~プロローグ~第一話~
《プロローグ》
ここは、妖怪や人間、はたまた精霊でさえも存在する世界。
夜は妖が蠢き、森の奥深くでは精霊たちが暮らす。そして、人間にとって妖怪と精霊は信仰や畏れの対象であった。
《第一話》
ここは人の暮らす町と妖怪の住む里の丁度真ん中にある幹和。
いくつもの店が並ぶ通りの一番端“団子屋みやび”と書かれた暖簾の中から若い少女の「いらっしゃいませー!」という声がする。
「おっ!七瀬ちゃん。今日もめんこいなあー」
店に入ってきた男たちが口を揃えて“七瀬”と呼んだ少女はくすっと苦笑いを浮かべた。
「あいかわらず、お世辞はお上手ですね。喜平さん」
“七瀬”はゆるくウェーブのかかった桃色の髪をおさげにしている、肌の白い少女であった。
「まあそう言いなさんな。本当のことなんだからなあ!」
「全くだ!」
「「あっはははははっは」」
その様子を少し距離をおいて見ていた七瀬だったが・・・
「こおぉぉぉおらああぁあああぁあ!!あんたらここに七瀬をからかいに来たのかい⁉違うだろ⁉団子食わんかい!団子!!」
突然響き渡る怒号。
「げ。妙さん来ちまった」
男達は一斉に顔を青くした。“妙”とはこの店の主であり七瀬の叔母だ。七瀬の母親の姉で妹夫婦が死んでから七瀬を引きとって生活している。
七瀬に絡みに来た客にきっちり団子を食べさせてかえらせるのもいつもの光景であり妙の仕事のうちの一つでもある。
「あー、じゃあ黒蜜団子二つ頼むよ」
「・・・・俺はー」
そこにいた男たちが妙のすごみに注文しだす。それをメモする七瀬。暫くすると筆を止め注文の確認をする。なかなか確認が終わらないのはきっと男たちが相当の団子を頼んだからだろう。店の奥では妙が悪い顔をしてふつふつと笑っていた。
「じゃあ、お持ちしますね!少々お待ちください」
七瀬がそう言って台所へ向かおうとしていた、その時。
カランカランー…
暖簾を誰かがくぐり、それと同時風鈴が鳴る。それだけのことなのに七瀬は振り向くことができず、足は店の奥をむいたままだった。
「邪魔をする」
店に響く低い凛とした声。客なはずのその“誰か”に七瀬は未だ振り返ることができずにいた。
「おや。八尋か。久しぶりだね」
誰か、は八尋というらしい。妙の知り合いならこの言い知れない感触は気のせいだと思い客へと振り返った…が。
カシャンー…
「あ、妖・・・?」
片付けようとしていた皿は床に落ち、手は自分の意志と関係なく小刻みに震えていた。“八尋”と呼ばれていた彼は銀からだんだん青になる髪で爪が長く、そして左腕がなかった。