7. 五年が流れた
……レオが来なくなってから五年が経った。私は今日で十五歳。
沢山生きてきたからか五年なんてあっという間だった。本当に一瞬の五年間だったけど、レオがいない日々は少し長く感じた。
私の天使よ、一体どこへ行ったんだい。悪魔に喰われたのかもしれない。いやいや、そんな不吉なことを考えるのはよそう。
「なんで来なくなったんだろう」
『もうそれ毎日言ってるよ』
『いい加減、彼のこと忘れたら?』
森の妖精達が私に囁く。
レオが来なくなってから私はあまりに暇だったので、森を探索した。色々な事をした。毒キノコを食べて一人で死にかけた。……あれは本当に死ぬかと思った。三日間ぐらい意識不明の状態になっていた。
おっちょこちょいなんだッ、みたいなノリで済ませられないことを沢山した。色々な動物に出会う為に危ないこともしたし、……まぁ、なんだかんだでこの森にいることを楽しんだってわけさ。
そしたら何故か一年経ったぐらいの時に森の妖精の声が聞こえた。さらにその二年後動物達が現れた。
森の妖精は手のひらサイズの大きさで耳はとんがっており、澄んだ柔らかな声で話す。物凄い可愛い。小さな羽をパタパタとさせながら飛んでいる姿なんて発狂ものだ。
妖精曰く、私が来てからこの森は元気になっているらしい。「森を生き返らせているのはリオンだよ」といわれたのだが、ピンとこない。
私はいつも通り、自由に楽し回っていただけだ。ふ~む、やっぱり私が魔女だから? 魔法を使えるってこと以外に何か特別な力を持っているのかな。
『リオンの人柄だよ』
『そうだよ。私、リオン大好き』
『僕も大好き』
なんて良い子達なんだッ! お姉さん涙が出ちゃう。
妖精も神様同様に私の心の中を読むことが出来る。全部心の中を見られていると思ったらなんだか恥ずかしいけど。
「レオ、元気かな」
『リオンはレオのことが好きなの?』
「うんッ! それはもう大好きだよ!」
『恋ってやつ?』
『わぁ! 恋だ! 恋だ!』
『リオン、恋してるんだ~』
嬉しいのか面白がっているのか、妖精達ははしゃぐ。私の周りを乱舞する妖精達はとても楽しそうだ。
恋? とは違う。まぁ、あんなにも長生きしていて恋を知らない私もどうかと思うが。
「友達に会いたいみたいな感覚かな~」
『本当に?』
胸がキュンキュンするようなことも特になかったしな~。初恋は私って言われた時は流石に照れた。初告白された相手がレオって……、レベル高すぎて騙されている気になってしまう。
「十五歳になったし、良い服を変えようかな」
『え!? 今頃?』
『遅いよね~』
『僕達、ずっとリオンの服を変えたいなって思ってたんだ』
『それなのに何にも言わないんだもん』
『てっきり死ぬまでボロボロの服だと思ってた』
『魔女だからいくらでも変えること出来るのにね』
『可愛いのに勿体ないよね』
『顔はその辺の美姫よりも綺麗なのにね』
貶されているのか褒められているのかよく分からない。
とりあえず、私は自分の服に魔法をかけた。色々な魔法のかけ方がある。呪文だったり、指をパチンと鳴らすだけで魔法を使えたりする。
今回は指パッチン。
私の服がキラキラと眩しい煙みたいなふわふわとしたものに包まれる。
「魔女っぽい、色気のある服がいいな~」
『色気のある服だって』
『確かにスタイルいいもんね~、リオン』
『色気のあるお姉さんって感じ?』
『けど下品にはしたくないよ』
私の魔法にはいつも妖精達が力を貸してくれている。魔力の源は妖精だ。五年前に泉を出した時も妖精達が力を貸してくれていた。この五年間で分かったことは、基本的にどんな魔法でも使える。出来ないことは死んだ生き物を蘇らせることは出来ないということだ。
そんなことを考えている間に私の身体から煙みたいなものが消え去っていた。
「おおッ! もう完成したの? 仕事早」
『……とっても綺麗』
『わぁ、大人っぽい』
『服を変えただけでここまで変わるんだね』
『女神様みたいだよ』
妖精達がぽわーッとした表情で私を見つめる。
なんだなんだ!? そんなに化けたのか、私。早く自分の姿が見たいぞ。
私は魔法で姿見を自分の前に出した。姿見はふわふわと地面につかずに浮かんでいる。自分の姿を確認した。
「わ~お、凄い」
五年間自分の姿をほとんど確認したことがなかった。こんなにも髪の毛が伸びているとは思わなかった。腰あたりまでストレートに伸びている。なんだか前よりも綺麗なクリーム色になった気がする。
それに、胸も大きくなったし……、身長も随分と伸びた。凛々しいのに色っぽい瞳も良い雰囲気を醸し出している。魔女って元々色気のある存在だったけど、まさかここまでとは。生で見るとやはり迫力が色々と凄い。
この艶やかな容姿……、全世界の男を虜にしてしまいそうだ。自画自賛とはこのことを言うのだろう。けど本当にそう思うのだ。客観的に見てもそう思われるだろう。まぁ、攻略対象達は皆ヒロインしか見ていないのだけれど……。ヒロインと魔女だと立場が随分と違うから、こればかりはしょうがないか。
「なんかこの服……、ちょっと娼婦みたい」
ハイネックでシフォンレースが手首まであるロングドレスなのだが、露出している部分が半端なく多い。背中も二の腕もあいている。シルバーのフープイヤリングに細すぎず太すぎないチョーカー。手には細いシルバーブレスレットがいくつもある。
ちょっと娼婦みたいだけど……、物凄く魔女っぽいし、大人っぽいし、色っぽい!! 滅茶苦茶素敵~! 最高の仕上がり! 森の妖精達よ、皆カリスマデザイナーになれるよ!
『リオン喜んでいるよ』
『良かった良かった』
『リオン、可愛い~』
……あとはこの鬱陶しい前髪を切ろう。勿論魔法でね。私は横を揃えて真っ直ぐに前髪を切った。
「やっぱり魔法って凄いな~。こんなにも綺麗に切れるなんて」
前髪パッツンだ。前髪を切ると本来なら幼くなるはずなのに……、なんかちょっと色っぽさ増した? 気のせいか?
『前髪だッ! 前髪だッ!』
『可愛い可愛いッ!』
妖精達はいつも私のことを褒めてくれる。からかっているのか、心の底からそう思っているのか分からないけど、褒められて気分を害する人間なんていない。
私はいつも彼らの言葉で幸せになれるのだ。
よしっ! 今度は私からレオに会いに行ってみよう!