8.森を出て
転生してから一度も私は森の外へと出たことがない。
ここから先は未知の世界なのだッ! そうまるで火星人が初めて地球に到着し探検するような気持ちだ。今ならあの気持ちがよく分かる。……なんか例えがちょっと違うような気もするが、それは置いておこう。兎にも角にも私は森から出ることに少し怖気づいている。
『リオンなら大丈夫だよ~』
『いざとなれば僕達もいるし、動物達も駆けつけてくれるよ』
『そうだよ! 心配することなんて何一つないよ』
『それに、リオンのその外見なら何かしら人間は助けてくれると思うよ』
『その通り! 人間って美人には弱いもんね』
一体どこでそんな言葉を覚えたんだ。私は覚えた教えはないぞ。
……というか、ヒロインに完全に心を奪われて私の元を去ったという可能性も十分あり得るんじゃないのか? いきなりそんな考えが頭に浮かんだ。
やっぱりヒロインには敵わなかったか~。すっかり私から気持ちが離れてしまったのだろう。なんだか寂しいような、しょうがないような……、まぁ、レオが幸せならそれでいい。
『失恋?』
『リオン、可哀そう』
失恋じゃない! しかも可哀そうでもない! と自分で思っている。というか、失恋じゃないのは確かだ。私はレオのことを恋愛対象として見たことは一度もない。まぁ、これから先、構ってもらえなくなるのはちょっと寂しい。可哀そうっていうのはちょっと合っているかもしれない。
「レオ、今どこにいるんだろうな~」
ふわりと風が吹いた。私の肌を撫でるような風だ。涼しくて心地よい。何故かやる気がみなぎってくる。
『風も応援しているよ』
『ね~。リオン頑張れって言ってるよ』
うわお。まさか風まで味方にしてしまうとは。もはや私の立場を魔女から女神に変えてくれないだろうか。
『転移魔法でリオンの学園に行くのは?』
『それいい案だね!』
いきなり行ってもいいのだろうか。入学手続きなしで行くのは流石に気が引ける。その前に……。
「不法侵入になるのでは?」
『じゃあ、入学しようよ!』
そんな簡単に言うけど魔女が入学できるのか!? この世界の魔女って理由もなく皆から忌み嫌われていると思うのだが……。
『リオンは美女だから愛されるよ~』
なんて適当な奴なんだ! ……美女だなんて照れるな~。
『レオに頼んで入れてもらえば?』
うん。それが一番賢い方法だろう。
私は何度も大きく頷いた。たまには頭の良いことを言うじゃないか、妖精よ。
この森とお別れになるのは少し寂しいが私は成長したのだ。巣立たなければならない。
転生したての時とは打って変わって生い茂っている森。確かに私と森との距離は縮まった気がする。もしかして、それが森を生き返らせた秘訣とか? 森と仲良くすれば仲良くするほど森は生き返るってことか? ということは、私じゃなくても良かったんじゃ……。それともこれは魔女の特権かな。そうだったらいいな。
「転移魔法、私をレオが通う学園に連れて行け」
いつも気まぐれに魔法を使っている。声に発したり、指を鳴らしたり……。こんな適当でいいのかと思うが、適当でいいみたいだ。このゲームを作った運営も魔法に関しては適当に作ったのだろう。
白い眩い光が私を包み込んだ。やっぱり魔法って楽だな。わざわざ歩かずに一瞬で外に出ることが出来るのだ。太りそう……。運動不足で死んだりしないことを祈っておこう。もう死ぬのはこりごりだ。




