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甘い君は今日も私を愛でる  作者: 大木戸いずみ
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3.攻略対象と出会う

 生き返る~~~!

 泉に入った瞬間、体力と気力を吹き込まれた気がする。体全身にエネルギーがチャージされている。

「これって魔法?」

 私は壮大な空を見上げながら森のことについて考えた。

 森にこの泉を出すことが出来たということは、私はもう結構森との距離を縮められているのでは?

 けど、なんだろう。ここに来た時からずっと感じるこの森に対しての違和感。

「何が変なんだろう」

 私は泉の中で背泳ぎしながら頭を働かせた。

 静かだな~。本当に動物の鳴き声一つしない。……動物? そうだ、動物だ! 鹿とか熊とかに遭遇しない。

 勢いよく泉を出た。こんなところでくつろいでいる場合じゃない。

「動物達を見つけないと!」

 私は当てもなくただ走り始めた。泉に入ったことにより体力は回復していた。


 いない! どこを見てもいない! もしかして全滅したとか? あ、でも前に鳥が空を飛んでいるのを見た。ということは、存在しているが私の前に現れていないってことか。

「この森に入るなって父上が言っていたじゃないか」

「本当に魔女がいるか確かめてやろうじゃないか」

「そうだ、俺達のことを脅かす魔女を退治してやる」

「帰りたかったら帰っても良いんだぞ?」

 少年たちの声が聞こえた。

 どこ!? 人間? ヒューマン? ついに出会えた! 動物じゃなかったけど出会えたぞ。まぁ、人間も動物か。とにかく会って話してみたい。 ……けど、私を退治するとかなんとか言っていなかったか? 

 私は近くにあった木に物音を出来るだけ立てずに急いで登った。

「どこだろう」

 私は声がする場所を探した。

「なんだよ、いねえじゃねえかよ」

「こんなのただの脅しの森じゃねえか」

「呪われた森って程じゃねえな」

「早く帰った方が良いって」

 呪われた森? 道理で薄気味悪くて廃れていたのか! なんだ、このゲームが私の時代で廃れていたからだと思ったぞ。実は私はこのゲームを最後まで出来ていない。ハッピーエンドはヒロインになった時のお楽しみでとっておきたかったからだ。……ヒロインになれなかったが。

 このゲームが大好きだが、このゲームについては詳しくない。それに、魔女の幼少期なんてゲームにはなかった。どうして私は捨てられていたのか分からない。

「ねぇ、魔女の邪魔しちゃ悪いし帰ろうよ」

「全くお前は弱虫だな」

「これくらいでビビってんじゃねえよ」

「その可愛いウサギのぬいぐるみでも抱きしめておきな」

「それにしてもなんだか気味悪い森だな~」

 おい、失礼だな。森に謝れ。

 少年達の声が段々近づいてきている。もうすぐだ。もうすぐ出会える。

「お~、ちょっと広いところに出たぞ~」

「わぁ、本当だ。空気が新鮮だ」

「随分と奥まで入っちゃったけど大丈夫かな?」

「なんだただの森じゃねえかよ」

 うわあああああ! 目が溶ける。なんだあのキラキラ輝く少年たちは! 今の私と同い年くらいか? 

 あの煌めく眩しいオーラを放つ少年四人! サングラスが必要だ! 直視できないぞ。

 私の鼻息は興奮でどんどん荒くなる。じゃっかんよだれも垂れかけているが、そこは気にしないで欲しい。

「あれが……、攻略対象?」

 私が『王子と甘いKISS』にハマった理由は攻略対象達がぶっ飛んだ美形達で、声もイケメンボイス、そして何より人数が少なかったからだ。逆ハーレムを羨ましいと思うが、沢山の男に囲まれたいとは思わない。私は数人のイケメンに囲まれたいのだ! ヒロインよ! 私の代わりに思う存分……、いや、やっぱりヒロイン、ムカつくッ! 

