17.悪口
廊下を歩きながら自分が言われている悪口について考える。
男好き、調子に乗っている、目障り、という主に三つの悪口を私は言われているらしい。まぁ、この見た目だとそれぐらいのことは言われるのかと納得してしまう。
……魔女も大変だなぁ。
別に何も思わないし、むしろ……、悪口を言われるなんてヒロインと同格じゃないッ!? これで私も一人前! とか思ってしまっている自分がいる。
噂ではそんな噂をレオがもみ消しているとかなんとか……。
魔女ってまだバレていないのに、こんなに悪口を言われているってことは多分主犯がいるはず。誰かが私のことを邪魔に思っている。
問題は、その犯人像が全く浮かんでこないのよ!
「分かっていることはレオのこと想っているぐらいだよね」
私の悪口を言いたいのは、きっとレオが私のことをとても気にかけているから。
「誰が僕のことを思っているの?」
いきなり後ろからひょこッと小さな天使が現れる。
うっっっっわ、びっくりした……。心臓に悪い。
「レオ、いつからそこにいたの?」
「リオンを見かけて、追いかけてきたんだ」
相変わらず眩しい笑顔だ。
「それより、補習どうだった?」
そう、私はあまりの成績の悪さに特別に補習授業を受けているのだ。
「やっぱり、難しい。森からいきなり教育を受けるって、狼少女にいきなり人間になれって言っているようなものよ」
「面白い例えだね。けど、リオンなら出来るよ!」
「だといいけど……」
「今日、中庭でお茶会の日なんだけど、リオンも来る?」
「いき……」
行きたいと即答しそうになった口をグッと閉じる。
お茶会に行けば、必ず私のことを悪く言っている人間に会う。誰か分からないけど。
悪口を言われるのは別に痛くもかゆくもないけど、もしかしたら、レオに迷惑をかけてしまうかもしれない。こういう場合お茶会に行くと、私が何かしら嫌味を言われて、それを庇うのはレオだ。
その前に私が言い返せればいいんだけど、そこまでのスキルが私にあるのかどうか……。
「どうかしたの?」
不思議そうにレオが私のことを見ている。
私を庇ったなんて理由でまたレオの評判を下げてしまうのは申し訳ない。可愛い天使を傷つけるわけにはいかないのだ!
「もしかして、行きたくないとか?」
「……ねぇ、レオ」
「ん?」
「もし私に何か嫌がらせがあっても何もしないでね」
「なんで?」
「なんでって、私、この学園で嫌われつつあるの知ってるでしょ? そんな人間を構うなんて」
「何か悪いことしたの?」
レオが私の言葉に被せるようにそう言った。その声はいつもより低く、思わずゾッとする。
「別に何もしてないよ」
「なら、堂々としてればいいんだよ。……違うか、堂々と僕に守られていたらいいんだよ」
いつものレオの声に戻る。
堂々と守られるって、どこぞのか弱いプリンセスなのよ! 私、かなり強い魔女なはずなのに!
まぁ、魔女ってことは知られたらダメなんだけど。
『リオン、愛されてるね~』
『ラブラブだ~!』
『僕らもリオンのこと守ってあげれるもんね!』
『いつでもリオンの味方だもん』
妖精達が騒ぎ始める。
なんていい子達なの! 私も妖精達になにかあったら絶対に守ってみせるからね!
「リオンの心配事もなくなったし、お茶会に行こうか」
レオは笑顔でそう言って、私の手をギュッと掴み、裏庭の方へ足を進める。
……レオの手ってこんなにたくましかったっけ?
五年前は何の苦労も知らない綺麗な子どもの手って感じがしたのに。こんなに可愛くてもやっぱりレオは男の子なんだな、と実感する。