14.学校案内
制服に着替えて、レオに学校を案内してもらう。
あ、ああ、ああああああ! 言葉に出来ないッ!
私が何個か前の前世でずっと見てきた乙女ゲームの中だ……。この無駄に廊下に、窓の園から見える手入れされた庭、巨人が入ってきても安心安全のこの高い天井!
この校舎の費用でビバリーヒルズでいくつか家が買えそうだわ。魔女は貴族なんかじゃないのに、こんなに贅沢な場所に通ってもいいのかしら。
「リオン、目がキラキラしてるね」
「こんな綺麗な校舎生まれて初めて見たもの! なんて素敵なの!」
「……そっか」
レオは少し固まった後、口を手で覆ってそう答えた。
『僕の好きな人、可愛すぎない!?』
妖精! 勝手にレオの声をアテレコしないで。
『こんな素直に喜ばれたら、惚れちゃう要素マウンテンゴリラだね』
『これはもう落ちましたな』
世間の可愛い妖精のイメージ壊さなであげて! それ以上喋らないで!
私が変な言葉を教えたみたいになるじゃない。それに、妖精の声はレオに聞こえないから、彼らを注意したら私が変な女だと思われる。レオにそんな印象を与えたくない。
『レオはもうとうの昔に落ちてるよ!』
ああ、もう恥ずかしい。なんで私だけが恥ずかしい思いをしないといけないのよ。
「リオン? 大丈夫? 顔赤いよ」
レオが私の顔を除く。薄紫色の瞳がキラキラと輝いていて眩しい。……サングラスいるわ。
「大丈夫。ちょっと考え事してて……。私、どこに住めばいいんだろうって」
「ここ全寮制だよ」
「え? そうなの? けど、私、持ち物とか教科書とか」
「大丈夫、もう部屋は確保したし、そこに全ての準備を整えているよ」
レオがニコッと私に微笑む。
……仕事早すぎない? 課長に「定時で帰ります」って言っても承諾してくれるタイプの人間だ。残業なしの出来る男!
「なんか、私、何から何までレオに頼っているような気がするわね」
「リオンは僕にもっと頼っていいんだよ」
「それは頼もしいわね」
「なんなら僕がいないと何もできないくらいになってもいいんだよ」
なんか今更ッととんでもなくことを言ったように思ったけど、無視しておこう。
純粋な心からきた言葉だと思……えないよね! 今のはなかなかの言葉だったよね!
そして、それにどうして私はこんなに心臓がバクバクとうるさくなっているのか。……ショタにドキドキする魔女ってどうよ!
きっと引かれる。世間に殺される。不審者と変わらない。
だって、私の外見は年齢よりも年上に見えて、レオの外見は年齢よりも年下に見える。あ~あ、そのうち、私がレオの心を弄び、たぶらかしているって言われるんだろうな。
色っぽい魔女もなかなか過酷な人生ですな!
「……そう言えば、私、なんで入学できたの?」
「リオンが可愛いから上もすぐに承諾したんだよ」
満面の笑みでそう言ったレオを見て、察した。
多分、レオはその可愛い天使のような顔を使って彼らを脅したに違いない。傍から見れば本当にただの愛おしい回答かもしれないけど、私は彼が計算高いことを知っている。
「レオがそこまでしてくれる理由が分からない」
「何回言えば覚えてくれるの? 僕はリオンのことが好きなの」
そう言って、レオは少し頬を膨らます。
……が、がわいい。
あざといけど、全然許せる。むしろ、拝みたい。なんだ、この可愛い生き物は。これを可愛いと思ってもらえるだろうと計算した上でこの顔をしているのなら、私はまんまとその罠に落ちている。
「け、けどさ、なんで私なの?」
それがずっと謎なんだよね。
正直、ヒロインのほうが可愛いし、愛嬌もある。レオとは数回しか会ったことがない。私をいつまでも好きでいられる一途さがよく分からない。私は別にレオに恋愛感情を抱いているわけじゃない。それなのに……、やっぱり初恋は特別なのかな?