 私は心の綺麗な女ではない。普通にヒロインが羨ましい。

 何も害を加えないし、虐めるつもりなんて全くないけど、ヒロインがどうして女子にまで好かれるのかよく分からない。女は男を好きになって、男は女を好きになるのなら、やっぱり嫉妬心なんて生まれて当たり前だろう。なのにどうしてヒロインは女からも男からも好かれるのだろうって考えてしまう私は悪役令嬢派なのかな。

「おい、何にもねえぜ~」

 あの威勢のいい少年はこの国、キャソン国の太子であるルーカー・ジョハネ。普通のハッピーエンドなら彼が後にヒロインと結ばれるはず……。あのキラキラと輝く金髪、晴れた空の瞳、そして凛々しい瞳、これは惚れるわな。

「おい、そのウサギのぬいぐるみを魔女に渡そうぜ」

 あの意地悪な少年はモルタル=ジョー。珍しい黒髪に、琥珀色の瞳、口が悪いが、優しい少年である。……ヒロインに対しては。

「それ、面白そうだな」

 そしてあの便乗したちょっと色気のある少年がデュアル・キュフマン。真っ赤なの髪に、深緑色の瞳、そう、彼は林檎の色だ。好きな食べ物はお酒の入ったチョコレート。嫌いな食べ物は林檎。見た目と中身はやはり違うのだ。

 彼は後にプレイボーイになるが、ヒロインと出会ったことにより一途に恋をする男の子になるのだ。

 くぅ~~、悔しいぜ。ヒロインになりたーーーい!

「いやだよ……」

 ギュッとぬいぐるみを抱きしめている一番小さい少年。王子よりも透明感のある少しくせっ毛の金髪に、薄い紫色の瞳をしている天使のような少年。あのクリッとした目、なんて可愛いのだろう。思わず守りたくなる。彼の名はレオ・イーレイ。レオ……、ライオンってキャラじゃないよね。

 彼はいわゆるショタの位置、つまり私の恋愛対象から除外される。私は年上の余裕のある男性がすきなのよね~。

 

 王子以外の皆は公爵のご子息様たちだ。

 この国は貴族にも位がある。ヨーロッパの爵位とあまり変わらないが、上から順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士。この世界には準男爵がなかったような気がする。

 ……ヒロインは平民だ。乙女ゲームあるあるの平民が王子に見初められるというお話。そこが素晴らしかったのだが、今魔女の立ち場から言わせてもらえばそんなに良いとは思わない。

 王子がヒロインから刺激を受けるのも当たり前だろう。今まで貴族の女としか会ったことがなかったのだから。ヒロイン以外の平民にもチャンスを~! って魔女にはないか。

「だから早くこのウサギ、ここに置いていこうぜ」

「レオ、お前も男だろ、強くなれ」

 ジョーとルーカ―がレオを虐めている……のかどうか分からないが、とりあえず、レオが可哀そうだ。大きな瞳が今にも泣きそうだ。

 ここはお姉さんが助けてやろう。まぁ、お姉さんじゃないんだけど。この世界のことで覚えているのは、ヒロイン、悪役令嬢、攻略対象、そして魔女、全員が同い年だということだ。だから、彼らが何歳かを知ることが出来れば私は自分の年齢をしることが出来る。

 どうしてここまで同い年にしたのかは謎だ。そこは運営に問い合わせしてくれ。

「お? 泣くのか?」

『風よ、彼らを軽く威圧しろ』

 私は心の中でそう唱えた。

 すると森一帯に激しい風が吹いた。一気に荒々しい森に変わった。少し不気味な木々が揺れ動き、まるで怪物みたいだ。

 なんという圧迫感! まさか森と意思疎通出来るようになるなんて! ……いや、最初から出来ていたのかもしれない。森の方が私に対して心を開いていなかっただけで。

「なんだ!?」

「魔女が怒ったんだ!!」

 少年たちは恐怖の表情を浮かべて逃げ出し始めた。

「待って」

 レオも震えながら必死に彼らの跡追う。

 ……これってもしかして脅かしたことによりもう誰もこの森に近づかないんじゃ……、何やってるんだ! 私の馬鹿ああああ! 今から弁解しても余計に怖がらせてしまいそうだ。

 私はかなりのショックに首を垂れた。

 地面に何か落ちているのが見えた。あれって……あれって……。

「ウサギ、忘れてるじゃああああん!」

 結局私に献上しているじゃない。急いでレオを追いかけないと。

 私は木から飛び降りて、ウサギのぬいぐるみを抱えながら走り始めた。

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