4.初恋
これってもしかして、突然会いに行ったら怖がられるんじゃ……。
私は走っている足を止めてそんな事を考えた。他の美少年達にばれないように渡したい。
森はもはや私の庭と言っても過言じゃないよね? もう森と友達だもの! 自称だけど。まぁ、そんなことは良い。とりあえず、今は力を貸してもらおう。
「レオだけ帰り道を逸らして」
私の言葉に森が応えてくれた。森が全体的に揺れて変形していくのが分かる。
やったああ! もううちら、マブダチじゃ~ん!
「よしっ! 渡しに行くか」
私はレオのいる方向へ足を進めた。
「あれ? 皆は?」
うわーーーーー! 困った顔も可愛い。こんな子が一人でいたらいくら治安の良いと言われている日本でも誘拐事件が起こりそうだ。……むしろ私が犯罪者になってしまいそう。
落ち着いて、私。大人の余裕を取り戻すのよ。ただ彼にウサギのぬいぐるみを渡すだけ。
「ここ、どこ。デュアル~! ジョー! ルーカ―!」
「ちゃんとみんなのとこに返してあげるから安心して」
私の言葉にレオは固まり、私の方をじっと見つめた。
「はい、これ」
「僕のうさぎ……、どうしてこれ」
「落としていったでしょ」
「もしかして、お姉ちゃん、……魔女?」
まぁ、そうなるわな。
……あんなに魔女に怯えていたのに、実際に会ったら結構喋れてるじゃん。
「そうだとしたら? 怖い?」
私は口の端を軽く上げてそう言った。まるで彼のことを試すような表情と口ぶりで。
レオは首を横にブンブンと振った。
「あと、お姉ちゃんじゃないよ。私達、同い年」
「え、じゃあ、十歳?」
おッ! 私、十歳だったのか! あっさりと年齢が分かった。
けど、十歳って……、ちょっと幼すぎない!? もうちょっと年取った魔女に転生は出来なかったのか。
「お姉ちゃんはどうしてこの森にいるの?」
レオは純粋な目で私を見つめる。好奇心と少し恐怖が入り混じった瞳。
「さぁ? 閉じ込められているのかも」
思わず苦笑した。
私も知りたい。なぜ魔女はこの森に閉じ込められているのか。
「はい、これ。もう行ったほうがいい」
私はウサギのぬいぐるみを彼に渡した。レオはゆっくりと手を出してぬいぐるみを受け取った。
「有難う」
そう言って満面の笑みで笑った。
なにこの笑顔……、一瞬心臓止まったわ。彫刻か? 美々しい。生で拝めたことに感謝しなければ。
「僕と一緒にこの森を出ない?」
あら、嬉しいお誘いだこと。……けど、百パーセント無理ね。出れても私の居場所がない。
レオが真剣に言っているのはよく伝わる。小さい子供だからと言って、軽く流すのはよくないね。というか、ここでは同い年だし。
「私と貴方の服を見て。絹やレース、刺繍が施された服。私は雑巾のようなボロボロであちこち破れている服。……住んでいる世界が違う。私はここがお似合いなのよ」
理解したくないのか、私の言葉を受け付けない表情を浮かべた。
「好きな女の子と一緒にいたいっていう理由だけじゃ駄目なの?」
およよ? 今、何とおっしゃいました? 好きな女の子って……、この流れで考えると私だよね。
「えっと……、私、魔女だよ?」
「それがどうしたの?」
純粋潔白というものが一番恐ろしいかもしれぬ。
「公爵のご子息様が魔女なんかと……、の前にさっきまで私のこと怖がってなかった?」
「えッ、いつ?」
どうしてそこで驚く。ついさっきのことなのにもう忘れたのかい。
「みんなと一緒にいた時」
「あの時はまだ僕達会ってなかったよ」
確かにそれはそうだ。けど、会っただけで好きになるか?
「想像していた魔女よりずっと可愛かった」
殺し文句とはこのことを言うのか。その笑顔でその言葉はまずい。
全国のショタコンよ、この顔を見たら気絶するぞ。写真に収めたい。
『おい! レオはどこだ?』
『ちゃんと俺らについてきていること確認したのに突然見えなくなって』
『どこだよ、レオーーーー!』
『もう一度この森に入るか?』
森の外にいる少年たちの声が聞こえた。
……ちゃんと心配されているじゃないか。さっきはあんなにいじられていたのに。愛されているな、レオ。良かった、良かった。
「もう行った方が良い」
「けどッ」
「またね、レオ」
私は笑顔でそう言った。……ここに来て初めて笑ったかもしれない。
「どうして、僕の名前……」
それと同時に私は魔法を使って、木の上に転移した。上からレオの様子を見下ろした。
レオは呆然と固まったまま動かない。ギュッと両手でぬいぐるみを力強く抱きしめている。
「彼が森の外に出れるようにしてあげて」
私が森にそう頼むと、どこからか青い小鳥が出てきた。
なんだ、動物いるじゃん。けど、やっぱり鳥か。
青い小鳥はレオの周りを一周した後にレオを導いていった。彼はおとなしく鳥について行く。
私はその小さな背中が見えなくなるまで彼を眺めていた。
「「「レオ!!!」」」
レオが森から出たらルーカ―、デュアル、ジョーが心配そうな泣きそうな瞳で彼を見つめた。レオがいなくなってとても焦っていたのだろう。彼らは一目散に彼に駆け寄って行った。
「無事だったのか!」
「良かった、心配していたんだぞ」
「どこも怪我はないか?」
皆の言葉にレオは何も反応しない。彼の頭は森の中で出会った小さな魔女のことでいっぱいだった。彼女の瞳、髪、声、笑顔、全てがレオを魅了した。幼いながらにも彼女の美しさを理解した。
「どうしたんだ、レオ?」
「何かあったのか?」
彼らがレオのことを覗き込む。レオはすぐに笑顔を作って答えた。
「ううん、なんにもない」
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