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プロローグ
春の夜。
海風が砂浜に座る二人に、潮の匂いを運んでくる。少し冷たい風がとても心地いい。
数十メートル先の車道に車が走り、車のヘッドライトが一瞬砂浜を照らして通り過ぎた。
二人のうち一人が砂浜に寝転がった。それを見た一人が言った。
「砂がつくぞ」
「別にいいよ。ついても」
寝転がった一人が答えた。そしてそのまま目を瞑る。
座ったままの一人がそんな様子を呆れた様にしばらく見つめていた。
砂浜によせてはかえす波の音が静かに、だが確かに辺りに響き渡る。
晴れ渡った夜空に大きな月と小さな星々。その光が砂浜に眠る一人と、座る一人を優しく照らす。
座る一人は眠る一人に、ゆっくり近づき眠る一人の顔を覗きこむ。
眠る一人の顔に影が落ちる。
「おい、寝てるのか? こんなところで眠ると風邪ひくぞ」
だが眠る一人は反応しない。ゆっくりと静かな呼吸を繰り返しているだけだ。
座る一人は暫く眠る一人を唯見つめていた。
綺麗だ。
そう思った。
そしてゆっくりと、眠る一人に顔を近づけ、唇を重ねた……。