたから、『任せる』も何もなかったけど。
「やっと見付けたフォレストラットを俺が止める前にクレオが倒してた時にはどうしようかと思ったけど、今回は何とかなって良かった」
俺の『ボディーガード=現れた敵は全部倒す』認識だったらしいクレオは、とにかくモンスターを見付けた端から全て瞬殺してしまう。
俺が気付く前に倒している事も多く、「やっとフォレストラットを見付けた!」と思った瞬間に消えていく光景を何度目にした事か。
……ちょっと心が折れそうになった。
途中、自棄を起こして、頻繁に出てくるフォレストウルフに挑み掛かろうとして……当然の如く、攻撃力、防御力、素早さまで5の俺が全ての能力2桁越えのフォレストウルフになんて勝てるわけもなく、性能だけは最上級の黒騎士装備のお陰で、死に戻りこそしなかったけれど、ボコボコにやられた。
そりゃあもう、清々しいまでのやられっぷりだった。
……攻撃らしい攻撃は1回も出来ず、剣の重さでよたよたしている俺が一方的にフォレストウルフの攻撃を食らうという状態だったのだから。
結局、黒騎士装備の性能頼りで暫く粘った後、諦めてクレオに倒してもらいましたよ。
そこで、再び冷静さを取り戻した俺は、クレオとしっかりとお話をし、フォレストラットだけは倒さないで欲しいと頼み込んだ。
「ブー」と不満そうに息を吐くクレオに土下座までして頼んだ。
……良いんだ、俺のプライドなんて。それに、他のプレイヤーに見られたわけでもないし。
そうしてやっと得られたフォレストラットとの対戦。
今度こそは……
「って、フォレストラットも結構早くないか!?おっと……痛っ……うわっ、ちょっと待てって……ちょろちょろするなよ!」
フォレストラットに「キキキッ」と笑われた。
完全に揶揄われている。
「こ、こうなったら……テイム!」
ネズミと言ってもハムスター系だし、可愛いからテイムしてしまえと思い声を上げたが……。
『ミス』
「……テ、テイム!」
『ミス」
「テ、テイム?」
『ミス』
「……」
全くテイム出来る気がしない。
更には、また「キキキッ」と笑われた。
「……そういえば、テイマーのスキルって『調教』だから、強かったり反抗的な時はある程度攻撃して『調教』しないとテイム出来ないって何処かに書いてあった気がする」
という事は、テイマーとしてのレベルが1の俺は、テイムするにも先に攻撃をしてある程度『調教』してからでないとテイムは難しいというわけか。
これって、動物愛護的にはどうなんだろうか?
あ、これは動物じゃなくて、モンスターだったな。
まぁ、テイムした後はきちんと可愛がるから良い……のか?
いや、きっとあれだ。テイムする事でモンスターの中にある凶暴化する瘴気とかきっとそういうものが浄化されて、怖くて危険なモンスター枠から可愛くて頼りになる相棒枠へと変わるとかそんな感じだ。
「ヒンッ!」
ゴスッ。
戦闘中に考えに耽っていたら、クレオに鼻先で軽く叩かれた。
きっと戦闘中は集中しろという意味だろう。
呆れを含んだその視線が痛い。
「よし、じゃあ改めて、まずは一撃!よっこいしょっっと」
俺にチマチマと体当たりをしてくるフォレストラットに向かって、重い剣を振り下ろす。
……ガッ。
地面に10のダメージ。
フォレストラットに0のダメージ。
駄目じゃん!!
「いっそ、横に薙ぎ払えば除けられないか?せーのっ、よっと!!」
ブンッ!!
空気に10のダメージ……いや、ダメージにはならないだろうな。
そしてフォレストラットは……
「背面飛びを習得しているだと!?」
見事なフォームで俺が振った剣を飛び越えた。
……こ、こいつ、本当に初心者向けのモンスターか?
レベルは……10か。
今までクレオが倒したフォレストラットの中でも弱い方だな。
「キキキッ」
「また笑ったな!」
むきになって剣を振り回してみるものの、一向にあたる気配はない。
30分位フォレストラットとの死闘を繰り広げた所で、俺の心は折れた。
一先ず、今回の戦闘はクレオに頑張ってもらって、俺は採取とテイムに専念しよう。
俺自身の戦闘練習は今度俺でも普通に振るう事が出来る程度の重さの剣を買って、浅い区域でやろう。
うん、そうだ。それが良い。
俺は冷静に判断できる大人だ。戦略的撤退は大切だとわかっている。
「……クレオ、一発だけ入れてくれ。そこでテイムをしてみる」
「ヒヒ~ンッ♪」
俺とフォレストラットとの死闘に邪魔が入らないように周囲のモンスターを倒しまくり、倒すモンスターがいなくなって暇そうにしていたクレオが嬉しそうに俺の所に来た。
そして……
カッ!
