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甘い君は今日も私を愛でる  作者: 大木戸いずみ
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2.森と私

「……どこ、ここ」

 目覚めた場所は薄暗い森の中だった。

 なんて不気味なんだ。こんなところに一人なんてなんとも可哀そうなヒロイン……。ヒロイン? 私は本当にヒロインになれたの? 私の知っている始まり方と違う。ヒロインは町でばったりお忍びで来ている王子と会うんだ。そのはずなのに、ここは森? 木々が私の何倍も大きい。……私が小さいのか?

 まさか……、小人になったとか? 私の逆ハーレムライフは何処へ。

 小川の音が聞こえる。ああ、なんだか心地いい音だな。って癒されている場合じゃない。自分の外見を確認しないと。お願いします、ヒロインの幼少期でありますように。私は胸にそんな思いを抱えながら小川の方へ向かった。

 そっと水面に映る自分の姿を見る。

「……ヒロインじゃなあああああい!!」

 私の声に驚いたのか木々にとまっていた鳥たちが一斉に空を乱舞した。私の声が森全体に反響する。

 ヒロインじゃないなんて。私は一体なんの為に転生したんだ? 

 私はもう一度水面に映る自分を見つめた。何度見たところで変わらない。『王子と甘いKISS』に出てくる黒髪で目が蒼色のヒロインとは似ても似つかない。

 かといって、悪役令嬢でもない。私は誰だ? まさかのモブ!? いや、けど私から醸し出されている雰囲気的に主要メンバーな気がする。私がそう信じたいだけかもしれないが。

「死体のような真っ白い肌に、ベージュ? このクリーム色のストレートの髪、そして翡翠色の瞳、どこかで……」

 嘘でしょ。私……、この世界の魔女に転生したの!?

 夢に見た転生とあまりにもかけ離れていて気絶しそうだ。まさかのこの世界で最も強いと言われている魔女リオンの幼少期に転生するなんて。

「そういえば、最後に神様、りっおって言っていた気がする。私が噛んだあの時……」

 それでリオン? あんなにヒロインが良いって主張していたのに、魔女にしたの? 

 もう私はイケメンと接触する機会がなくなったというわけか。

 ……魔女リオンは物凄い美人になる。今実際自分の外見を確認したが、かなりの美少女だった。目はくっきりはっきりと凛々しく、将来この瞳に色気が加わるのかと思うと、にやけてしまう。誰でも虜にできそうだ。

「美人だけど、私はヒロインじゃない」

 ああ、口出せば悲しさ倍増だ。

 ……どのみちもう元には戻れない。これから私は魔女として生きていくしかないのだ。薄気味悪い森の中で独りぼっちって、虐めかなにか?

「魔女は隔離させられてたんだっけ? じゃあ、イケメンどころか普通の人間とも接触していないってこと?」

 カーカーと不気味さを増すような烏の鳴き声があちこちの方向から聞こえてくる。

 私は自分の身なりを見た。ボロボロの今にも破れそうな服を着ている。

「私、これからどうすればいいのよ!」

 ……叫んでも何も変わらない。自力で生き延びなければならない。経験値だけは並じゃない。もうヒロインになることは諦めよう。その代わり魔法を使えるようになった。これを活かして存分に今の人生を満喫しよう。

 私は足を前に進めた。


 どんなけ歩き続けてもずっと同じような景色だ。

「う~ん、出口はどっちなんだろう」

 私は顎に手を置きながら考えた。

 私は森に捨てられた魔女。きっと何か理由があるはず……。森と友達になれ、とか? いや、そんなファンタジーライフはない……ってこともないか。暫くの間は森と心の距離を縮めないといけないってことか。よしッ! そうと決まれば早速作戦開始だ。


〈作戦1 大声で勧誘〉


「森さーーーん! 元気いいいぃぃぃぃ!? 私は優しい魔女だから友達にならないかーーい!」


 変なセールスより怖い。前の世界でこんなことをしたら秒でお巡りさんがやってくる。頭のおかしな奴だ。

 森は返事を全くしない。葉っぱぐらい軽く揺らしてくれてもいいのに、一ミリも動かない。……もしや、私嫌われてしまった? いやいや、まだそうと決まったわけではない。私と森の交渉は始まったばかりだ。


〈作戦2 ダンスを披露〉


「さぁ、一緒に踊ろう。私と共に、タラララーン。シャルウィーダンス?」


 駄目だ。無反応。なんだかむなしくなってきた。二日間森に呼びかけて、ダンスに誘うのは今日で三日目、ということはここに来てもう五日が経とうとしているのか。何も起こらない。けど、少し前までの森の不気味さはなくなったような気がする。少し森全体が明るくなったような……、私の勘違いかもしれない。とりあえず、今は森と友達になることを考えよう。

 ダンスは、ブレイクダンスが出来る。男子大学生だった頃、ダンスサークルに入っていた。そこで私の才能が見事に開花したわけだ。けど、こんなごつごつした地面でブレイクダンスは出来ない。折角披露しようと思ったのに……。

 この森はブレイクダンスよりもバレエが好きそうだ。私と気が合わないから冷たくされているのかもしれない。ダンスに誘う作戦は失敗だな。


〈作戦3 助けを求めてみる〉


「ああ~、お風呂に入りたい。水につかりたい。何か美味しい者が食べたい」


 実は私、ここ数日間とても原始人的な暮らしをしていたのである。まず、食べ物は草か木の実。そして、樹液か小川の水を飲んでいた。

 そこで気付いたことが一つある。この森、暗く不気味なだけでなく、気が弱っている。枯れた葉、腐った枝、殴ったら砕けそうな幹。『王子と甘いKISS』に出てくる森ってこんなに廃れていたっけ?

 ……廃れる? ちょっと待って、まさかこのゲームが私の世界で随分古いもので廃れていたから、この世界でも廃れているってこと!? そ、そんなわけないよね? だって、ここは煌めく美しい異世界のはずだもん。森を出たら、必ずあっと驚くような世界が待っている……のか? ああ、期待するのはやめておこう。

 とりあえず、私は助けを叫び続けたが、森は何も反応しなかった。


〈作戦4 脅す〉


「おい、こらぁ森さんよ~~~! 何無視してくれてるんだよおおおお。友達になったらただじゃおかねえぞ!? ああ? 覚悟はできてんのか?」


 なんか、違う。脅し方が間違っているような気がする。

 けど、本当にこのままだと病気になって死んでしまいそうだ。今の私の状態は健康的な生活とは程遠い。生命力がなくなるってこういうことをいうのか。そういえば、魔女って魔法が使えるはずだけど、どうやって使うんだ? 

 ああ、チョコレート食べたい。頭が回らない。死ぬ。

 そんなことを考えながら私はその場で倒れこんだ。立っている気力と体力ももう限界だったみたいだ。私、またこのまま死ぬのか? この世界で何もしていないのに? 想像していた形と違うかったけど、ようやくこの世界に転生出来たのに? 踏ん張れ私、こんなところで易々と死んでたまるか。

「偉大なる大地の母、私に力を下さい。泉よ、私の前にいでよ」

 気付けば口が勝手に動いていた。

 そう言った瞬間、目の前に眩しい光が広がった。地面から大きな輝く光が放たれている。あまりの眩しさに私は目を瞑った。

 暫く経った後に目をそっと開いた。

「……泉」

 自分の目を疑った。私の目の前には大きな泉が広がっていた。その泉からはとてつもない生命力を感じられた。太陽の光が反射して水面がキラキラと煌めいている。

「凄い、まるで生きているみたい」

 私は服を着たまま泉の中にダイブした。

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