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甘い君は今日も私を愛でる  作者: 大木戸いずみ
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5.想像と違う

「おはよう」

 目が覚めたら目の前にレオがいた。紫色の瞳が私をじっと見つめている。

 夢か現か、……夢か。私はもう一度瞼を閉じようとした。

「ねぇ、折角来たのに寝ないでよ」

 ウサギを抱いた少年が不貞腐れながらそう言っている。

 おおおおお!? まさかの現実だったのかい。ここにいるってことはもう一度森に入ってきたってことだよね。一人でこの呪いの森に来たのか。

 私は立ち上がってじっとレオを見つめた。

 ……今日も可愛いなッ! 思わず声に出してしまいそうだった。なんて可愛らしい表情で私を見ているんだ。弟にしたい。こんな弟がいたら間違いなく溺愛するぞ。

「どうしてここに来たの?」

「会いたかったから」

 単純明快。実に分かりやすい理由だ。

「私といてもつまらないよ」

「そんなことないよ。一緒にいるだけで僕は幸せだもん」

 滅茶苦茶可愛い。キュンキュンする。……けど、ただそれだけだ。恋愛感情は生まれない。私のタイプは大人の余裕がある年上だ。残念ながらこのゲームの攻略対象達は皆同い年だけど。それでも成長するにつれて大人らしさが出てくる。

 レオは別だ。いつまでたっても可愛いショタポジション。

「名前教えてよ」

「……う~ん、どうしよっかな」

「君は僕の名前を知っているのに、僕は君の名前を知らないなんて不公平だよ」

 ……レオを虐めるのが癖になる気持ち分かる。

「魔女でいいよ」

 私の言葉に彼は真剣な口調で返した。

「僕は君のことを名前で呼びたいんだ」

「……リオンだよ」

 今回は私の負けだ。駄目だ、レオのペースに巻き込まれたらそこで試合終了だ。彼の純粋さは私をいとも簡単に操ってしまう、気がする。このままだと操り人形になってしまう。……もしやレオの目的はそれか? 可愛い顔して私を手のひらで転がして楽しもうとしているとか!? って、それは流石にないか。

 長年生きてきたもんだから、色々なことを深読みしてしまうのだ。

「リオンは……、いつかはここを出たいとは思っているの?」

 本当に思ったことを口に出すのだな。羨ましい。

 いつかはここを出るつもりだ。なぜなら……、攻略対象達の顔を拝みたいからだ! 成長した彼らはとてつもない美形になっているだろう。それを生で見たいのだ! それにヒロインにも会っておきたい。あ、あと悪役令嬢にも会えたらいいな~って思っている。まぁ、このゲーム『王子と甘いKISS』の主要メンバー皆に出会っておきたいのだ。

「いつかはね」

「いつ!?」

 目を輝かせて食いつき気味にレオが声を上げた。

「分かんない」

「なんで?」

 なんでと言われても……。空が青いのは何で? どうして服を着ないといけないの? なんで山は高いの? 指が五本なのは何で?

 子どもはすぐに「なんで?」と聞き、大概の大人はいつも「そういうものだから」と答える。疑問を持ち、そのことについて深く考えるのはとても良いことだ。いつの間にか全てが当たり前になっていく世界で、小さなことに疑問を持ち、それを追求していける能力があれば想像力も上がり、新たな発見が出来るかもしれない。

 けど、今回の「なんで?」に対しては答えられない。いつか分からないのは、その時の外の状況によるからだ。周囲の状態を把握してからタイミングを見計らい、この森を出ようと思っている。それがいつかは分からないのだ。

「……タイミングが来た時」

「今は? 僕が連れ出してあげるよ」

 もしかしたら、この言葉は私が森を出るまで言われ続けるかもしれない。いや、それは流石に自惚れ過ぎか。

「心躍るお誘いだけど、私は自力で出ていける。ただ生きていくことが出来るかは分からないけど」

「どうして?」

「魔女の私が生きていける世界なんて……、この森ぐらいじゃない?」

 私はそう言って軽く鼻で笑った。

「魔女はどうしてこんなところに隔離されているんだろうね」

 隔離、難しい言葉知っているんだ。いや、私と同い年なんだからそれくらい分かるか。でも、中身が違うからな。まぁ、レオは貴族だ。嫌でも教育が受けられる。

 ……正直、レオはもっと馬鹿な子なのかと思っていた。ごめん! レオ。レオの事をただの顔だけの子だと思っていたことを反省しています。

「ねぇ、私が悪いことしたからここに閉じ込められているって思わないの? レオを喰ってしまうかもしれないよ」

 レオは噴き出した。ウサギを抱え中がらケラケラと笑っている。

 そんなに面白いこと言ったか!? それか私がしょうもないことを言っても人を笑わせる能力を手にいれたとか? ……どんな能力だ。聞いたことがない。

「悪い魔女がわざわざ僕のぬいぐるみを届けに来てくれるとは思わないよ」

「もしかしたら、恩を売ろうと考えたのかも」

「じゃあ、なんで僕を森の外に出したの?」

「必ず戻ってくると思っていたから?」

「そこまで計算高いと思えないよ。僕がリオンの事を好きになるってことも想定内?」

 わぁ、レオって……、もしや私よりも上手なのか!? いや、そんなことはないだろう。経験値が違う。けど、ニコニコ笑顔でなかなかいいところをついて話してくる。

 私が黙っていると、レオはフッと軽く笑って口を開いた。

「僕は、リオンになら喰われてもいいよ」

 ……恋はここまで人を変えるのか。あんなにこの森も魔女も怖がっていたのに、私に恋に落ちたことによって命丸投げかいッ!! こんな天使をもし喰ってしまったら私は一瞬で死刑になるだろう。

「子どもの恋で人生を狂わせない方が良いよ」

「リオン以外好きになるなんて考えられないよ」

「私達十歳のガキだよ?」

「だから? 年齢が幼かったら真剣じゃないの?」

「……大人になって世間のことや、社会の仕組みを知れば考え方が変わるかもしれないよ」

「リオンはこの世界の仕組みを知っているの? 森から出たことないのに」

 あ、やば。そうだった。でも、たまにはミスしちゃうこともあるよね。てへぺろ★

 そろそろ怪しいと思われてたかな? ……けど、まさか異世界から転生してきたとは流石に思わないだろう。

「……例えば、僕が魔女と付き合えあえば非難を浴びたり、追放されたりするかもしれないってこととか?」

 へ? 今なんて言った!? レオの声だよね? というか、ここにレオしかいないし。

 レオはしっかりと私の目を見据えて言った。

「僕も伊達に外で生きてないでしょ?」

 ニコリと笑ったレオの顔は策士の顔をしていた。

 ……本当に思っていた人間と違う。まぁ、どんな仕草も可愛いのは変わりないのだけど。

「リオンがいつか僕の事を好きになったら……、一緒に地獄に落ちようか」

 この時、純粋潔白だと思っていた彼の皮が一枚剥がれたのを見た瞬間だった。

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