沢山ある足の中の一番前の足で軽く蹴飛ばしたら……俺の好敵手だったフォレストラットは天に召された。
「ラットー!!」
テイムにチャレンジする気満々だった俺は、あれだけ熱いバトルを繰り広げたのにあっさり逝ってしまったフォレストラットを目の当たりにして、愕然とした。
俺、あれだけ頑張ったのに……。
あれだけ重い剣を振り回しまくったのに……。
クレオはものの数秒で瞬殺していた。
もちろん、倒してしまった以上、テイムも出来ない。
というか……
「そういえば、クレオってここにいるモンスター、全て一撃で倒してるよな?」
明らかにクレオの能力と狩場のレベルが一致していない。
きっと、もっとゲームを進めて難易度の高いエリアに行けば、クレオが手こずる相手も出てくるんだろうけど、多分ここにはそんな相手はいないのだろう。
要するに……
「クレオに攻撃させている時点で、1発でやられてしまうから、テイムが出来ないという事が?」
衝撃の事実。
戦闘はクレオに任せて採取とテイムに専念しようと思ってたのに、最早出来る事が採取しかない。
「……大人しく採取に専念するか。あ、折角だから、自分の調合用に依頼の薬草以外の物も色々採取してみよう」
再びクレオにボディガードを頼み、俺は調合基本セットBに入っていた薬草を切る為のナイフを取り出した。
説明文を読むと、このナイフは調合の際に素材を細かく刻む為のものだが、採取にも使える仕様になっているらしい。
これを使って、まずは採取依頼を済ませよう。
周囲をキョロキョロと見回し、それっぽい葉っぱがある所に行って、適当に採取してみる。
『雑草……ただの草』
どうやら、採取してみると、それが何かがわかるようだ。
そうとわかれば、適当に採取していって、まずは回復草と魔力草を見付け、見付けたらどんな薬草かを見て覚えて、それ限定で探して行けば良い。
幸い、俺には心強いボディーガードがいるから、薬草を探す事に専念できる。
きっと、難しい事ではないだろう。
「お、早速回復草発見。なるほど、この少し白っぽい葉っぱのが回復草なんだな」
手にした薬草を改めてまじまじ見つめる。
特徴的な葉っぱだし、結構見つけやすそうだ。
「★が1つって事は、あまり状態が良くないって事か?取り方で変わってきたリするのかな?」
周囲を改めて見渡せば、同じ特徴を持った草がチラホラと目に入る。
「取り方を変えながらやると、ポイントがわかるかもしれないな」
俺の中の研究職としての血が騒ぐ。
やばい、ちょっと楽しくなってきたかもしれない。
「あ、こっちのが魔力草か。葉の色は似てるけど、葉の淵がギザギザしているんだな」
回復草を切る位置や取り方を工夫して採取していく内に、間違えて似た葉の色の物を取ったら魔力草だった。
回復草もどきだと思って避けて取っていたけれど、どうやらその必要はなかったらしい。
「さすが、最低ランクの依頼だけあって、達成が簡単そうだ。これが済んだら、調合して初級回復薬5本、初級魔力回復薬5本を作って、その後は自分で色々とやってみよう。他にも気になる植物はたくさんあるし、面白いレシピも出来るかもしれない」
もう既にレシピがわかっている物に対しては、そんなに時間を費やす必要はないだろう。
回復草と魔力草の取り方も、根元から真横に切って採取する事がベストだとわかったから、これ以上時間を掛ける必要はない。
ちなみに、討伐依頼のフォレストラットはもう十分クレオが狩ってくれたから完了している。
「依頼はさっさと済まして、オリジナルレシピの薬の開発をしよう。どんなのが出来るか楽しみだなぁ」
このゲームを始めて、1番のわくわくだ。
「よぉし、そうと決めたらさっさとやる事をやってしまおう!!」
ピーピーピー。
テンション上がりまくりでさぁ、採取……と思ったら、アラームがなった。
何事かと思ったら、自分で事前に設定してあった時間管理用のアラームだった。
「せ、せめて採取依頼だけでも済ませちゃいたいけど……そう言っている内に、延び延びなって最後制限時間越えしちゃいそうだから、いったんログアウトするか」
溜息を吐いて肩を落とす。
出鼻を挫かれた気分だが、仕方がない。
「折角だから、テントも出してみよう」
別にログアウトするだけだったら、テントは必要ないんだけど、テントでログアウトする事でログインしてすぐにモンスターと遭遇という状況を避ける事は出来る。
基本、戦闘はクレオが請け負ってくれているから、多分すぐにモンスターが出てもクレオが対処してくれるとは思うけれど、ゲーム慣れしていない俺としては心臓に悪い事はしたくない。
避けられる手段があるのだから、避けておくべきだろう。
アイテムボックスを開き、購入しておいた一人用のテントを取り出す。
既に組み立てられた状態のテントが出て来たから、自力で組み立てる必要はない。
「クレオ、ちょっと休んでくるな」
「ヒンッ」
テントに入る俺をクレオが見送ってくれる。
テントに入ってすぐに横になり、ログアウトをした。
さすがに③で終わらせようと思い書いていたら凄い文字数に……。
あまり量が多過ぎると読みにくいと思うので、結局③と④に分ける事にしました。
既に④は書き上がっているので、本日昼頃に続きをUPする予定です。
長くなりましたが、それにて『フレンド2人?目。』は終わりです。
……いくらテンション上がって長くなったとはいえ、これらを1話でまとめようと思っていた過去の自分、馬鹿じゃないかと思いました。ごめんなさい。
そして、読んで下さっている優しい皆様、本当に有難うございます。